青作戦①
【1942年10月2日 第三帝国 ベルリン 陸軍総司令部】
「今、手負いの熊を放置しては食い殺されるのは我々だ!」
ヒトラーの鶴の一声で1943年度方針は攻勢に決まった。
『青作戦』は総統命令として正式に発令される事が決まり、帝国の全軍事機構が攻勢にむけフル稼働を始めている。
帝国の決定は同盟国にも伝えられ、すでにイタリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、ユーゴスラビア(クロアチア)が作戦への参加を表明した。
個人的には反対だが、決まった以上なんとしてでも成功させなければならない。東部戦線の転換点として後世の歴史で語られるような事態は避けたい。
俺は自ら後方主任参謀に志願し、ハルダ―参謀総長と連日、兵站計画について話しあっている。
史実における失敗の最大要因はなにか?と聞かれれば迷わず兵站と答える。
杜撰な兵站計画が電撃戦を止め、スターリングラードの逆転劇をもたらしたからだ。そこで今回は具体的な作戦計画には関わらず、兵站計画のテコ入れに重点をいれることにした。
どっちにしろ攻勢に反対した俺に作戦計画の中心に参画できる立場はない。
参謀本部のたてた作戦計画を基に兵站計画を立案し、補給を担う国内予備軍、国防軍兵器局に必要量を伝えるのが今の俺の仕事だ。
対立しがちな作戦屋と補給屋の調整役ともいうべきか。
「現状の補給線では必要物資量を届けられません。鉄道線の拡充が必要になりますハルダ―将軍」
現状、攻撃開始地点となるロストフへの補給線は一本しかない。
物資集積地のワルシャワから出発。鉄道交接点のブレストを経由し、ドニエプル河下流域の渡河地点ドニエプロペトロフスクからロストフへと続くか細い一本。
これが、南方軍集団を支える唯一の生命線だ。
複線化した鉄道線一本で1日に運べる物資の総量は1万2500トン~1万3000トン(通常の鉄道線は4000~5000トン)。
南方軍集団(68個師団)が1日に必要とする量は2万5600トン。しかも、予定ではイタリア軍、ハンガリー軍、スロバキア軍、ルーマニア軍、スペイン義勇軍が加わり、必要量はさらに増加する。
つまり、南方軍集団を養うにはあと最低でもあと2本の鉄道橋と2本の鉄道線が必要になる。
ドニエプルの渡河地点(鉄道橋)は5か所。その中から最も補給幹線に近いルートを選ぶ。
「候補としてあげられるのは北のキエフと南のヘルソンです。キエフから鉄道交接点のクルスクを経由して、南のハリコフへとむかうルート。そして、ヘルソンからクリミアを経由して、メトリポリからロストフへむかうルート。この二つの鉄道線を改軌すれば、最低限の物資は届けられるでしょう。ただし、ヘルソンルートはクリミアの攻略にかかっています」
キエフルートはザイドリッツ作戦の際に改軌を完了させたキエフ~クルスク~ハリコフのルートを流用できる。ハリコフからロストフの一線を改軌すれば完成だ。
問題はヘルソンからクリミアを経由するルートだ。
史実だと1942年秋には陥落したクリミアだが、こちらの世界では依然として抵抗を続けている。
ザイドリッツ作戦用に火砲を集積した結果、要塞攻略戦が遅れたのだ。
「クリミアを落とせば黒海を使えるのではないか?海上輸送が可能になれば補給状況は劇的に改善するのだが」
「ケルチ地峡を機雷で封鎖されると手も足もでません。クリミアを落としても敵の黒海艦隊が健在な限り補給は安定しないかと」
黒海における枢軸側の洋上戦力はルーマニア海軍に依存している。
ルーマニアの戦力ではソ連黒海艦隊を追い出すのは難しく、海上からの補給は現実的ではない。
史実と違ってロストフは確保できているので、キエフ経由の北方ルートを使えば不足分の大半は補える。
キエフルートはオリョールにも接続しているので、モスクワの補給所にもアクセスでき、完成すれば、ドニエプロペトロフスクルート以上の補給幹線になる。
無理して海上補給にこだわらなくても、ヘルソンルートでキエフルートで補えない部分を補完できれば十分だ。
「東部における装甲師団・装甲擲弾兵師団を総動員することになります。第ニ装甲軍の第20装甲師団、第2装甲師団、第4装甲師団、第8装甲師団、第12装甲師団、第18装甲擲弾兵師団、第60装甲擲弾兵師団、第10装甲擲弾兵師団。第四装甲軍のグロスドイッチュラント装甲擲弾兵師団、第3装甲師団、第9装甲師団、第11装甲師団、第3装甲擲弾兵師団。武装親衛隊の第1SS装甲師団、第2SS装甲師団、第5SS装甲師団。これだけの装甲兵力を一度に動員するのはバルバロッサ以来でしょう」
現時点で15個装甲師団・装甲擲弾兵師団の参加が決まっている。
15個のうちグロスドイッチュラント装甲擲弾兵師団、第3装甲師団、第24装甲師団、第18装甲擲弾兵師団は重師団編成であり、これだけで戦車1026両、自走砲810両に達する。
さらに通常編成師団の戦車1551両、自走砲675両が加わり、総計戦車2587両、自走砲1485両。
バルバロッサ作戦に投入された装甲兵力を凌駕する数であり、全装甲兵力の74%が投入されることになる。
この大機甲兵力を支えるために8万4000両の後方支援車両、17万頭の軍馬が集められたが、国内予備軍司令部からの報告によると必要量の7割程度にしか達してないという。
必要とされる燃料、飼料、弾薬、装備品、修理用部品、食料、衣料、工業資材も膨大な数に上る。
物資の必要量を国内予備軍の連絡将校に伝えた所、「無茶を言うな!」と怒鳴られてしまった。
各軍管区は陸軍倉庫、陸軍分倉庫の備蓄を吐き出してはいるが、必要量の半分も揃えられていない。
「国内予備軍は作戦計画の縮小を求めています。計画の修正が必要かと」
「・・・作戦課に再検討させよう。だが、期待はするな」
補給を重視するということは作戦規模を縮小し、参加兵力を縮小し、撃破目標を縮小することでもある。
作戦の根幹すら変質してしまう可能性もある。
古今東西の参謀が兵站を嫌がるのはある意味仕方がない。
ハルダ―将軍の言う通り作戦課が簡単に引き下がるとは思えなかった。
ただ、こういう時に補給を無視して作戦を強行したり、参加兵力は縮小したのに撃破目標を縮小しなかったりすると、とんでもない惨劇が待っていることが多い。
気は進まないが、今後は作戦課とも国内予備軍とも激論をかわさなければならないだろう…




