第12話 剣
「それで、贋作はできたのか」
「なかなか大変だったけど、何とか」
そう言って、品物をテーブルの上に差し出したのである。
以前見た器具に、それは極端なほどよく似ていた。素人とはいえ、じっくりと見ても区別がつかない。挟む場所も、トゲの並びや数も、そっくりそのままだった。
「まさか、これが本物、という落ちではないだろうね」
俺の冗談に、ユリアは笑った。
「まさか。ちゃんと作らせたわ」
「やはり、操作の魔法を使って?」
「詳しいことは、秘密。私にも、守らなければならない制約があるからね」
俺は、制約についてはあえて、聞かなかった。
「では、贋作はすぐに壊れるのだね?」
「そう。取引で試してみる時だけ、形が保てばいいのよ」
「見抜かれた時はどうなる?」
「十中八九、見抜かれないわ」
「じゃあ、最悪の場合は、実力行使か」
「そう。贋金を使われた時もね」
「その判別はできるのか」
「任せて」
その時、俺はそもそもの疑問を覚えた。
「リガルドの器具に、買い手はつくのだろうか?」
「私が持っているものは、それなりの希少性があるわ」
「でも、先に言っていたけど、この器具では少しのリガルドしか作れない、と」
「その『少し』であっても、マーケットでは、垂涎の価値があるのよ」
俺は納得した。もっとも、本当にリガルドが作れるのであれば、倫理的に問題がある。しかし、贋作であれば、問題は少ないだろう。
「じゃあ、必ず成功させなければね。俺たちには、試行錯誤は許されていないのだから」
「ええ」
それから、俺とユリアは少しの間、たわいない話をした。前世と異世界で、食べ物がどう違うかなど。そのようなリラックスも、必要である。
夜は更けようとしていた。俺はユリアの部屋を辞した。そして明日へと備えたのである。
◇ ◇ ◇
目の前には、剣がずらりと並んでいた。店の主人は言った。
「予算は潤沢みたいですねえ。じゃあ、こういうのはいかがですか」
そして渡されたのは、いろいろな装飾がついた堂々たる剣だ。といっても、俺はもう、何本の剣をためしに持ってみたか、分からなかった。
正直、甘くみていた。たかだか剣だろう、と思っていたが、しかるべき店に行けば、こんなにたくさんのバリエーションがあるとは。
俺はユリアに助け舟を求めたが、ユリアは「自分で決めなさい」と言った。そして、必要最小限のアドバイスしか、くれなかったのだ。
確かに、こういうものは決して一つと同じものはない。骨董品と同じで、いわゆる一点物である。とすれば、たとえ同じ種類の剣でも、どれが微妙にいちばんフィットしているかは、持ってみなければ分からなかった。そのことが、時間がとにかく食われる原因となったのだ。
すでに、開店時間の朝から、こういうことをしていた。そして、昼飯を食べて一休止してから、再開したのである。
候補は、膨大だった。といっても、さすがにチープな種類のものはすぐさま外された。そして昼下がりには、やっと三つほどに絞られたのである。
いずれも、俺の「強化」の能力に対応している。また、そうでなければ意味がなかった。つまり、魔法剣である。
一つの剣は軽やかであり、二つ目の剣は重々しい。また、三つ目の剣はリーチが長い。俺は機能に興味があった。それに比べると、装飾は二の次である。
俺は、代わる代わる、剣を持ちながら、強化の魔力を流した。もちろん、商品にダメージを与えるわけにはいかないので、軽く、である。
その中で、俺が一番フィットした種類は、一つ目であった。どんなに立派な攻撃も、敵に当たらないのでは意味がない。その点で、二つ目は外された。そして、三つ目もまた、リーチゆえの重さが気になったからである。
そして、一つ目の軽やかな剣には、二つの在庫があった。いずれも、魔力の流れ方が微妙に違っている。
「二つに一つか。迷うね」
俺はユリアにそう言った。ユリアはうなずくようにして、促した。そして付け加えた。
「その違いが分かるようになっているなら、それも能力のコントロールが進んだ証拠よ。そういう魔力は、微妙な動きをするからね」
俺はその言葉を聞きながら、同じ二つの剣を手元で持ち比べていた。しばらく経った。前者が良いような気がした。根拠を言語化することはできない。直感である。
そして、店の主人に言った。
「これにしてください」
「では、即金で一括ですね」
以上のようなプロセスにより、俺は剣を購入した。金貨のお釣りを財布に入れ、店の外を歩みながら、ユリアへと言った。
「これで、準備は整ったね」
ユリアは剣の鞘に触れながら、言った。
「装飾もいろいろ、宝石がはめ込まれている。案外、こういう気持ちの問題は、ばかにならないものよ」
「気持ちか。まあ、飾りがないのは、確かに殺風景だからね」
「試しに、抜いてみて」
真新しい剣を抜いた。そこには、肉厚の刃がきらきらとしている。空気の一分子ですら、すぐに切れてしまうようだ。
そして、俺は「強化」の魔力を剣に流した。刀身がうっすらと輝いている。
「良さそうね」
「うん。ただ、試し斬りは必要だな」
「街ではできないから、離れたところに行って、やりましょう」
それから、しばらく歩いていると、石や金属の塊がごろごろと積み上げられた、ゴミ捨て場があった。少し臭いがする。
「辺りに人はいない。ちょうど良い」
そして、俺は剣を構えた。
(……強化!)
そのように念じながら、剣を勢いよく、振りかぶった。そして、石と金属をまとめて切ろうとしたのである。
緊張の一瞬。そして、ゴミ捨て場に、割れんばかりの音が響いた。剣の刀身は、あたかも、柔らかい菓子を切る時のように、深々と入り込んだのである。
積み上げられたゴミは、切り刻まれて、バラバラになった。俺は、真一文字に振り終えた剣を見た。刃こぼれは、一切していない。あくまでも、ぎらりと光っている。
「さすがね」
ユリアはそう言ってから、拍手をしたのである。
「これなら、武器の性能には不足しない」
俺はそう言った。
「じゃあ、さっそく行きますか」
「闇のマーケットに、資金調達にだろう?」
「そう。私たちは、どんな色のお金であっても、最大限に使わなければならない。それくらいのことをしなければ、憎むべきドムスには、勝てないわ」
器具の贋作はできあがり、また武器の性能も把握した。あとは実戦があるのみであった。




