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危険度Dランク

彼はわからなくなってしまっていた。何故、自分が必死になっているのか。何から回避しようとしているのか。失わないようにしたクラスメイトが、あまりに違い過ぎていた。失う以前に、元々無かったと言えば適当か。


彼の生前は、彼女よりも恵まれていた。主に友人においては圧倒的にだ。それでありながら、彼は心や頭を壊して自殺している。


今の彼女がおかれている立場は明らかにおかしい。自分ならば、到底耐えられるものに思えなかった。彼女には、あまりに酷な状況だった。



2010年5月


ようやく、彼女の腕が治った頃。皆がクラスに馴染めはじめたくらいだろうか。


それでも彼女に友達は居なかった。


授業などにおける、「二人組作って」という言葉は中々に残酷だ。クラスは偶数だというのに、何故か出てくる三人一組、そして彼女が一人残されるという、決まった流れができていた。


そんな時、彼が姿を現して彼女の相手を努めるのだ。


最初こそ、彼も場違いであるかのように感じていたのだが、ほかのクラスメイトが実技の際に使い魔を召喚している姿を何度か見ていた。それを教師が咎めていないところを見て、気にしなくなってしまった。慣れてしまった頃にはもはや気配消しの魔術も使わずに、普通にクラスに紛れてしまうのだ。


今日の授業でも、彼は当たり前のようにクラスに紛れて彼女に付き添っていた。その体育の授業を終えてからの学校帰り。彼は不満を漏らすかのように彼女に言う。


「なんだか、体育の授業もつまんなくなったな。魔術の素質のある奴は決まって魔術の訓練、射撃や道具の訓練。ド突き合いもないし。学校で呼び寄せた得体のしれない先生の指導の下の型の稽古ばっかじゃん。いっそ、二人組で打ち合いしたほうがいいのにな。実戦がなさすぎる気がするよ」


「実戦なら、近々する予定らしいけど。魔物相手で」


「フリークを相手にか……。それはそれで、いきなりぶっ飛んでるきがするな」


「そういえばね、先生が私が封印している魔物を使わさせてほしいって」


「は?」


彼の表情がこわばった。


「おいおいおい! ランクDしか封印してないはずだぞ! まさか、実戦に中ボス使う気か!?」


彼の焦りようといえば、それはすさまじいものだ。


彼女はそれでも「不完全のDランクだし」などと言う。彼らが封印する多くは、無理に引きずり出したことによる、若干不安定な存在なのである。


「完全のDランクよりは劣ってるとはいえ、俺の生前なら十分に中ボスに区分されるほどの脅威をもってるんだ! 先生からの頼みとはいえ、断るんだ!」


「でも、待って! 私が戦う! 勿論あなたも一緒! そういう風に先生と話をつけた!」


「違う! そういうことじゃない! 中ボスは影響を周りに与える! もしものことを考えると! もしものことが。もしものことがあれば……」


彼はそういうと、悲しそうな、悔しそうな表情になったまま黙り込んでしまった。


彼女は彼の悲しそうな顔を見て、今更になって彼の行動理由を思い出した。彼女にとっては魔物は彼と共に封印する対象でしかないが、彼にとっては、彼の全てを失わせたおそるべき存在なのだ。


彼は何も、戦いであれば何でも大好きというわけではない。彼女は結局、彼のことを理解していなかった。それがどうしようもない程に情けない気持ちになり「ご、ごめん……」とだけ呟いた。




晩御飯を終え、自室で彼女と彼はいた。


「さっきはごめん。私が浅はかな考えで封印解こうとしてた。先生にはちゃんと話して断るから」


切り出したのは彼女からだった。会話をするにしても、今や高度の魔術が必要になっている。親に独り言を呟いてるところを見られたなら、怒られてしまうのだ。彼女は家で会話をすること自体が不思議な不安を駆りたてる。彼はそれを知ってか知らずか、明るい口調で返す。


「うんや。それより、なんでまたランクDなんて規格外と進んで戦おうとしたの? お前も危険なのはわかってるんじゃね。もしかして、先生から言われたから?」


「ん。危険だからこそって思えて。というのもね、わたし、馬鹿じゃない? 運動もあんまりできないし、全てが駄目で、貴方が居てようやくギリギリ及第点って感じじゃない? でもさ、魔物の経験の数にしたら、クラスでもそうそう居ないと思うのね。その今回の魔物との実戦で対応できたら、なんか、良くない? それに、貴方と一緒にやって、ミスなんて一度もしたことないし。唯一自信持ってできそうなことのように思えて」


彼はそれを聞いて、つい「勘違いだ」と言いそうになった。ランクD、すなわち中ボスというのはそんな気軽に倒せるような存在ではない。生前の彼でも、仲間と協力したうえで10体も封印していない。たった6体なのだ。それでも異常に多い程だ。プロの特殊部隊といえど、必ずと言っていいほど死者を出す。慣れることは、本来あるはずがないのだ。プロであれば、なおさら慣れは無い。そんな存在だ。


彼女は続ける。


「私、クラスではボンクラでしょ。その、少しでも見返せることがあったら嬉しいじゃない。不器用で、頭も良くなくて、周りは見えなくて空気が読めなくて自分のことしか考えられないけど、何か一つ他の人と比べてとびぬけて誇れることがあればな、って。だから、魔物を復活させようと思ってだとか、今の環境を悪化させてやろうとか考えていたわけじゃないの」


今度は彼が反省する番だった。言ってしまえば、彼女の考えを否定してしまったのだ。クラスで孤立することに対する思いは計り知れない。彼女なりの、せっかくの行動だった。それを無下にしてしまった。


「すまん。そんな風に考えてたんか。いや、てっきり俺は、先生から頼まれて断りきれないのかと思った」


「まあ、私も少しは渋ったよ? 結構怖いし。だから私も戦うことを条件にだしちゃったんだけど。心配しないで。ちゃんと、明日には断るから」


「いや。引き受けよう」


彼女は一瞬、彼が何を言ったかわからなかった。「何を? もしものことがあったら」と聞き直したところ、彼は言った。


「その時はその時だよ。お前が考えて選択したことだしな。なにより、俺は元々部外者だ」


彼女は彼の様子がいつもと違うことから、何かを感じたようだった。彼女が問いただしたところ、彼女のいないところで彼は生前の友達の誰かと話をしたらしく、「この世界では部外者なのだ」と認識させられて随分ショックを受けたらしかった。それからずっと、彼は迷っているのだ。





2010年6月



どうやら、魔物と戦うという行事は、結構おおきなものだった。護衛や有名らしい教授とか専門家が来るとはきいていたものの、一学年がまるまる参加の上、さらにはテレビも来るらしい。


というわけで。久々に服装に気を使った。制服姿で動き回るのは、まず不向きだ。いつもフリーク封印に着ている動きやすい服選んだ。学校に着ていく制服とは別に、いつでも着替えることができるように準備している。


主に彼が。


「ちょっと! お願いだからやめて!」


「いっそのこと変装する気概でいっちまえ! 別人になったつもりでいったほうがいいって! ほいエクステも!」


「わかった! わかったから! むしろ私もそのつもりで行くから! だから服は! お願いスパッツに触らないで!」




例のイベントの当日。



彼女たちは、ほかの生徒とは別に集められていた。事前に先生から集まるように言われていたのだ。そこで集められていたのは彼女を含めて五名。彼の存在を含めれば六名であるが、彼は姿を見せずにいた。カテゴライズされるならば、彼は使い魔なのだから。


彼女と戦闘に参加する男子生徒たちは、先生と打ち合わせをしていた。どういったタイミングで入るとか、いつから封印をとくのか、それくらいであった。


作戦の話などはほとんどなかった。


男子生徒たちは、「Dランクはホントたいしたことない」と口をそろえるのだ。中には、Bランク相当と戦った奴もいるといっていた。


「私は、その、みんなの補助をする役割がかろうじてできます」というのだが、ビビり過ぎだといわれ、まともに聞くものはいなかった。






待機していた彼女らに、ついに先生の合図がきた。広いグラウンドの中央に彼女らは並んだ。


彼女一人は数十メートル先まで歩いて、こぶしほどの封印された水晶のようなものを置く。


「本当に、封印、ときます!」


彼女が最終確認をして、先生から視線で「やれ」と合図を貰った。


彼女はそうそうに水晶から離れたかと思えば、代わりに彼が姿を現した。


テレビ関係や生徒、先生が「誰?」と疑問に思う前に彼の特級結界魔術は発動した。彼が弱体化結界と呼ぶ高度な魔術だ。あまりに幻想的で、そして大規模な結界術。それが校庭まるごと覆った。これでようやく、中ボスと戦う環境が出来上がったのだ。


続き、彼の封印崩壊の魔術が発動。幾重にも、厳重にかけられた封印。それを解くのもたやすいことではない。1分ほどかかって、段階にして二つ解いただけだ。


二分ほど経ったところで封印の中の様子が変わった。


あまりに手間取り過ぎだろうと思い始めた生徒らのざわつきは、より騒がしくなった。


というのも、こぶしほどの水晶がいきなり三メートルほどの大きさに膨らんだのだ。中の白い物体は、アメーバのようにうごめき、もがいているように見える。


「10秒もしないうちに封印が解けます! 私たち二人が全力でフォローします!」


彼女の声が校舎全体に響いた。勇ましさを感じさせる声だ。


完全に封印から解けた中ボスが姿を現した。白いオオカミがお座りをしていた。瞳もなく、威圧感もない。ただ、お座りをしている。立ち上がりもせず、幽霊のように、座ったままグラウンドを抉りながら移動した。ごりごりごり、と音を立てながら、オオカミの形を成しただけの白い物体が移動したのだ。


命を感じさせない。彼の生前では、中ボスは災害として扱われている。害獣ではなく、災害だ。消滅するまで、ただあり続ける現象だ。生徒や先生が目の当たりにしてた。


「弾道計算最優先! キツネの動きを阻んで! 他の人のカバーは私がする! あなたは攻撃のフォローを余裕があり次第お願い!」


そんな中、彼女の声がよく響いた。


一方で、ほかの男子生徒は最初こそは攻撃を放っていた。しかし、「何やってんだ! ランクDだぞ! クズみたいな二級攻撃魔術じゃ足止めにもなんねえぞ! 強いの撃てよ! 何秒時間稼いでやってんと思ってんだ!」と彼が怒鳴り声をあげてから、完全に足がすくんでしまったようだった。


3分ほど経っている。その間、彼女が数発、でかいのを叩き込んでいた。兵器に匹敵しうる威力だ。それでも白い物体は変わらず存在していた。グラウンドに立っていた生徒たちはようやくにして異常を察知した。


「散る! なにしてるの!? そこから逃げなさい!」


彼女は叫び、乱暴に男子生徒を一人突き飛ばした。周りの生徒や先生は意味が分からなかったことだろう。


ちょうどカメラマンの前に、ごろりと足が転がった。ももからつま先、スニーカーがついた足だけが。


「足を失った! 助けて!」


彼が滑空するように彼女を抱えてその場を離れた。遅れて地面が音をたてて抉れる。


「攻撃に転じる! 私のフォロー!」


そこから誰も理解ができなかった。おおよそ、十分ほど閃光や爆音が響いた。そんな中、ようやく魔術の音以外の音が響いた。いや、彼の声だ。


「っしゃあああああ!!! とらえたあああ!!」


二人が白い物体に背を向け、囲むように立った。まるで白いものを守るかのようだ。そのあと、湧き出すように白い物体が湧き出す。彼女らは先ほどと違って、湧き出す白い物体を無駄なく消していった。何十分かして、湧き出していた魔物が止んだ。


湧き出す魔物は止んでも、魔物はいまだ三メートルほどの大きさのまま、形を変えながらうごめいていた。しかし正方形の結界に閉じ込められているらしく、そこではもう殆ど何もできない様子に見えた。


時間にして四十分くらいだろうか。ようやく終わったらしい。


彼が彼女を背負って、カメラマンの前まで来た。彼女をおろしたかと思えば、彼はカメラの前に落ちた足を拾い上げた。


「大丈夫だ。硬直も起こしてない。断面もきれいだ。できる」


彼女は何かを察してか、もがくように這って彼から逃げ出した。


「待て!」「待って! いやいやいや!」子供のように彼女は泣きわめき、彼はそんな彼女を押さえつけていた。彼は魔術か何かで作った鎖で彼女を縛り上げ、腹ばいに地面に押さえつける。そして彼女のスパッツの一部を破ったかと思えば、彼女のなくなった太ももに足を押し付けた。


「ああああああああああああああ!!!!!!」


途端、彼女の獣のような、断末魔のごとき叫び声が響いた。彼女の声は周りの皆を震わせるほどだ。


彼女は叫びながら、「ごめんなさいいい!! 足なくなっていいからゆるしてよおお!」とも言っていたが、彼は「耐えてくれ」というのだった。


治療が終わったあと、彼女はわんわん泣きわめいていた。「痛い痛い」と泣き続けるのだ。


彼女は一度心を壊してから、感情の制御ができないところがあったようなのだ。


「腕、解放骨折してる。はみ出てる。そこも治療だ」「やだやだやだ! 痛いのはいや! 腕なら本当になくなっていいから!」などと言い合いを続けた後、最終的には彼が馬乗りになって、足をばたつかせて抵抗する彼女を無理やり治療するのだった。


またより一層彼女は泣きわめいていた。しかし、途端に彼女は真顔になった。


「浄化結界! もっかい編んで!」


再び勇ましい彼女の声が響く。彼が遅れてようやく状況を理解した。中ボスであるキツネが封印から解放されていたのだ。ありえないはずだった。しかし、封印されていたはずの場所を、護衛の数人が囲んでいた。おそらく、余計な何かをしたのだった。


今は彼の高度な弱体化結界は解かれている。中ボスであるキツネの本領が発揮される。ボコボコと眷属が召喚されてゆくのだ。雑魚に誰よりも早く反応したのは、彼でもなく、護衛でもなく、彼女であった。


彼女は一瞬で、図体がでかいだけの雑魚を三体殺していた。


「浄化結界は二の次でいい! キツネを逃がさないで! 雑魚は私がやる!」


彼と彼女は二度目の戦闘に入った。彼女らの戦いはすさまじかった。空を駆け回り、美しく魔術を放ち、なおかつ彼女らの息の合った動きが皆を魅了していた。


また時間をかけて、中ボスを封印に追い込んだ。今回はしっかりと完全封印を行ったのだ。中ボスは最後の足掻きなのか、一気にエネルギーを放出した。彼のエネルギーの抜き方が悪かったのかもしれない。それは強力な光線となって校舎の一部と遠くの山を消し飛ばしていた。幸いにも、けが人は彼女以外にいなかったようだ。


彼女はまたわんわん泣き出して、救急車に運ばれていった。

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