第16話 純金
翌日。
俺とユリアは、誰も見ていない場所で、男の所持品を調べていた。そこは近くの教会堂の裏手であった。
「どうやら、持ち物はあるようね」
そうユリアは言いながら、テーブルの上のアイテムを並べ直していた。
一番テーブルの場所を取っていたのは、折り畳まれたビラであった。しかし、それは大した内容ではなかった。俺はそれを横へと押しのけた。
「ビラの空白に、何かメモがあるというわけでもない。とすると、本命はこちらか」
俺とユリアの目の前にあったのは、一冊のノート型手帳である。大きさはB5くらいか。もちろん、何かしら重要なことが書かれている可能性は大だ。
加えて、テーブルの上にはいくつかの鍵があった。そのどれも、形が違っている。ただ、どんな鍵穴なのか分からないと、むろん役には立たなかった。
「鍵のことも含めて、まず手帳を開いてみましょう」
俺はうなずいた。
ユリアは、ページをぱらぱらとめくった。そして言った。
「ずいぶん、いろいろなことが書かれているわ。もし真っ白だったらどうしようと思ったけれど、そうはならなかった」
「どれどれ」
俺はページを覗き込んだ。もちろん、その文字は読むことができた。
ユリアは最初のページから調べていった。そして合点した表情を浮かべた。
「やはり、か」
「どうしたんだ?」
「興味深い事実が分かったわ」
そして、ユリアはあの中肉の男が、「実験体」上がりの戦闘要員であったことを語った。つまり、死んだあの子供と、あの男は、ある意味では同類だったのである。
そのことに、さほどの意外性はなかった。
口が蜘蛛の器官に変形したのを見た時から、そうかもしれないとは思っていた。そして、あの男に耐久性がなく、岩落としの一撃で絶命したのは、恐らく下っ端だったからだろう。
「あの男が『実験体』上がりであることは、一番後ろのページを見れば分かるわ」
そして、ユリアはページを示してみせた。
すると、そこには手帳によくあるプロフィール記入欄があった。名前や誕生日、これはどうでもいいことだが、「勤務先」の欄には、ある研究所が記されていたのである。また、「住所」も書かれていた。
「ヴィレ研究所か。その名前が何であろうと、よからぬことを企んでいるのは確かだな。男はその研究所に所属しているのだろう?」
「ええ。下の欄に『危機管理課 主任実験体』とあるわ」
「役職名は、ヒラの一つ上か。まあ、そんなところだろう」
「手強かった?」
そうユリアは、先の戦闘について聞いた。
「客観的に言えば、強くはないのだろう。しかし、俺の腕がまだまだだから、そんな奴にも苦戦してしまったよ」
「そう。ならば、修行しなきゃね」
そう言いながら、ユリアは再び、ページに目を落とした。そして付け加えた。
「もともとの目的は、贋作の器具を売り付けて、活動資金を得ることだった。しかし、それが叶わなくなった以上——」
ここまで言い終えて、ユリアは押し黙った。その表情には明らかな驚きが見受けられた。俺はどうしたのかと言った。ユリアは答えた。
「この男は、ただの主任ではないらしいわ」
「どういうことだ」
「どうやら、この男は横領を目論んでいたらしい。メモの内容からそれが分かる」
「けしからんことだ。それが何の関係がある」
俺は吐き捨てた。ユリアは続けた。
「つまり、ここにはヴィレ研究所の財産のありかが記されているの。ここまで言えば——」
「なるほどね。その未完の計画を、俺たちが完成させるというわけか。といっても、それは横領というより、強奪ではあるが」
「いえ。奪還よ。どうせ不幸の上に成り立つカネなら、私たちが賢明に活用するしかない」
そうユリアは言い切った。俺はユリアの覚悟を受け取った。そして、俺は付け加えた。
「そうだ。俺たちはもう、後戻りすることはできない。あの憐れな子供が、最期に何と言っていたか、思い出すがいいのだ」
「子供たちをよろしく、と言っていたわね」
そのフレーズを聞くと、俺は改めて、胸が熱くなるのを覚えた。
「そうだ。だとすると、ヴィレ研究所——そう銘打っているからには、実験開発を行っているのだろう——が、子供たちの手がかりを握っている可能性は高い」
「手がかり? それは遠回しな表現でしょう?」
「あの背の低い男は、確かあの子供を『再生能力が低い失敗作』と漏らしていた。だとすると、すぐに傷が再生する成功作もあるわけだ。おぞましいことだが、研究所はそうとしか考えられない」
ユリアは、話がこれ以上重苦しいところに行かないために、当面のことについて話した。それに俺は驚かされた。
「残念ながら、贋作販売は成功しなかった。しかし、活動資金については心配しないで」
「?」
「この手帳のカバーに、不自然な膨らみがあるのに気づかなかった?」
「いいや」
「これとメモの情報を合わせれば、答えは一つよ」
そう言って、ユリアはノート型手帳のカバーをゆっくりと外した。すると、そこに貼り付けられていたのは、純金のプレートだった。




