立花家の悪霊館③
「遺体を発見したのは岡田寛という人物で、インターネット・プロバイダー、『ネットプレス』の訪問販売員です」
「ああ、あの『安い~早い~』のコマーシャルで有名な」と圭亮が歌ってみせた。
意外に美声だ。「ネットプレス」はインターネット・エクスプレスを省略したもので、新規のインターネット・プロバイダイーとして目下、業界で注目を集めている。高速度、低価格を売りに加入者を募り、急成長している。
「ええ。岡田さん、廃墟にしか見えない幽霊屋敷に、人が住んでいることを知っていました。一年ほど前、屋敷の住人からインタネート回線の申し込みを受けました。屋敷の住人はネット・ゲームに凝っているようで、『ゲーム以外の通信は必要ない』と大手の通信会社からネットプレスに乗り換えたそうです。その手続きをしました。新規加入者の名前を用明太と言いました。まだ二十代の若さで、この廃墟のような屋敷に、一人で住んでいるようだったそうです。回線工事を含めて二、三度足を運びました。何時も通り、岡田さんは屋敷の門の鉄柵を乗り越えて中に入りました。屋敷を訪れる時は、何時もそうしているそうです。ちなみに被害者の名前はまだ、警察から発表されていません。我々が独自で掴んだ情報です」
どうやら岡田という人物から直接、情報を仕入れて来たようだ。
「なんだか、ドキドキしますね」と圭亮が震えて見せる。
「止めてください。女子高生みたいな真似は。気持ち悪い」
「失礼しました。屋敷の門はいつも閉まっているのですね」
「廃墟だと思って廃墟マニアが勝手に侵入したり、遊び場を求めて子供が入り込んで来たりするそうです。それが嫌で、屋敷の門の鉄柵はいつも閉まっています。まあ、大人なら簡単に乗り越えることができる高さです。インターホンが門柱に設置されていますが、長い間、使われない内に故障してしまったようです。電池切れかもしれませんね」
「鉄柵を乗り越えるところを人に見られたら、泥棒だと勘違いされかねませんね。きっと岡田さん、ドキドキしたでしょうね」
「もういいです。先生。ツッコミませんよ。説明を続けます。岡田さんは、新しい料金パッケージの紹介に屋敷を訪れたそうです。形式的にドアをノックしたそうですが、反応がありませんでした。回線工事をした時に、用明さんが日頃、二階で生活していることを知っていました。ドアをノックしても、二階の部屋まで聞こないことを岡田さんは分かっていたので、『失礼します』と声をかけて、屋敷に入ったそうです」
「鍵はかかっていなかったのですか?」
「はい。門の鉄柵に鍵は掛けてありますが、屋敷の入口のドアには鍵がかかっていない。前回、訪問した時からそうだったようです。用明さんは鉄柵に鍵をかけて、それで戸締りをしたつもりになっていたのでしょう。不用心ですね」
「簡単に泥棒に入れそうですね」
「岡田さんもそう思ったそうです。まあ、屋敷の一階は、廃墟のようになっていて、金目のものはないそうです。二階に用明さんがいますが、例え泥棒が入ったとしても、最新のゲーム機くらいしか盗む物はなかったでしょう。それに、用明さんは、引きこもりと言って良く、ほとんど外出しないらしいので、泥棒に入られる心配はないかもしれません」
玄関から入って直ぐ、二階へ続く階段がある。用明太が一階にいないことは分かっているので、岡田は一階には目もくれずに階段を上がって行った。
二階部分は廊下を挟んで部屋が左右に分かれている。右手に寝室、左手に書斎、トイレ、シャワールームにベランダがある。二階部分は、一階部分と違って生活感がある。但し、ろくに掃除をしていないので、ゴミ屋敷状態だった。
「用明さんの姿がありませんでした」
書斎、寝室と覗いてみたが、用明太の姿はなかった。
テレビの電源は切れていたが、テレビに接続されたゲーム機の電源が点けっぱなしになっていた。ちょっとそこまで、買い物に出たといった感じだった。
「いくら廃墟のような家でも、他人の家に勝手に入り込んで、部屋の主が戻ってくるのを待つのは流石に気が引けたそうです。そこで、岡田さんは出直すことにしました。
昼間でも薄暗い屋敷の階段を降りている時、ふいに誰かに見られているような気配を感じたと言っています。毎回、屋敷を訪問する度に、誰かに見られているような気配を感じるそうです。よくこんな家に一人で住んでいると思いながら、逃げ出すように外に出ました」
「おお~幽霊屋敷らしくなって来ましたね」
「先生。喜んでいませんか?」
「一家惨殺事件があったお屋敷でしょう。きっと屋敷に憑りついた幽霊が岡田さんのことを見ていたのだと思います」
「まあ、否定はしませんけどね。話を続けましょう」
玄関から外に出ると、外は春の陽光で満ち溢れていた。岡田は生き返ったような気がした。帰る時もまた入口の鉄柵を乗り越えて出て行かなければならない。
その時、何故か庭の様子が気になった。




