慌てん坊と不意打ち
「…いい。」
「へ?」
「そのままでいい。…どうせ呼べないだろ。」
「そ、そう、なんだけど!!」
「なんだ。」
「ヒューにもいるでしょ…その…恋人的な人が…」
「居ませんよ!より好みしちゃってずーっと居ないんです。
それにしても、最近多いですね、赤い顔!!あはは!」
(もう殺すフィリップ!!!)
今度は怒りで顔を赤くさせていた。
何だかんだいってモテてるみたいだし…
一緒に酒場行った時も、ウエイトレスさんに熱い視線注がれてたなぁ…
そう。いくら無表情でもモテるのだ。
書類を届けに来る女性たちは、猛禽類のような目で狙っている。
ステファノとフィリップが揃った時は尚更だ。
やっぱりこの城でも3人は競争率が高そう。
これから宰相閣下様の侍従でやっていくんだから一緒にずっといるわけで。
嫉妬の嵐は凄そう。
しかも一緒に出勤…。別々に行った方がいいのか迷うところ。
(しかし、今まで聞けなかったけど…私は子供に見られてないか?ヒューなんか特に。じゃなきゃ一緒に寝ないよな…)
街中でもそうだが、ここは髪が短い人が少ない。
朱吏はショートカットでまるで少年の出で立ちだ。
誰もが間違える格好だった。
「ちょっと、いるんでしょ?!」
『!!!』
「入るわよ!」
ガチャ
「あなたがシュリさん?魔術師団長のカトリーヌよ。異世界から来たのだって?明日、魔法波動を調べるから。
はい、この紙ちゃんと読んでね。保護者のマックスと来て頂戴。以上。」
パタン
「…相変わらずだな。」
「ヤバ!…そろそろオレも帰りますー。また。」
カトリーヌー、と叫びながらフィリップは嵐のように去った。
纏められた書類には、こちらに持ってきた荷物をすべて持参という事、
魔法波動を調べるにあたって危険はない。ふむふむ…。
今後の事を粗方決める方向で…保護者と一緒に…
保護者マックスって、ヒューの事だよね…。
「今後は決まってるだろ?」
「!」
(いきなり耳元で喋るなーー!)
思ったよりも近くに来ていて驚いた。
朱吏の後ろから覗き込む形で見ている。
さらり、と彼の美しい髪が雨のように降ってきた。
ち…近いな…。
「侍従はいやか?雑用ばかりで忙しいとは思うが、給料はそこそこやれる、って聞いてるか?」
「…、み、耳。…くすぐったいです!」
肩を窄め耳をこすった。
「…フ。」
(…猫みたいだ)
ちゅ
『!!!』
(俺は何をしたんだ…!!)(またチュー!!!ど、ど、どういう意味!!)
二人、慌てふためいても仕事はきっちりこなした。
もう仕事に没頭するしかなかった。
廊下のざわめき、中庭の小鳥の声や騎士の訓練の声、
風がカーテンを揺らす音、剣のぶつかる音、全ての音が様様だ。
無言で黙々と進めたのが良かったのか、いつもよりも早く
終わってしまった。




