バケツの水と思い煩う人
朱吏はまた水浸しになっていた。
「暑いからいいんだけど、今回の水は臭いなぁ…。」
柱の影から事のあらましを全て見ていたステファノは
踵を返した。
「マックス…。」
ノックもなしに入ってきた友人に寒気がした。
途轍もなく怒っているようだ。
普段は愛称で呼ばない。背後からどす黒いオーラが見えるのは
気のせいなのか…
「…なんだ。」
「気づいてないの?シュリちゃんの事。」
「なにが?」
「…。失望したよ。」
「一体何の事だ!」
すぅっとステファノは息を吸った。
思わずヒューは身構える。
「最近タオルやら傷薬やら持参してない?どんどん傷も増えてく一方だね。
彼女宛てに手紙が届く事が多くなったようだけど、友達は出来たっけ?
水浴びをするほど夏真っ只中ではないはずだよね??」
ステファノは一息で言い切った。
一方、ヒューは金縛りに遭ったように真っ青になっている。
そうだ、そうだったのだ。
考えれば考えるほど後悔ばかりが募る。
(俺は何をしていたんだ…!!)
朱吏に触れたくて、傍に置いて居たくて自分本位に行動した。
その行動のせいで朱吏を標的にした女性達がいたのか!
数日前から女性に声をかけられる事が多くなった。
腕を絡ませ胸を押しつけ、そういう行為も誘われた。
近年、誘いがなかったのに何故だと疑問に思わなかった。
また女性が嫌で堪らなくなった俺は、朱吏に余計依存してなかったか?
自分の事で一杯で周りを顧みなかった。
思い返せば彼女はいつも困ったような顔をしていた。
何て事だ…。
まだ保護者気取りで嫌も言わせず触れていた。
もしかして彼女は恩を感じていて断れないのではないのだろうか。
本当は心の底から嫌がっていたのかもしれない。
少しは気を許してくれていると思っていたが、そうではないのかもしれない。
自惚れも甚だしい…
一人悶々と思い巡らしている間に、ステファノは居なくなっていた。
カチャ
「只今戻りました~。」
「!!!」
さっきまでは濡れていなかったのに、
何故かびしょびしょなって帰ってきた。
「?」
(あれ?いつものキスが来ない…やっぱ臭いからか~)
「今日はもう帰っていいぞ。」
「なんで?まだやる事残って…」
「いい。…風邪をひく。」
「あ…はい。じゃあ…お疲れ様でした。お先に失礼します。」
(なんでだろう。前の無表情に戻ってた…。)
「シュリちゃん、今帰り?」
「あ、はい。ステファノさんもですか?」
ステファノはヒューの考えが読めていた。
こんなに城の女性陣にやっかまれているのに
一人で帰すのは危険だ。
だが、ヒューはこの手の事だけは頭が回らない。
恋愛のれの字もわからないくらい、経験が少ない。
少し昔を思い出しながら朱吏と肩を並べる。
少し臭い…。
マクシミリアンに好かれちゃったばかりに、こんな目に遭うなんて。
切実に、幸せになって欲しいと思う。勿論二人とも。
当分はカトリーヌ達と見守っていくか。
「今日さ、カトリーヌとフィリップとご飯食べるんだけど…来ない?」
「うわぁ!楽しそうだな~。でもヒューさんが…」
「ああ、今日は僕の仕事、預けちゃったから遅いんだよね。」
(ふふふ、どうせ思い悩んで帰りは遅いよ☆)
「…そうですか?う~ん、じゃあ、少しだけ…。」
「うんうん。いい心掛けだね☆付き合いも大事だよ。それにヒューばっかじゃ飽きちゃうよ?」
***
飲みだして二刻程経った頃、3人は同じ事を思っていた。
(((彼はこの子のどこが好きなんだろう…)))
一応、ヒューが探さないように門番に伝言を頼んで、
彼らがいつも行く青い小鳥亭に来ていた。
今日のオススメと、軽くつまめるものを頼み、乾杯をする。
勿論まだ酔ってもないのでいつものはやらない。
最近起きた嫌がらせの数々を、みんなは知っていた。
朱吏を心配して、この集まりを催してくれていた。
多分仕事も早く切り上げたのだろう。まだ外は明るい。
凄く感動して飲み過ぎてしまった。
「お~い…酒もってこぉ~いぃぃぃぃ!あはははは!!!!」
(((…いつもどんな感じで彼は一緒に飲んでるのか、本当に謎。)))




