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青作戦⑤

【1942年11月25日 ソビエト連邦 ヴォロネジ 南西戦線軍司令部】


「ハリコフ=ベロゴルド攻勢」と命名されたハリコフ地区への攻撃作戦は堂々たる機動包囲作戦であった。


南東部と北東部からの同時攻撃によりハリコフ地区での二重包囲を展開、捕捉したドイツ軍兵力を破砕する。


北東部では第一梯団(第28軍、第21軍)がドイツ第17軍団作戦区域の幅15キロの範囲に12個狙撃師団、4個戦車旅団を集中。

突破口の確保後、第二梯団(第38軍、第3親衛騎兵軍団)が啓開を開始し、北からハリコフの背後に回り込む。


南東部では第一梯団(第6軍)がドイツ第8軍団作戦区域の幅12キロの範囲に8個狙撃師団、6個戦車旅団を展開。第二梯団(第21戦車軍団、第23戦車軍団、第9軍、第57軍)が北東部から啓開する第3親衛騎兵軍団との合流を目指す。

また、ドイツ軍作戦予備を抑える側面援護兵力として第6騎兵軍団が投じられる。


十分な兵力と十分な準備期間があれば大きな成果をあげられたかもしれない。

それだけに、南西戦線軍司令官チモシェンコ元帥はやりきれなかった。


「現時点で攻撃配置につけた砲兵連隊は43個中17個です。弾薬備蓄も必要量の三割にすら達していません」


「やむをえん。師団から火砲を引き抜いて軍にまわせ。第一梯団の突破範囲に全ての火砲を集中させるのだ」


作戦参謀の報告にゲンナリしながらチモシェンコは兵力を再整理していく。

火砲の数が足りない以上、師団砲兵を取り上げて、軍砲兵の火力を底上げするしかない。全ての砲兵連隊を軍直轄砲兵として再編成、突破範囲に集中させることで、局地的な優勢を獲得する。

赤軍は依然として火星作戦の莫大な損失から立ち直れていない。

各軍、各戦車軍団は戦力回復が未完のまま投じられることになった。加えて泥濘が部隊の移動だけでなく前線拠点の設営まで妨げている。

第一梯団はなんとか配置を完了させたが、第二梯団の大半が今だ攻撃開始地点に移動中である。


「第3親衛騎兵軍団だけは今日中に配置につけるそうです。ですが、第38軍の配置完了は作戦開始日の3日後。南東部方面だと作戦開始日の2日後に配置が完了する第21戦車軍団が最短となります」


チモシェンコは何度も作戦の延期を進言したが、最高総司令部からの返答は「期日通りに実施せよ」の一点張り。作戦参加部隊の半分以上が配置についていないという異常な状況で明日には作戦を始めなければならない。

ここまで粗雑でいい加減な作戦は戦史に詳しいチモシェンコでもきいたことがなかった。


「南部戦線軍の状況はどうだ?期待できそうか?」


南部戦線軍は南西戦線軍が北ドネツ(ハリコフ地区)への攻撃を実施する際、南ドネツに布陣するドイツ第十七軍の妨害を防ぐために、配置された。

設立から日が浅い影響で南部戦線軍司令部は麾下部隊との通信連絡確立に手こずっている。


「今だ通信連絡線が確立されていないそうです。戦力としては使えないと思われます」


友軍の支援も期待できそうにない。朗報といえるのはドネツ河が例年よりはやく凍結したことぐらいか。

ドネツ河に追い詰められて皆殺しという事態は避けられそうだ。



1942年11月26日。

北東部の橋頭保から出撃した第28軍、第21軍が攻撃を開始。第二次ハリコフ会戦の火蓋が切られた。

幅15キロの突破範囲に11個砲兵連隊分の一斉射が降り注ぐ。一通りの破壊を終えると戦車旅団を先導役として、各狙撃師団群が突撃を開始した。

第一梯団はドイツ第8軍団の師団境界線を的確に突いた。急所をえぐるような一撃で、第一梯団は突破口の確保に成功。

チモシェンコはすかさず第二梯団の第3親衛騎兵軍団を突破口に投じた。


ドイツ第六軍司令官フリードリヒ・パウルス大将は第23装甲師団といくつかの装甲擲弾兵連隊に反撃を命じた。第3親衛騎兵軍団の攻撃は効果的に阻止され、空でもドイツ軍が反撃を開始していた。

第8航空軍団は全戦力を展開して北部での局地的な制空権を確保すると、戦爆部隊の精鋭を投じて活発な地上攻撃を開始。

兵站拠点や砲撃陣地、移動中の自動車化部隊を徹底的に叩き、赤軍の進撃を阻害した。


チモシェンコは南東部に投じる予定だった全ての支援航空隊を北東部に差し向けた。

赤色空軍の猛反撃によりドイツ空軍は北東部での航空優勢を失ったが、代わりに南東部の赤軍攻撃部隊は全ての航空支援を失うことになった。


作戦開始から二日目。南東部で攻撃を開始したソ連第6軍が突破に成功。機動予備の第6騎兵軍団がドイツ軍後方を遮断すべく、啓開を開始した。

同軍団は1日に15キロのペースで前線を押し上げたが、ドイツ軍砲兵の反撃を食らうと、航空支援の欠如が災いし、止まらざるをえなかった。


作戦開始から五日目。赤軍はようやく全ての部隊が攻勢に参加。ドイツ軍は予定していた撤退行動を開始し、戦場は西方へと移動した。

南北から包囲機動を繰り返す赤軍に対して、ドイツ軍は巧みな機動戦闘で合流を阻みつつ、西方への誘導を続ける。


赤軍を西方へ引き付けた段階で、いよいよ南ドネツに展開していた第48装甲軍団が北上を開始した。

本来なら打撃部隊である南西戦線軍支援のため、南部戦線軍が拘束部隊としてこの動きを止めなければならない。

しかし、同戦線軍は通信上の問題から麾下部隊を動かせなかった。

おかげでドイツ軍は南ドネツ方面から自由に兵力をもってこれた。


チモシェンコがこの動きに気付いた時、第48装甲軍団の脅威は目と鼻の先に迫っていた。

彼は急いで攻撃部隊に部署した戦車軍団を引き抜き最優先で迎撃を命じた。


「すぐに第21戦車軍団、第23戦車軍団を差し向けろ!全攻撃部隊はその間に撤退を開始するのだ!」


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