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第十二話 一網打尽

 学園の屋上、スマートフォンを耳に当てて、一人会話している姿がある。

「化野朔螺、桧山砺波排除の件、双方失敗した。

 時間がない。

 手段選ばず行く。いいな?」

 そう相手に確認する。息を吸い込んで。

「一網打尽だ」




 化野が死にかけたその翌日の昼休み、学食の窓際の席で化野は桐生と日向、忍野に囲まれていた。

「ってことだ。俺がたまたま車で通りかからなきゃ、化野は死んでたな」

「あー、道理で……」

 桐生の説明に、桐生と化野の向かいに座っていた忍野が納得したように、胡乱な目つきで呟いた。

「道理で?」

「なんや、昨日背筋がぞわぞわしとったっちゅうか、落ち着かんかったなあ、って。

 彼方もそう言うとったやろ」

「うん。桧山先輩の帰りが遅かった時と同じような感じがした」

 意味を確認した化野に、忍野と日向が答える。

「本当に感度が上がってるんだねえ」

 化野は二人の返事に苦笑するしかない。

「でも、桧山先輩になにがあったかはともかく、俺のほうは桐生が大げさに言ってるんだよ」

「実際危なかっただろうが」

「あれはたまたま相手が悪かっただけで」

「それがわざとだと言う話をしてる」

 端的に言った桐生に、化野はその顔を見て、小さく息を呑んだ。

「……そういうことか。

 その可能性を見落としてた」

「どういうこと?」

「ああ、その怪異って化野の従姉妹そっくりやったんやろ?

 つまり、化野が従姉妹に弱いんわかっとって、従姉妹そっくりの顔にしたって意味や」

 意味がわからず尋ねた日向に、忍野が説明する。

「あー、なるほど」

「要するに、相手は本気で化野を殺しにかかってたって話や。

 魂を取れなくなる、はずやのに」

 忍野はそこまで話して、頬杖を突いた。とん、と指でテーブルの上を叩く。

「殺した後でも取れるんやったら、回りくどく電話してくる理由ないしな」

「うーん…………」

 日向はやはり腑に落ちないという顔だ。

「引っかかっているのはもう一つ、桧山先輩だ。

 先日、先輩の帰宅が随分遅れた日、俺は無事ならよかったと一旦流したが、もし相手が桧山先輩のことも殺そうとしていたら?

 桧山先輩が運良くそれから逃れただけだったら?」

「それって、……邪魔者全部排除しようとしてるって、こと?」

「それくらい、相手が焦ってるってことだ」

 桐生の言葉に、日向は表情を曇らせ、口元に手をやる。

「……相手の勝ちって、条件なんだろう」

「そら、俺たちの魂を」

「そうじゃなくて、相手の勝利条件。

 桧山先輩言ってた。チェスの陣地取りを俺たちの味方になってる奴らとしてるって。

 つまり、」

 そこまで日向が口にした時だ。

 食堂の中で、着信音が一斉に鳴り出した。

「え」

 日向や忍野、化野、桐生のスマートフォンだけではない、食堂にいる生徒、全員の。

「なにこれ、電話?」

「やだ鳴り止まない!」

「もしかして、噂のメリーさん?」

「やだ通話切れない!」

 焦ったような声、泣きそうな声、様々な声が聞こえる。

 しかも反応を聞くに、おそらくメリーさんをやっていない生徒まで。

「なんや、これ」

 忍野が、茫然と声を漏らす。

「あー、」

 桐生が顔を覆って舌打ちした。

「やられたな。文字通り、手段選ばず一網打尽。

 相手の勝利条件だ」

「それって」

「ただ、なんかしらの代償はあるはずだ。そうじゃなけりゃ、もっと早くにやって──」

 桐生の声が途切れたのは、桐生の手元にあるスマートフォンの着信音が途切れたからだ。

 画面には「通話中」の文字。

『もしもし、私メリーさん。今あなたの後ろにいるの』

 高い声が響く。桐生が短く息を呑んだ瞬間、その身体が傾いた。

 ガタン、と大きな音を立てて椅子ごと倒れた桐生に、化野がすぐにそばにしゃがみ込む。

「駄目。意識がない」

 化野が首を横に振る。

 また、着信音が途切れる。今度は日向の──桧山のスマートフォンだ。

『もしもし、私メリーさん』

「おい、これ桧山先輩のだぞ! ふざけんな!」

「彼方!」

 忍野の焦った声が聞こえた。

 後ろから伸びた白い手が、日向の顔を覆う。

 その身体が仰向けに倒れた。意識がブツンと落ちる。

 意識が落ちる寸前、背後に立っていた姿が、その足がかすかに見えた。




 学園の屋上、そこに佇む女の姿がある。

「ふふ、ふふ、いっぱい、いっぱい、たくさん」

 腕の中に抱え込んだ白い無数の光を見つめ、女は嗤う。

 だがすぐにハッとして背後を振り返った。

「やっと居場所を突き止めたわよ。メリーさん」

 ゆっくり歩いてくるのは、真紅の髪の少女だ。

 その後ろに、二人の少女の姿がある。

「な、んで」

「失敗したわね」

 黒髪の少女が笑う。

「あなたが今取り込んだ桐生くんたちの魂には、阿古屋村で隠した時に印をつけたの。

 その魂をあなたが奪えば、必然的にあなたの居場所がわかると言うことよ」

「そういうこと。お楽しみの時間はここまで。

 覚悟なさい」

 蒼穹の色の髪をした少女が髪を靡かせて宣告した。

 メリーさんが吠えた。衝撃波が走ってセイ、椿、空碧を襲う。

 だがそれは三人の手前で弾けた。

「こっちの番ね」

 セイが手をかざす。瞬間、漆黒の光がメリーさんの目の前に出現し、その身体から魂を吸い込んで奪い取る。

「な」

「返してもらうわ」

「かえ、せ!」

「椿」

「はぁい」

 飛びかかってきたメリーさんとセイの間に降り立ったのは椿で、目の前に三つの障壁を生み出す。

「展開せよ!」

 言葉に応えて、障壁がメリーさんに飛来し、その身体を三つに両断する。

「さあ、浄化の炎に焼かれなさい」

 空碧が唱えると、青白い炎が出現しメリーさんの身体を包み込んだ。

「お、まえ、たち、は」

「私たちは、魔族」

 擦れた声に、静かにセイが答える。

「あなたに力を与えた、魔界からはぐれたはぐれ魔族を狩る、魔族」

 もう返事はない。炎が消し去った先、残ったのは小さな人形。

 ふわりと浮かんだ人形が、くすくすと笑って闇の中に消えた。

「あれはそのままにしちゃっていいのね?」

「ええ。はぐれ魔族の干渉を完全に絶って、こっくりさんとも切り離したから、あれはもう元々の、本来の力しかない怪異よ」

 椿の確認に、セイは頷いて答える。

「あーあ、魂の回収を優先しなければ、あいつに力を与えていたはぐれ魔族の居場所もわかったのに」

 空碧が退屈そうに呟く。

「仕方ないわよ。人間に被害を出さないことが第一条件だもの。

 この学園にいる、はぐれ魔族が誰かは、追々探っていくわ」

 セイはそう返して、風に髪を靡かせた。




 ハッと意識が浮上する。

 救急車の音が響いている。

「あれ…………」

 戸惑った声を上げて身体を起こした日向は、そこが食堂で、周りに沢山の生徒が倒れているのを見た。

「俺、確か」

「君! 急に起き上がったら駄目だ!」

 不意に救急隊員に焦った声で言われて、「なにがあったんですか?」と聞く。

「食堂にいる生徒全員が急に倒れたんだ。わかったら動かないように」

「え、でも、……礼賀!?」

「え、なんや……?」

 不意に起き上がった忍野の姿を見て、日向は大声で名を呼ぶ。

 忍野も状況がわかっていない様子で、困惑している。

「あー、なんだこれ」

「……わかんない」

 桐生と化野の声が聞こえて、振り返ると無事な二人の姿が見えた。

「………………どうなってるんだ?」

 困惑しきった声で、日向は呟いた。


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