青作戦②
【1942年10月16日 第三帝国 ベルリン 陸軍参謀本部】
「・・・国内予備軍からの報告は以上となります」
国内予備軍から派遣された兵站将校の報告に作戦主任参謀が頷く。
「計画の修正が必要だな」
陸軍参謀本部の初期計画は兵站上の問題で破棄せざるをえなかった。
当初、参謀本部が提出した青作戦は三段階に分かれていた。
第一段階でドン河以西、以北の赤軍を包囲殲滅する。
第二段階でスターリングラードを占拠して、石油搬送路を断つ。
第三段階でバクー油田を含めたカフカス油田地帯を奪取する。
作戦目標は赤軍野戦兵力、スターリングラードなどの交接点、油田地帯の三つ。
戦略目的はソ連から戦争遂行能力を奪うこと、そして、帝国の抱えるエネルギー問題を解決することの二つ。
割り当てられた作戦目標を全て達成するには、兵站能力の限界を超える大兵力が必要になる。
「これだけの大兵力で迅速な機動戦など不可能だ。支援車両の車列で大渋滞しかねん。装甲師団・装甲擲弾兵師団、機械化支援部隊、そして占領地を守る最低限の歩兵師団さえあれば十分だと私は考える。機械化してない歩兵など進撃と補給の邪魔にしかならん。削れるだけ削ろうではないか」
作戦主任参謀の言葉に皆が同意を示す。南方軍集団だけで32個歩兵師団を擁し、そこにイタリア第八軍の7個歩兵師団(3個は山岳師団)、ハンガリー第二軍の4個歩兵師団、ルーマニア第三軍の4個歩兵師団、スペイン青師団の3個歩兵師団、スロバキア派遣軍の2個歩兵師団、クロアチア義勇軍の2個歩兵師団、ウクライナ義勇軍の1個歩兵師団が加わる。鈍重な兵力を55個師団も抱えられるほど、兵站に余裕はない。
「同盟国兵力は快速兵力だけを引き抜き、残りは後方補給路を守らせてはいかがです?」
「うむ。イタリア快速軍団と若干の自動車化師団を引き抜ければそれでいい」
「作戦目標も縮小すべきだろう。目標はドン河の赤軍兵力殲滅に限定し、アストラハンを目指す」
陸軍参謀本部主催の戦略会議には参謀本部、南方軍集団司令部、国内予備軍司令部、装甲兵総監部、砲兵総監部からの代表者達が集まっている。各代表が次々と発言し、南方軍集団参謀長が発言を終えると、装甲兵総監部から派遣された女性の参謀少佐が発言を求めた。
「発言よろしいでしょうか?」
「どうぞ。ハーネ少佐」
装甲主任参謀のアリス・ハーネ少佐は席を立つと発言を始めた。
「装甲兵総監部よりの意見を申し上げます。第一に我々が破砕すべきなのは敵兵力ではなく、敵の指揮能力そのものだと具申至します」
ハーネ少佐の提言をまとめると以下のようなものだった。
・経済的・政治的要衝を奪取することでソ連の戦争遂行能力そのものの破砕を目指す。
・敵兵力の殲滅は戦術目標に降格。作戦目標達成の一過程とし、障害となる敵兵力のみを排除する。
・上記の作戦目標、戦術目標達成には装甲兵力による機動戦を用いる。機動戦を最大戦速で実施することで、敵の対処能力を麻痺させる。機動戦における麻痺・混乱は作戦、戦術両次元において有効である。
・上記の機動戦を実現するため、軍司令部指揮系統から完全に独立した特殊任務用機動部隊の編成を提言する。
・上記の独立機動部隊の任務は敵縦深の後方へ浸透することで、混乱を誘発。増援を妨害し、戦術的枢要部を抑え、敵の有効な反撃を封じる。
・独立機動部隊は敵拠点や敵部隊との戦闘をなるべく回避。主力攻撃部隊から先行して動き、独立した指揮系統と補給体系を持つ。
上の提言を踏まえて装甲総監部がたてた作戦案は以下の通り。
第一段階で西の攻撃開始地点ロストフからカフカスへ独立機動部隊が出撃。ステップ地帯の街道をまっしぐらに南下して、コーカサス北部のマイコープ油田、グローズヌイ油田を脅かす。
電撃的な侵攻により、赤軍の対処能力を麻痺させる。
第二段階で北の攻撃開始地点オリョールから主力機動部隊が攻撃開始。ドネツ河とドン河の間に位置するドネツ回廊を経由して、作戦目標スターリングラードを一気に奪取。
ドン河における赤軍兵力を包囲する。
スターリングラードを選んだ理由はソビエトの経済上の弱点に存在する。バクー油田からの輸送は、ごく限られた搬送路に依存している。
ヴォルガ河の水運を利用するルート。
スターリングラードの鉄道網を利用するルート。
カスピ海を利用するルート。
主要なルートは三つしかなく、スターリングラードを獲ればカスピ海ルートを除く二つのルートを断ち切れる。
カスピ海ルートを断ち切るにはアストラハンの攻略が必須であるが、距離的な問題で迅速な作戦が不可能なため見送られた。
「・・・作戦が成功すればロストフとスターリングラードというカフカス地方の入り口両端を我々が支配し、中央ロシアとの補給・連絡を断ち切れます。また投入兵力、作戦目標、作戦範囲を縮小させることが可能で、兵站上のリスクを大幅に解消できます」
装甲兵総監部は装甲兵力の運用面でも大きな発言権を持つ。装甲兵総監の代理人たる装甲主任参謀の発言は重い。
作戦規模の縮小を求めていた参謀本部や国内予備軍の意向と一致していたこともあり、参謀たちは次々と同意を示した。
作戦部長ホイジンガ―少将は参謀たちの意見をまとめた上で会議を締めくくった。
「我々は作戦規模の縮小という点で一致をみれた。今後はこの共通認識を踏まえた上で作戦の再調整を行う。以上を持って本日の会議は終了とする」




