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新しいクラス

今日から二年生である。


彼女は、利き腕が無いまま迎えていた。自転車を片手で運転するのはあまりに危なっかしいと、彼と二人乗りで来ているのだ。


というのも。昨日、夕方に近い時間にフリークを封印していたのだ。しかし本来なら中ボスといえど、彼と居ればもはや遅れをとることは無い。だがその時は、たまたま彼の生前の友人である八幡という男子生徒を庇って利き腕を失ってしまったのだ。


断面が綺麗ならば、彼の魔術なら3分とかからずに治してくれる。しかし、断面どころか、原型も残らずにグッチャグチャになっていたのだ。治すには一月かかるかもしれなかった。


話を戻そう。


彼女らは気配消しを使っているとはいえ、二人乗りを教師に咎められるのも都合が悪いと思えて早めに家を出ていた。通学途中も、学校に着いても、ほとんど人の気配はない。


「ほい、到着。そういやあ、しばらく休んでたんだよな。どうだ、久々の学校は!」


彼女は浮かない顔で呟く。「凄く嫌」と。


「そんなこと言うなって。狙ってた進学クラスだぜ」


彼は新しいクラスに移動しながらも、言い聞かすように彼女に話しかけている。いや。実際、言い聞かしているのだ。暗い雰囲気は、よりいっそう人を寄り付かせなくなってしまう。負のサイクルに入れば、抜け出すのは難しい。彼は、それを回避しようとしていた。彼女を思っての行動なのだ。


しかし結果から言えば、わかっていなかったのは彼の方であった。





二人が教室についた頃。時間が早すぎて、まだ彼女たち以外に居なかった。そこにしばらくして、誰かがやって来る。数人で固まって来たところを見るに、仲のいいグループで来たのだろう。

そんなグループの一人から放たれた言葉があった。


「え? 嘘。ちょっと待って、何か居るんだけど」


そのグループから放たれた言葉は、間違いなく彼女を見て放たれたものだった。彼は何かの間違い、もしくは、勘違いと思うようにした。だが、おそらく同じ女子生徒から何度か「なんでいるの? どう思う?」と、あからさまに聞こえるようにグループでしゃべるのだ。


今日は、二学年になって一日目である。誰からも話し掛けられなくても、別におかしくはない。明るい生徒や静かな生徒で早々にグループができているなか、彼女だけが孤立してしまっているのは偶然に違いない。


彼はそうであって欲しかった。




家に帰った二人は、何となく今日のことについて話していた。親の権限により、バイトも部活も辞めさせられた彼女には、これでもかというほどに時間があった。


「ヤタ君に井口さんも同じクラスだったな。ザキザキ君と鈴さんは居なかったけど。うんうん、二人が同じクラスというだけでも嬉しいもんだ。というか、朝、教室に入ってくるなり『何か居るんだけど』って言ってた奴、知り合い?」


「一年の時の四組の人。で、結構みんなのリーダー的人」


「関係悪そーに見えたけど、なんかあったん?」


「全然何もないよ。というか、あなたは勘違いしているよ」


「何が?」と聞く彼。少しだけ、不思議な沈黙ができた気がした。


「一年の頃から。私、二組以外での対応、みんなあんな感じ」と。


微笑みながら言うものだから、冗談のようにも思える。


むしろ冗談であってほしくて、彼は否定する。


「いやいやいや。みんなって言い方はねーだろ。ヤタ君に井口さんもいるし」


「むしろ、その二人は筆頭だけどね。みんなは適度に関わらないでいてくれるけど、攻撃的な性格の人は特に嫌」


「は?」


「最初はあなたが、あなたの友達の事を良く聞かせてくるもんだから、仲良くしてみたいなって思って、何度か話しかけてたんだけど。ちょっとうざかったみたいでね」


彼女の言葉は、素直に信じられなかった。


彼の親友達が無視したり、はっきり拒絶の言葉を口にするなど、全く想像もできないのだ。彼はきっと、「彼女が無意識に嫌われた事をしたのかも」と思うようにした。いや、それを考えても、やっぱり彼の親友達がそんな対応をするとは思えなかった。


あなたが私のことをどう見てくれているのかはわからないけど、結構過大評価なのだ。と、信じられずにいる彼に、彼女は締めくくった。








二年になって、まだ数日。クラスではもう完全に友達グループが完成していた。だと言うのに、彼女は孤立している。


昼休みとなれば、それははっきりとわかるのだ。数人で机を合わしたりするのに対し、彼女は一人で食事をする状況だった。


「昼休みだな。今日は何がいい? お茶な気分? 甘ったるいコーヒー? ん、俺の嫌いな渋茶缶買ってきてやんよ」


そう言って、彼は教室を出ていった。残された彼女は一人で弁当箱を広げることになる。ただ、今の彼女には利き腕がない。それでも食べないという訳にもいかず、不器用なりに左手で食べだした。


「何あれ。食べ方汚なすぎ」「お箸もまともに持てないわけ?」「こっちが見てて食欲失せる」


クラスの声だ。誰かの声ではなく、クラスの声が聞こえた。


彼女はどうしても、人の目を気にしてしまう。彼は思春期における自意識カジョーと笑うのだが、彼女にはそう感じなかった。


まるで皆が皆、自分のあら探しをしているように思えるのだ。目が、前から、後ろから、横から、こちらを監視していた。


周りを不愉快にしているのならばしょうがない、そう言い訳をして彼女は教室を出ていった。別のところで食べようとした。だが、そんな別のところが早々に見つかるわけもなかった。








「便所飯って、嘘だろ」


絶望に似た表情と声で彼が言った。飲み物を買ったのはいいが、結局彼女の姿が見つからず、彼女にどこで食べていたのか問いただした結果の言葉だ。


彼女が教室でクラスに言われたことを彼は知らない。彼女は理由として、「一人で食事しているところを見られるのが恥ずかしくて」と答えた。


「はあ? だったら昼飯、俺が姿を出して一緒にいるよ。最悪、気配消しの魔術を使えば、本当に学校の生徒かどうか区別はつかねえから、怒られはしないだろうな。多分」


こうして、次からは彼が一緒になることになった。






そして休みを挟んだ次の日。彼女はイメージチェンジと言って、雰囲気を変えていた。


彼女は短めの髪を二つにくくり、くろぶち眼鏡をつけている。因みに、彼女は目が良く、眼鏡は必要ない。だて眼鏡なのだ。


「今までの格好より、よっぽど進学クラスの人っぽくない?」


「おう! 俺も眼鏡に憧れてたんだよな。眼鏡をつけたくなる気持ち、凄くわかる」



彼女は眼鏡におさげという姿で登校した。途端に、地味な女の子という姿に変貌している。少しでも監視の『目』から逃れたくてのイメージチェンジであった。本来の弱い彼女の姿が見える。言わずもがな、逃げの行動なのだ。


彼は認識している。認識したうえで受け入れている。


自分の本来の姿なのだ。今までが、彼女が、自分の癖に、気丈に振る舞いすぎていた。自分であれば、とっくに気が狂っていた。彼女にこれ以上求めるつもりはないのだ。





学校の昼休み。


約束通り、彼女と彼は一緒に居た。彼は今、他の人にも姿が見える状態にいる。


そんな彼は、愕然としていた。


彼女のイメージチェンジは、悪い方に流れていた。今までの彼女を「でしゃばり」「ボス気取ってる」と散々言ってたのに対し、地味な姿になったらなったで、またそれを理由に貶し始めたのだ。最早、気配消しの魔術も意味がないほどに、意識を向けられてしまっている。


要するに、彼女は嫌われている。それも、彼が思っている以上にだった。


こうやって、彼女が弁当を開け、食事する動作一つにも笑う要因を無理矢理作って笑い者にしようとクラスはしているのだ。


「うっわ。今度は取り巻き引っ張ってきてる。それとも男を見せつけてんの? あれ?」


もう彼は表情を隠せずにいた。


言葉を発した人が問題だった。先程の言葉は、彼の生前の親友、井口という女子生徒だ。彼は井口を説明するのに、決まって聖女という言葉を用いるほど崇拝していた相手だ。余程ショックのようであった。


「なんだよ、このクラス。グズばっかりじゃないか」無意識に彼が呟いた。


「なにそれ。この雰囲気が普通だよ。くふふふ」


「何で笑うんだよ」


「いえいえ、あなたもそんな表情するんだなって」


「何で。どうして、笑えるんだよ」


彼の言葉はクラスに消えた。

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