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ミンスク・ケッセル③

【1941年5月27日 ソビエト社会主義共和国連邦 白ロシア社会主義共和国 第十八機械化軍団】



「第四戦車中隊と通信途絶っ!我が大隊にはもはや第三戦車中隊の五両しか残っておりませんっ!」


「第三戦車大隊から緊急連絡っ!大隊長以下全ての戦車長が戦死し、戦闘不能とのこと!」


「第ニ戦車大隊指揮車両が被弾!大隊長ボリス中佐戦死っ!」


森林道に入った瞬間、樹木線に潜んでいたドイツ軍の奇襲がはじまり、あたりは一瞬にして地獄と化した。

森林地帯に潜んでいたドイツ軍戦車部隊は赤軍戦車部隊をやり過ごし、後方の随伴する機械化歩兵部隊に猛虎のように襲いかかっていく。

機械化歩兵の足となるハーフトラックが次々と榴弾砲で叩き潰され、歩兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。足を奪われた歩兵など戦車の餌食でしかない。片っ端からうち倒されていく。


そして先を進んでいた赤軍戦車部隊も逃げ場のない森林地帯で砲兵部隊と戦車部隊の待ち伏せ攻撃を受けていた。

巧妙なドイツ軍の十字砲火にからめとられ、虎の子の戦車が次々とスクラップに変えられていく。

すでに半分以上のロジーナ(T34)が砲撃で撃破された。あたりには砲塔をふっ飛ばされ、炎に包まれた残骸が30両近く転がっている。KV2重戦車も88ミリ高射砲の水平射撃には無力でしかなく、その鈍重さが仇となり一方的に爆砕された。


「軍団長!撤退しましょう!」


「だめだ!せめて一矢むくいるのだ!刺し違えてもかまわん!」


わずか一個装甲師団に壊滅させられ、なんの戦果もないとなってはヴァ―ニンに未来はない。ヴァ―ニンの脳内を支配していたのは合理的な戦術判断ではなく、死の恐怖からくる狂気とパニックだった。

撤退を促す部下の進言も各部隊から届く悲劇的な戦況も彼の耳には届いていない。


そして彼は自身の指揮車両を狙っていた四号戦車の存在にも気付かなかった。

音速の質量兵器と化した徹甲弾がヴァ―ニンの乗る指揮車両にすいこまれていき、炸裂した爆炎が搭乗員もろとも全てをふきとばした。


他のルートを進んでいた部隊も同様の待ち伏せ攻撃を受けて壊滅しており、わずか三時間の戦闘で第十八機械化軍団は全滅。

あとには焼け焦げた膨大な数の残骸だけが残された。



【1941年6月02日 ソビエト社会主義共和国連邦 白ロシア社会主義共和国 第二装甲軍司令部】


ドイツ軍は大規模な包囲網をケッセル(大釜)と呼ぶらしい。

ミンスク包囲網はまさにケッセルと呼ぶにふさわしい惨状だった。

地獄の大釜で屠殺される罪人のようにミンスク・ケッセルに閉じ込められた西部戦線軍62万の将兵は一方的に殺戮されていた。


動く目標は人であれ、戦車であれ、火砲であれ急降下爆撃機に焼かれ、戦闘機の機銃でハチの巣にされていく。一帯を取り囲む戦車部隊や砲兵部隊は果断なく砲弾を浴びせ、とらわれの赤軍部隊を細切れに切り刻む。


補給を断たれたケッセルの内部では深刻な飢餓が生じ骸骨のようにやせ細った兵士や負傷して動けない兵士であふれかえっている。

餓死したもの生きたまま焼き殺されたもの四肢がもげたもの。

いつしかそれは腐乱死体となり、炎上して残骸となった車両や戦車と共に山のように積み上がる。生き残った兵士は残骸と腐乱死体の中で毎日のように降り注ぐ砲火に耐え抜いている。


ケッセル内部の筆舌に尽くしがたい惨状は航空偵察や包囲に参加する地上部隊の報告で司令部にも伝わっている。惨状を知った司令部の幕僚達は赤軍に同情するのでもなく大部隊を包囲に捕えて壊滅させた大戦果に喜ぶのでもなく、この段階になっても降伏しないロシア人の健闘精神にただただ驚愕していた。

彼らは誰に強制されるのでもなく自分の意思で戦っている。すでにスターリンからも上級司令部からも見捨てられ指揮系統が崩壊しているにも関わらずだ。


「ロシア人という人種がここまでしぶとく健闘精神が旺盛な民族だとは知らなかったな。総統閣下のおっしゃる劣等人種とはずいぶん異なるようだ」


グデーリアンの嘆息に全員が同意を示す。

例えば5時間で落とす予定だったブレストリトフスク要塞は作戦開始から10日経過した今でも陥落していない。

この要塞は近代要塞でもなんでもなく中世に建造された古典的な要塞に過ぎない。それをドイツ軍の精鋭相手に健闘精神だけで10日以上も持ちこたえているのだ。もし彼らが近代的な要塞にたてこもればどれほどの抵抗を受けることか。

開戦前、司令部内には若干楽観的なムードが漂っていたが、ソ連兵の異常なほど激しい抵抗が楽観論を粉砕してしまった。


包囲のたびにこのように抵抗されればそのたびに装甲軍は拘束され、前進スピードは大幅に低下する。そうなればソ連に奇襲の混乱から立ち直る貴重な時間を与えてしまうことになりかねない。ソ連兵の頑強な抵抗は国防軍の戦略構想そのものを脅かしかねない重大な懸念事項になりつつある。


「殲滅戦は歩兵軍に任せて我々は先に進みましょう。第十八装甲師団がベレジナ河西岸を抑えている以上、たとえ包囲を抜けられても西部戦線軍に逃げ場はありません。これ以上、装甲軍が包囲に拘束されては敵に立ち直る機会を与えかねません」


前進スピードを維持するには完全な殲滅戦は諦めざるをえない。今後は多少、包囲内の敵を逃がすことになっても前進を優先していく。


「同感だなヴェステンハーゲン少佐。敵が配置につく前にドニエプルを渡河してスターリン線を突破せねばならん。全装甲師団は直ちに包囲陣から離脱し前進を再開せよ!中央軍集団司令部には私が報告しておく」


グデーリアンの号令が下ると各装甲師団は一斉に東への前進を開始する。勝手に包囲陣から抜ければ他の将官は怒るかもしれないが、はっきり言ってそんなことはきにしてられない。


現代人の俺は当然ソ連兵の抵抗が凄まじいことは知っている。

だが、その認識は甘かったと言わざるを得ない。

史実ではスロ二ム包囲に失敗した後、62万人中41万をミンスクで包囲し、20万人近くには逃げられている。そこで俺は最初からミンスクに急行することで全軍の包囲を成功させることにした。

しかし、史実よりも多くの敵を包囲した影響で、敵の抵抗も激しく包囲戦は史実より長引いてしまった。

多少包囲する敵が増えてもその分、物資の欠乏が加速され降伏ははやまると軽く考えていたが、大きな間違いだったようだ。ケッセル内のソ連兵はすでに数十万人が死傷しているにも関わらず、いまだに降伏しない。

包囲殲滅戦に熱中するあまり、モスクワ攻略の機を逃しては史実と同じ轍を踏むことになる。




開戦からわずか10日で司令部には暗雲がたちこめていた。


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