第13話 実験
闇のマーケットといえども、取引には相手がある話だ。買い手が付かなければ、希少な品物も、価値はゼロである。
したがって、ユリアがまず最初にやったことは、入荷の情報をマーケットに流すことだった。
「……来たわね」
そうユリアは、掲示板を見ながら、言った。といっても、それは隠された場所にあり、しかも符牒を用いているため、俺には何のことか分からない。
「買いたい奴がいるのか?」
「そう。しかも、高値でね」
「高値?」
「少しばかりの金貨では、終わりそうにないほどの額」
俺は、目の前が明るくなるような気がした。これが皮算用に陥らなければいいが。
ユリアは掲示板に、ある符牒を書き記した。曰く、交渉成立、X月X日に取引をする、という意味らしい。
鉢合わせをするのは、まずかった。俺とユリアは足早にその場を立ち去った。
その帰り道のことである。
路地を通っていると、片隅にいろいろなビラが吹き溜まっていた。俺はすぐに視線を外した。にもかかわらず、風がこちらへビラを吹き寄せたため、俺はそれを見ざるを得なかった。
無視することは、できなかった。
「……やはり、か」
俺はユリアに目配せした。ユリアは言った。
「人相書きがあるわね。そんなに似てはいないけれど」
そこには、官憲が俺とユリアをマークしたという証拠が、残っていたのである。
「俺はともかく、ユリアは偽名を使わなければな」
「当然。身分証も何とかする。顔には仮面をつけた方がいいかしら」
ユリアはそう冗談を言った。
「そんなことをしたら目立つな」
「正確には顔は割れていない。ならば、このままでも大丈夫でしょう」
そう言いながら、宿へと着いた。宿ではまだ、怪しまれていない。男女の二人組など、いくらでもいるからだ。
そして、当日となった。
俺は、闇のマーケットで取引をする以上、なめられてはまずいと思った。そのため、腰に剣を帯びるとき、非常に緊張した。
思えば、イデアル女神と話したのが、一年前のことのようだ。そして、逃げているユリアを助けたことも。
そんな感慨を持ちながら、俺はユリアと宿を出た。時刻は朝である。マーケットが闇であるからこそ、行動様式はかえって、堅気と同じである。つまり、まったくの昼型だった。
向かう先は、しかるべき店である。やがて、その看板が見えてきた。
「マッサージと宿 ダブル・ビューティー」
そして、俺とユリアは店の中に入った。店員が訝しい顔つきをする。ユリアは言うまでもなく、女性だからだ。
「お客様。申し訳ありませんがここは……」
「予約はしています」
「予約ですか?」
「冷たい風呂に入りたいの」
すると、店員の表情が明らかに変わった。
「承知しました。お入りください」
そう言って、奥へと通したのである。構えの割には、ずいぶんと広い場所であった。その背後には裏口もある。
そこには、一人の男がいた。表情までは、うかがえない。フードを目深にかぶっているからだ。
俺とユリアは、気を引き締めてかかった。取引は、ユリアが中心に進めると事前に決めていた。
男は言った。
「リガルドの製造器具——ガセではないな」
ユリアは言った。
「それを聞いてくれるなら、話が早い。その通り、紛れもなく本物よ」
「ふうん。ずいぶん若いお嬢さんじゃないか。それでいて、本物か」
そして、男はフードを外した。あまり特徴のない、中肉中背の姿だ。こんな男が、リガルドの商売に手を染めようとは、不思議な気がした。
「道端で偶然、拾ったの。だから、高く売れるんじゃないか、と思って」
ユリアは笑みを浮かべながら、そう言い切った。
「分かった分かった。信用するよ。ただ、高い金を払うんだ。最近は偽物も出回っているからな。実験はさせてもらう」
ユリアは、テーブルの上に器具を置いた。
実験? まあ、ユリアの計画では、取引の間だけ、ガワが持てばいいとのことだった。だから、大丈夫だろう。
俺がそう思っていた時、男は裏口の方へと声をかけた。すると、その扉を開けて、もう一人の背の低い男が、入ってきた。何か荷物を背負っている。
「じゃあ、やってくれ」
そのように、中肉の男が言った。荷物の中身がほどかれた。俺はそのありさまに驚いた。
そこにいたのは、キメラ化した子供であった。片方の足がなく、そこには馬の足が接ぎ木されている。あるいは、そのように元々生えているのかもしれない。
しかし、そんなことはどうでも良かった。俺はユリアの方を見た。ユリアは、まったく顔色を変えていない。
背の低い男が言った。
「これは失敗作でね。再生能力が低いんだな。だから、馬の足なんかをくっつけないといけない……」
「余計なことを喋るな」
そう、中肉の男が釘を刺した。
そして、実験が始まった。といっても、それは簡単なことである。器具を用いて、その子供を痛めつけることができるかどうかを、確かめればよい。
まず、この憐れな子供の腕が、ターゲットであった。背の低い男は、器具の中にその腕を通した。子供は抵抗しなかった。また、その身体は拘束されているので、不可能でもある。
「じゃ、始めてくれ」と男。




