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メンタル崩壊

「お前が話している奴は存在しないんだ。そこに居るやつと話すのはやめなさい」


そう言って父親は、二つ折携帯電話を逆に折って出ていった。


因みに彼は、姿を親を見せたことはない。姿を見せたなら、自分自身がどう振る舞ってしまうかわからないという理由からである。


彼女は小声で話し出す。


「私ね。あなたの言う通り、駄目人間だったみたい。あなたがいなくてミスばっかりで怒られてばっかり。それにお父さん怒らして、部屋のもの全部捨てられちゃったし。でもさ、あなたが居たにしろ、結構頑張れたと思わない? ……ごめんなさい。少なくとも私は、自分ではこれ以上に無いほど頑張れていたと思ってたの。中学生の頃なんかよりずっと成績の偏差値高いし、友達だって増えたし、バイト代もあなたの取り分ではあるにしろ家に入れてたし、家の手伝いも、料理だって」


そこまで言って、彼女は表情を歪ました。そして、絞り出すように呟く。


「私なんかでそこまでできたのに、怒られちゃったらどうしようもないじゃない」


彼はなだめようとするのだが、いい言葉が浮かばない。実際にその時の彼女の事を見ていた訳ではないが、生前の彼にも強く当てはまっていた。自分では頑張れていても、客観的に見れば無能そのもの。そうなれば、自分を正当することなどできず、逃げる以外に手は無いのだ。ゆえにかける言葉も無い。


彼は何も言わずに彼女の隣に座りこむ。


「それに、いつまでもたってもあなたは帰ってこない。駄目な私からあなたがいなくなったら、それこそどうしようもない。死ぬ以外、見えなくなっちゃった」


彼女は言った。自殺しようとしたのだと。首にはガーゼが貼られている。


「自殺? 誰が? お前が?」


彼女は頷く。


「マジで?」


また頷く。


「なはははは!」


彼は途端に笑いだした。


「そうかそうか。自殺しようとしたのか! なんだなんだ! やっぱりお前は俺だわ!」


「どうしたの?」


「内心、お前は俺じゃないんじゃないのか、って思い始めたとこだったんだ! 成績はいいし、性格はまめだし、全くもって俺と違うし! でもやっぱりお前は俺だったんだな!」


どうせ、もっと死にたくなることがあるんだ、と彼は言った。彼女が聞くまでもなく、彼は生前について話していた。


算数ができなくなるのは当たり前、家の帰り道がわからなくなったり、喋りながらしゃべる内容がわからなくなったり、鬱になったおかげで友達の顔が認識できなくなったり、毎日過ごすのにメモ帳が手放せなくなったり、人として振る舞えなくなったりと、崩壊していった話を聞いた。


だがしかし、彼女の中ではそういった事ではないことでフラッシュバックしている。


「あのバレンタインチョコ、死んでる人に渡すみたいだった、おかしくない?」「手当たり次第に愛想振り撒いて、鬱陶しい!」「空気読めてない」「中二病気取ってるよね」「ボス気取ってるよね」「全てあなたの思い通りになると思ってんじゃない!」「裏で何かやっているんでしょ、妬むのもいい加減にしたら」


彼女の自殺を図った理由は、恥ずかしさからであった。身の程をわきまえぬ行動が、痛々しく思えたのだ。今までの成果の全ては彼あってのものだというのに、自分自身だけと勘違いしていた。


調子にのってしまって、最終的に首を刺されるほどの不満を買ったのは誰だ。自分だ。


それらの事が一気に彼女の中で吹き出したのだ。彼女はメチャクチャな言葉になりながらも、彼に説明した。


「だろうな。なんだ、まんま俺の思考回路だ。安心しなって、学校の振る舞いは奇人には見えないって。でしゃばりって程でもない。普通の範疇だ」


彼は不思議と理解しているようであった。


「今は休んどけ。考えたってしょうがない」




彼は理解している。彼女は鬱になっているのだ。


少し様子を見たが、彼女はなにもせず、部屋で過ごしている。文字通り、息以外に何もしていないのだ。こうなっては悪くなる一方だと経験で知っている彼は行動に出た。


「頼みがある。フリークの駆除を手伝って欲しい。勿論、下手すりゃ死ぬ。だけど頼み込めるのがお前以外いない。どうか手を貸してほしい。この通りだ。俺にできることなら何でもする」


そう言って、彼女の前で土下座をした。彼女ならば協力してくれる。ある意味確信していた。何故なら、自分のことでもあったからだ。


思考能力の落ちた状態なら、彼女の協力が必要無いことなどわからないはずだった。ただ、外に連れ出す理由が欲しかったのだ。


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