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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第一章「因果応報」
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立花家の悪霊館④

「何故、庭を見に行こうと思ったのか、よく分かりません。とにかくその時は、庭を見ておきたい、庭を見なければという思いに駆り立てられて、足が勝手に庭を向き、歩き出していました――と岡田さん、供述しています」

「いよいよですね。()()()()してきました」

「ドキドキしつこいなあ~」

()()()()して心臓が()()()()しています。期待で()()()()してしまって、()()()()します」

「オノマトペは結構です。止めないと祟りますよ」と西脇が言うと、「うへっ!」と圭亮が肩をすくめた。

「とにかく、雑草をかき分けて庭に回った岡田さんは二階のベランダから奇妙な()()がぶら下がっていることに気がつきました。巨大なマリオネットに見えたそうです。マリオネットが、ベランダの欄干から釣り下がっている。そう思ったと言っていました」

「マリオネットですか⁉」

「何だろうと確かめようと近づいて、ベランダからぶら下がっているマリオネットの正体に気がつきました。二階のベランダからぶら下がっていたのは、人間でした。岡田さんがよく知っている、悪霊館の住人、用明太さんでした」

「怖いですね~」と圭亮が首をすくめて見せる。

 西脇は、見て来たかのように遺体の状況を説明した。「首にロープを巻き付け、口元を斜めにだらしなく歪め、だらりと舌先を垂らしていたそうです。大きく見開いた目は真っ赤に充血しており、目玉がぐるりと上を向いて、白目がむき出しになっていました。充血した目が下から見ると苦悶の表情を殊更、凄惨なものに見せていたでしょう。

 首にロープを巻かれ、二階のベランダから吊り下げられていました。右腕と左足にロープが絡まっていて、首を吊られ、右腕を上げ、左足を折り曲げた格好で二階のベランダからぶら下がっていました。その姿は操り糸に吊るされたマリオネットの様に見えたと言うことです」

「西脇さん、わざと僕を怖がらせようとしていませんか?」

「はは。でもね、先生。もうひとつ、殺された住人にまつわる幽霊話があるのです。どうです。聞きたいですか?」

「怪談話は苦手ですけど聞きましょう。しかし、よく調べてありますね」

「まあ、地元ですからね。寺井君があの辺に住んでいるので、伝手を頼って調べてくれました。彼、情報収集は得意ですから」

 寺井は西脇の部下のディレクターだ。日頃、西脇は寺井のことを「あいつは気の抜けたビールだ。キレがない」と言っている。天然パーマでジャガイモのような顔、鷹揚で間の抜けたところがあり、他人を蹴落とすような性悪さがない。

「もっと小狡くになれ!」と何時も西脇は寺井に言っている。

 その寺井が地の利を生かして情報をかき集めてくれたようだ。

「西脇さんは良い部下を持って幸せですね~」と圭亮が言ったが、西脇はそれには答えずに怪談話を始めた。



 大井競馬場の歓声が微かに木霊する屋敷から第一京浜に向かって暫く進んだ辺りに、小さな酒屋がある。「市野酒店」と看板が上がっている。店の前にずらりと自動販売機が並んでいる。店内は閑散としており、酒屋よりも自動販売機の売上収入の方が多そうだ。どちらが本業なのか分からない状態だ。

「酒屋の主は市野真琴(いちのまこと)さんと言う中年の女性です。近所の小学生は彼女のことを『妖怪ババア』と呼んでいるそうです。まだ五十代で、“ババア”呼ばわりは少々、気の毒な気がしますが、霊感が強いことが自慢だそうで、酒屋の前を通って学校に通学する小学生を捕まえては、『あなた変な霊が憑いているから気を付けなさい』などと真顔で言ったりもするものだから、変な渾名をつけられてしまったようです」

「妖怪ババアはちょっと気の毒ですね。妖怪オバサンにしておけば良いのに」

「先生。十分、失礼ですよ。寺井君が聞き込んできた話によると、ふらりと店にやって来た客に、『貴方には死んだお祖父さんの霊が憑いている』と言って気味悪がられたこともあるそうです」

「私は霊感が強いの」常々、真琴はそう自慢していた。丸顔で人懐っこそうな顔をしており、特徴的な眉毛と霊感が強いことを除けば、どこにでもいる普通の主婦だった。

 その「妖怪婆」こと真琴が悪霊館こと「立花家の幽霊屋敷」ついて話す時、心底、恐ろしそうな顔をする。「ダメよ、ダメダメ!あそこに近づいてはダメ。あの屋敷には性質の悪い怨霊が取り憑いているのだから。あの屋敷で昔、一家惨殺事件があったのを、知っているの? 惨殺された一家の怨霊が悪霊となって、あの屋敷に取り憑いているのよ。屋敷に近づく人間は、皆、誰彼なく祟られるの。悪霊に祟られたくなければ、あの屋敷には近づかないことだわ。

 この辺はね、近所に鈴ヶ森の刑場があったから、もともと怨霊の多い場所なのよ。中でも、あの屋敷の悪霊は特に恐ろしいものなの。屋敷に取り憑いていた地縛霊が大きくなったのか、或いは、どこからか更に凶悪な悪霊を呼び寄せたのか、分からないけど、今では屋敷全体が悪霊の巣窟のようになっている。あなたも、あの『幽霊屋敷』の怪談は知っているでしょう? あの屋敷は正に『悪霊館』と呼ぶに相応しい場所よ。ああ~、くわばら、くわばら・・・」と言って、祈りを捧げようとするらしい。

「その妖怪ババアが言うには――」と西脇が怪談話を語り始めた。

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