たんこぶと蝋人形
チチチチ…
チチチ…
「…何故来ないの?!」
唸るような声で鳥たちは一斉に羽ばたいた。
カトリーヌ・ベネディクト・コンスタンティン魔術師団長は非常に怒っていた。
昨日渡したばかりの書類を思い出す…此方にも控えがあり不備はない。
場所も時間も指定したのに半刻待っても来なかった。
「マックスは時間はきっちりしてるんだけど…」
逆に不安になっていた。
普段から時間には遅れない、寧ろ早いくらいで先に居るイメージがある。
じゃあ、何故か。
もしかしたら想定外の事があったのだろうか…
不慮の事故…まさか…!!
カトリーヌはせっかちで突っ走る傾向にあるようだ。
「…っ!」
(な、んだ?痛いし重い…)
ぼーっと霞んでた頭が漸く、若干クリアになってきた。
ここは…邸の居間の天井、ソファーの上かと理解する。
体が全体的に温かいが重い…。
頭はガンガンしている。頬のあたりがくすぐったい…
「!!!」
漸く事態を理解した。
朱吏の頭はヒューの首とソファーの背にずっぽりとはまっている。
腕は転ぶときにとっさに出たのかヒューの肩上に回されていた。
足は完全に絡まっていて身動きが取れない。
しょうがなく、朱吏の肩辺りを叩いて起してみた。
「…朱吏。朱吏、起きろ。」
んー、と唸り声を一つ上げ、もぞもぞと動いたが起きない。
刺激しないでくれ!!とヒューは心から叫びたかった。
何度も何度も根気よく起こし続けたので、やっと起きたみたいだ。
「…むぅ~、…ヒュー?」
「ああ、頼むから起き上がってくれ。」
「ふふふ…おはよう?」
「!!!!!」
(なんだ、この可愛い生き物は…!)
もう衝動的だった。
この愛玩動物に骨砕きにされたヒューはヤケクソになった。
(一度も二度も変わらん!)
残念ながら、もうすでに三度目だ。
すでに前から骨砕きになってたのも気づいてはいない。
ちゅ
「おはよう。」
ちゅ
(!!!!)
返ってくると思っていなかったが、残念な事は続くものである。
朱吏は完全にガイジンさんのスキンシップと勘違いしている。
「うん、おはよ。今退くね…あれ、昨日転んで…あ、頭痛い?大丈夫??」
覚えていたようで、頻りに心配していた。
まだ二人はソファーの上だ。
しかもまだ体は絡まったまま、朱吏がヒューの頭を摩っていた。
傍から見ればバカップルに間違いない。
だが気持ちの温度差が激しい。ヒューだけ茹でダコになっていた。
「ちょっと!!!!いい加減にしなさいっっっっ!!!!!!」
蝋人形から復活したカトリーヌは怒り狂って仁王立ちしていた。
***
カトリーヌは急いでいた。
指定先の自分の団長室から飛び出たカトリーヌはヒューのいる
レオナルドゥス別邸に向かっていた。
いつもは悠々と闊歩する彼女だが、幼馴染のマックスが心配で
人生最速で走っていた。
道で倒れてれば騒ぎになっているはず、なので事故は別邸の方で起きている!!
勝手に決めつけていた。
いざ邸に行くとドアが開けっぱなしだった。
酔って眠くて急いでたわけだがカトリーヌは事故じゃなく事件だわ!と、
大股でホールを抜けた。
小さい頃から別邸も知っているので歩みに迷いはない。
居間の扉をそっと開けた瞬間、彼女は蝋人形のように固まった。
(…夢。…え?何なの???)
久々に別邸に来てみればとんでもない展開になっていた。
女嫌いの理由も少し知っていたが、いつこうなった?
情報によると男の子は訂正されていて、女性なはず。
女嫌いの幼馴染が……、
ソファーの上で……、
頬笑み会って……、
女性と絡み合って……、
キスしてる……。
シュリさんは確かこちらに来て1週間程度。
そんな短期間に??
なんで?なに?意味がわからないのだけど…?
ぐるぐると思考の渦に飲まれている間にも
二人のイチャイチャは止まらない。
今まで口を開けっぱなしにしていた事に気づくと
漸く、息をし、唾を飲み込んだ。




