彼女の評価
2010年6月
中ボスと学校で戦ってから、彼女は学校に行きたがらなくなってしまった。彼が聞くと、全生徒の前で醜態をさらしてしまったのが、どうしようもない程気になるのだという。
「周りも仕方ないと思ってくれるさ。手足ちぎれかけたんだって感じで」
「違う、違うの……」
彼女は彼にも言えれずにいたことがあった。彼女は彼の治療が嫌で取り乱してしまったとき、わずかに失禁したのだ。
とても誰かに言えることではない。しかも、地方のテレビ局とはいえ、テレビに撮られてしまった。軽く首つりができるレベルの醜態だ。しかも彼女はクラスではなじめていない存在だ。クラスの人間が彼女を貶すにはもはやこれ以上にないネタである。
彼女は学校に行くのが恐ろしくてたまらなかった。
校舎の一部が壊れたりの騒動で、一日だけ学校は休みだった。そして今日は普通に学校である。
彼女が自転車で登校している中、校門が見え始めた。その時彼女は自転車を止めた。
「あえ? どった? 忘れもん? いつものように俺が取りに行くがよ?」
彼が彼女に声をかけた。しかし、忘れものにしては様子がおかしい。彼女の顔を覗き込んだ。
彼女の視線を遮るように彼は向かい合っているが、目と目が合っていない。彼の目と合わそうとせず、彼女の瞳は恐怖に染まっていた。焦点が合っていないとでも言うべきか。
「あ、ああ……。ぁあ!」
彼女は跨った自転車から離れた。その姿はまるで、何かから逃げるかのようだ。
ガシャリと倒れる自転車に彼は駆け寄って立て直す。
「おいおいおい。いきなりどしたよ?」
「ああああ!」
「いやいやいや! 待てって! だからどうしたんだって!」
彼はその場を逃げ去る彼女を慌てて追いかけた。
「学校、もう無理。行きたくない」
彼女はそのまま家に帰ってしまい、そのまま部屋に引きこもってしまったのだ。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「私は醜態晒したの。学校で何て言われるのかわからない。もうヤダよぅ……」
彼女はそう呟いて泣き出すのだった。
2010年7月
彼女は不登校になってしまっていた。学校にはまず行かない。しかし、中ボス封印のための散歩には随分積極的に行くようになった。図書館にもよく足を運んでおり、勉強も一切おろそかにしていない。だがそれでも、かたくなに学校は嫌がっていた。親や担任の先生はひどく心配していたが、まさに親の心子知らずであり、何一つ親の心配を感じ取れていなかった。
すこし変わって。彼女は最近、恐怖を感じるようになったのだ。というのも、誰かに付きまとわれているように思えると言う。彼は「視線を気にするとか、思春期こえて厨二病じゃん」と最初こそ笑っていたが、彼も気のせいではないことに気づき、心配になっていた。特定の一人ではなく、まるで集団でストーカーをされているようなのだ。彼は誰かにつけられていると感じた瞬間、ついてこられないように様々な魔術を使ってまいていた。
そんな中、今日は大切な中ボス封印の為の散歩に出かける日である。今回、中ボスの条件がそろうのは真昼間からであった。朝早くから準備をしており、万端の状態で家を出た。そこですぐにストーカーのような存在に二人が気が付いた。というか、完全に目が合っている。
まるで、二人が家から出るのを待ち構えていた二人の男は、こちらによって来て、何かを突き出した。
「いやあ! いきなりごめんね! 僕ら、かくかくしかじかテレビっていうもんで、取材に来たんだ」
突き出されたのは名刺であった。あまり聞かないテレビであったが、県外から来たローカルな番組の人らしい。一人がリポートする人で、もう一人がカメラを背負っている。
彼と彼女が同時に顔を合わせた。この町に取材することでもあるのだろうか、という顔だ。
「? なにかあったんですか?」
応えるのは彼女だ。
取材の人間は、どうやら、強い魔物と戦った女の子がいるとかで来たらしい。どうやらその女の子は彼女と同じ学校の人のようだった。そのうえで取材の人間は、「何か知らない?」と彼女に聞いてきた。個人についての取材ならば、本人にアポイントメントをとったりしないのだろうかとは思わないでもない。
「ごめんなさい。私、最近学校に行っていないので……。友達も……、その、少ないので……。ちなみに、その人の名前とかクラスとかわかれば」
「あれ? 君のことじゃないの?」
「はい?」
しばらく気まずい空気がながれた。取材の人は何か勘違いをしてこの家の前で待っていたようだった。
「やっぱり仕事で来ている以上、手ぶらでは帰れないんすよね? ノルマとかあるんですか? それともただ単に怒られるだけ?」と彼は聞く。
「何聞いてんの! 困ってんじゃん」「ごがくのために」「こうがくって言いたいの? バーカ」
とにもかくにも、取材の人はただでは帰れなさそうだった。
「あー。ナガなんとかって苗字はうちの学校に結構多いから。……あれ? それでも強いような奴に覚えがねえけどな……」
「もしかしたら、名前も間違ってるのではないですか? それに、魔物と戦ったことのある女子高生って、この町ではたいして珍しくもないし」
「そもそも行き当たりばったりすぎなのが悪い気がする。テレビの取材って、こんないい加減なん?」
さらに取材の人は苦笑いをするばっかりだ。少なくとも、二人が力になれそうなことはなさそうだ。
「県外から来られたんっすよね! この町、よく魔物が出るんすよ。散歩するだけでもよく遭遇しますよ! 生徒でも魔物と戦ってるやつは少なくないんで。取材するもんがなければ魔物を追っかけてるといいものが撮れると思いますよ。もしくはそこらの高校生に戦闘のはなしを聞いたりでも。なんなら道案内しますよ、魔物が出てくるポイントもお教えできるんで」
取材の人は、苦笑いをしながら彼女らについていくことにした。
「この町、結構わくんです。だから、学生でもよく戦ってるとか。今じゃ当たり前ですけど、よく考えるとマジですごいことっすよね。いうなれば、まっぱで散歩してる時に空腹の熊に出くわすようなことじゃん? 考えられんよ」「君たちはこれからどこにむかってるの?」「魔物の出現場所。気象である程度の予測はつくけど、一番は自分の感覚すかね?」「肌がざわつく感覚があるよね? 私もわかるようになった」「寿司職人が意識して夏冬関係なく体温を自在に変えれたり、配管工が音だけで漏れた個所を聞き分けたり、科学でも未だに解明できていない職人の世界。こればっかりは言葉にできない無意識のものかな? 俺の世界でも、三人に一人くらいの割合でしか習得できない才能の技術だ」「結構おおくない?」
彼らは話しながら歩く。そんな時、彼女らが足を止めた。何の変哲もない住宅街だ。近くに公園もあり、ベビーカーを押す主婦の姿も見える。人通りはむしろ多いほうだ。
「君たち、ここがどうかしたの?」
「ここに魔物がいるんです。といかあの赤い屋根の上に普通にいますよ?」
彼女の言葉と同時にカメラマンが悲鳴を上げた。「ううぇ! 嘘! でかい!」と。そこには火の鳥を連想させる雰囲気を持った赤白い鳥だ。赤黒でも青白いでもなく、赤くて白っぽい、そんな色だ。羽ばたきもせず、ふわふわ浮いている。
「っ! な、なんでほかの人は慌ててないんで!?」
街歩く人々は誰一人として気にしていない。彼の魔術によるものだったが、説明が面倒だった。
「さあ? 日常だから? 俺らはちょっくら集中しますんで」
彼女と彼二人は戦闘を開始した。高速で動き回り、魔術を放つ。しかも完全に制御できているのか、何一つ住宅街の物傷つけていない。わずか十分で戦闘は終わり、もう十分で完全封印も完了した。しかし。彼女は無傷とは行かなかった。
「いたい……。変に逃げ惑われると、庇う方も大変なんですよ……?」
彼女はリポーターを庇って負傷したのだ。
「ありゃりゃ。左は原型残ってるし治療すれば大丈夫っぽいけど、右は駄目だな。お前、雑魚フリークに変なジンクスあるな。ははは」
彼は彼女に駆け寄って言う。彼女は足を失ってしまっていたのだ。彼に近くの公園まで、姫抱っこでベンチまで運ばれた。ちなみにリポーターも手の骨が折れていたのか、ひじがおかしな方向を向いていた。しかし、彼女が足を失いながらもうめき声も出していない中、リポーターも声を上げるわけにはいかなかった。
彼は救急ポーチから道具を取り出し慣れたように彼女に治療を行っている。彼女も最初は声を上げたが、そのあとは静かに治療を受けていた。
ホチキスの針のようなものが、彼女のなくなった足の傷口に刺さっている。そんな彼女はのんきに、取材の人に「骨が折れていますが、いたくないですか?」と案じている。
「君こそ、君は、足が、な、なくなっている」「まあ、つぶれましたし」と彼女。
「だから! 大丈夫なのか!?」
「彼が治療してくれてますので私は大丈夫ですよ。それより、すごく痛そうです。救急車を呼びましょうか?」
「……。この人、折れてねーぞ。脱臼だって」彼が彼女の治療を終えてリポーターの人を治療している中、二人で話す彼女と取材の人言うのだ。
「むき出しの骨肉を治療するって、君は」とカメラマン。
「いや。これは学校で学ぶんですよ。俺らの地域特有なんしょうかね。蘇生法とかいろいろ体育の時にやらされるんすよ」
「学校で!?」彼女は驚きで声を出す。「なんでお前が驚くんだよ。そうか学校に行ってねえもんな。まあ応急処置だけなんだけど。麻酔は法的に扱っちゃだめだから痛いけど。終わったッすよ」「さっきの、魔物ですよね」「まあ。ランクD。正式名称はわかんないすけど、俺はフェニックスって呼んでますが。ランクDの中では凄まじいエネルギー放出能力もってて、何もさせないように行動したすけど、一回打たせたら二キロ先ほど吹っ飛ぶっす。というかランクDの脅威、ご存じ?」
取材の人はほとんど魔物について知識が無かった。それらを彼らが説明していた。
「体を失ったりするのがふつう? すごくやばいですよ。なんでこの町の人は普通にすごしている? おかしいよそれ」
リポーターは半分仕事を忘れているのか、口調が砕けている。
「私たちは強くないので。彼を召喚してようやくにして一人分の戦力程度と思っていただければ。ほかの生徒は一人でランクBと戦ったことがあるとか」
「それ。本当にいつ聞いてもありえねえ。俺の世界とは実力が違い過ぎんだろ。おっと、ジュース買ってくるわ。失った血の分、補っとかねえと」
彼は自販機で飲み物を買うために離れてしまった。
「なんでこんなことを君たちはしてるの? 下手すれば死ぬよ? 怖くないの!?」
「怖いですよ。まあ、死にかけたことは何度かありますけど」
「なんで? どうしてこんなことを?」
「特にすることもないので。なので先ほどの彼とのお願いで、一緒に協力して封印しているという感じでしょうか」
「『お願い』? じゃあ彼って、なんのために?」
「未練です。彼って、魔物にすべて奪われてしまったらしくて。それで私は彼と約束して、手伝っているかんじです」
「それで、君も命を懸けているのかい?」
「かわいそうじゃないですか? 友達も家族も殺されて、最終的に自殺してしまうとか。せめて、未練くらいは晴らしてあげたいじゃないですか。それに彼は死んでしまってますけどまだ未来のこと。この世界ではまだ生きています。まだ希望があるんです。命を懸けないと」
「ど、どいうこと?」
そこに彼が戻ってきた。
「俺、こいつの使い魔なんすよ。あ、カメラマンさんもコーヒーどうぞ。いっぺん死んで、こいつの固有魔術で契約してもらってんの。俺、平成21年の入学生で2012年に首吊り自殺したんす」
「君、名前、何て言うの?」「この人、私には一度も名前を教えてくれないんです」「そりゃ色々問題あるし、教えられねーよ」「一応、顔は映ってるよ」「顔じゃぜってーわかんねーっすよ。言ったところで信じないと思うほど、この世界の俺とは違いますから。身長も性格も学校の成績も全て違うし」
「使い魔って、凄く珍しいんじゃ無いですか。何千に一人とか。凄い事ですよ」「ところがドッコイ。我がクラスには優秀な使い魔を操る生徒が他にいるんす。おかげでこいつは陰日向」「隠してるわけでもないんですが、やっぱり目立たなくて。元が精霊とかじゃなく、霊魂だから能力はパッとしないですし」
「パッとしてるし。未来の魔術知ってるんだ」「たかが一年程度の先取りだけど」
取材の人と長いこと話したが、結局、「取材するなら他の生徒から聞いたらいいと思いますよ」と言って別れることになった。




