開戦前夜
感想返し遅れてすみません<m(__)m>
【1941年5月20日 第三帝国 ポーランド総督府領 ワルシャワ 第二装甲軍司令部】
「いよいよだな少佐」
「はい」
対ソ作戦計画が総統訓令第二十一号「バルバロッサの場合」として正式に発令されたのは12月のこと。そこからはあわただしい日々があっという間に過ぎていった。そして、今日運命の独ソ戦までついに24時間をきった。
ここポーランドには中央軍集団と南方軍集団の主力部隊が、東プロイセンには北方軍集団が、ルーマニアには南方軍集団の別動隊が攻勢開始地点についている。
戦力を偽装するため各部隊は森林地帯に潜伏し、
いままさにこの瞬間152個師団300万の兵士、3500両の戦車、2500機の航空機が総統から下される命令を待っている。
奇襲を成功させるため東部に集結した部隊には対ソ戦のことは伏せられた。多くの兵士はアプヴェーアの流した欺瞞情報を信じ、東部への集結は対英上陸作戦の陽動だと信じこんでいる。
実際、西部では現在もオランダ、フランス、ノルウェーの軍港を封鎖する『フカ作戦』が発動中であり、沿岸部では47個師団の陸軍部隊が戦闘態勢に移行している。帝国本土でも対英上陸作戦の噂でもちきりらしい。
さすがにこの段階になればスターリンも赤軍も眼前に集結した国防軍を警戒するだろう。だが、アプヴェーアと帝国外務省は開戦を恐れるスターリンの心理を巧妙に突いた。
ここ一週間、帝国は「国境での国防軍の集結は独ソ間の外交的課題を解決するための措置であり、どうなるかはスターリン次次第である」とあらゆるルートを通じてソ連側に流している。
帝国は対英戦開始時に背後を突かれないために懸念事項の外交的解決をはかっておきたいのだと。
外交的解決が可能であるとスターリンを誤認させれば、赤軍の本格的な防衛体制への移行を妨害出来るはず。また帝国側が外交的課題とやらを通告するまでは直接的な軍事行動には出ないと油断をさせる効果も見込める。
欺瞞作戦が効果を発揮したのか、ソ連から帝国に提供される希少資源(穀物、石油、マンガン鉱、ゴム、貴金属)の供給量は、ここ数か月で飛躍的に増大している。石油だけでも200万トンにも達する規模だ。
自ら進んで資源を提供することでなんとか対ソ戦を踏みとどまらせたいのだろうがもう遅い。
いくら資源を送ってこようが対ソ戦の肥やしにしかならない。
総統命令が全兵士に伝達されたのはつい数時間前のことだ。
「憂慮のうちに数か月にわたる沈黙を強いられた末、いまや将兵諸君に真相を語りうる時が来た。我が国境にはロシア軍160個師団が配置されており、ここ数週間、国境線全てに部隊移動が絶えない。東部戦線の将兵よ、この瞬間に史上最大の規模の作戦が開始されるのである。ヨーロッパの運命、ドイツの将来、わが民族の生存はいまやひとえに将兵諸君の双肩にかかっている。主なる神が我が将兵を助けたまわんことを」
明日の午前三時、バルト海~黒海に展開した全部隊が一斉に国境を越えて攻撃を開始する。
偵察情報や無線諜報の結果、国境に展開するソ連軍部隊は警戒態勢に移行しておらず、陣地の建設すら始めていないことがわかっている。初撃の奇襲は成功するだろう。
文字通り命運をかけた決戦が間近に迫っている。
俺の命運も帝国の命運も明日から始まる史上最大の作戦で全てが決まる。
――――本当に勝てるのか。
作戦日が近づくにつれ不安は増していった。
史実におけるネガは全て潰した。欺瞞作戦を成功させ、バルカン作戦をはやめに終わらせ、戦略目標を明確化した。それでも戦況は予断を許さない。
相手は地球上で最大最強の戦力を誇るソ連軍なのだ。モスクワを奪った程度で本当に戦況が優位になるのか?そもそもモスクワまでたどり着けるのか?俺の選択が多くの人間を地獄に追いやることにならないか?
ここ最近あまりの重圧で食欲もわかず夜も満足に眠れず寝不足気味だ。
――――それでもやるしかない。
無理にでも気分を切り替えようとしていると俺の表情がきになったのかグデーリアンが問いかけてきた。
「不安かね少佐?」
「・・・正直いって不安です」
グデーリアンはじっとこちらを見ながら静かに俺を窘める。
「これは貴官がたてた作戦だぞ少佐。その貴官が不安がれば将兵達はなにを信じればいいのかね?貴官にはなんとしても我々を勝利に導く義務があるのだ。開戦後もそんな風に振る舞うつもりか?」
「申し訳ありません」
「今の貴官の立場には冷静な思考と人心を踏まえた言動が必要になる。たとえ不安でも表にだすな」
グデーリアンの言う通りだ。緊張の余り自縄自縛に陥り、冷静さを欠いた状態で参謀としてまともな判断が出来るはずがない。ぐうの音も出ない正論に苦い気分で頷く。
グデーリアンはため息をつくように口調を緩めた。
「もっと自信を持て少佐。貴官はすでに参謀として十分な積極性と慎重さをもちあわせている。あとは経験をつむだけだ。」
意外な言葉に気恥ずかしさを覚えるが、自分の甘さにもあらためてむきあわされた。参謀である俺は司令官を補佐する立場だ。その俺が司令官を心配させてどうする?
もう一度心に自分のやるべきことを刻み付ける。
――――必ず勝利を勝ち取り帝国を破滅の運命から救いだす。
「ありがとうございます閣下。もう迷いはしません」
「うむ。それでいい」
今までとはまるで違う重圧にめまいがしそうだったが、もう心に迷いはなかった。




