悪霊の裁き②
週末の放送が近づいていた。
西脇は圭亮にひとつ、頼み事をした。今回の取材、どこまで放送して良いのか、竹村たちに問い合わせておいてくれということだ。これだけ捜査に協力したのだ。少しは見返りが欲しかった。
「はい。分かりました」
竹村たちとは馬が合うようで、圭亮は二つ返事で引き受けたくれた。連絡相手が須磨となると、ぐだぐだとゴネられてしまう。須磨と仲が悪い訳ではない。須磨は人と話いても表情を変えないし、口調に抑揚がない。「ひょっとして怒っているのでは?」、「何か気に障ることを言ったのだろうか」と人一倍気を遣う性格の圭亮は、須磨と話をしていると疲れ切ってしまうようだ。
その圭亮からの返事がなかなか来なかった。
そろそろこちらから電話をしてみようかと思い始めた時、やっと圭亮から電話があった。丁度、打ち合わせが始まったところで、「先生。相変わらず間が悪い」と西脇は愚痴を言いながら、打ち合わせを抜けると電話に出た。
「須磨さんでした」と開口一番、圭亮が言った。
「須磨さん? 須磨さんがどうかしたのですか?」
「今度は須磨さんが現れました」
「須磨さんが現れた? どういうことです?」
「それが――」圭亮の話によれば、竹村に電話をして、週末の番組でどの程度まで話をして良いのか尋ねたと言う。すると、竹村は「上と相談しますので、少々、お待ちください」という返事だった。
そして、竹村の返事を待っていると、突然、須磨から「今からお伺いします」と電話があったと言うのだ。
「須磨さんから電話があったのなら、僕に連絡してくれれば良かったのに。直ぐに駆けつけましたよ」と西脇が言うと、「それが・・・」と圭亮が当惑気味に言う。
須磨が言った「今から」は言葉の綾ではなく、本当に圭亮のマンションの前まで来ていて、そこから電話を掛けて来たのだ。
「慌ててコーヒーを準備したので、西脇さんに電話する余裕がありませんでした」
圭亮のもてなしと言えばコーヒーだ。
「それで、何の話だったのです?」
「事件が解決したので、その報告です。須磨さんにとっては、捜査協力に対する礼のつもりなのでしょう」
「何か、新しい情報を聞けましたか?」
「新しい情報? えっ、そうですね~」
「覚えていないのですか⁉」
緊張のあまり覚えていないのだ。
「いえっ! そんなことは・・・そう言えば――」と先日、立花弁護士から聞いた話をし始めた。暫く黙って聞いていたが、とうとう我慢できなくなり、「先生。その話はもう知っています。何か新しい情報は無いのですか?」と圭亮の話を遮った。
「すみません。新しい情報・・・新しい情報・・・ああ、そうだ!」と圭亮は何か思い出した様子だった。
「何ですか?」
「遺体の第一発見者、岡田さんが悪霊館の二階の、あの仙石道幸さんが使っていた部屋に入った時、テレビの画面は真っ暗だったそうです。岡田さんは『書斎に入った時に、ゲーム機の電源は入っていたが、テレビは消えていた。だから、住人は外出しているのだろうと思った』と証言しています。天野勇次が部屋に乱入した際、仙石道幸さんはゲームをして遊んでいました。となると、事件後に天野勇次がテレビの電源を切ったことになります」
「ああ、そうですね」
「事情聴取で、刑事、恐らく、竹村さんでしょうけど、そのことを天野勇次に尋ねたそうです。すると、天野勇次は考え込んでしまったそうです」
「考え込むようなことですかね」
「よく、覚えていないのですがと断った上で、書斎を通って廊下に出ようとした時、テレビの画面が目に入りました。私はゲームなんてしませんので、どういう意味があるのか分かりませんでしたが、何故か、その画面が気になりました。甲冑を纏った若い男が、画面の中でくるくると回っていました。男の上に名前が表示されていて、『オムライス』と書かれていました。『変な名前だ』と思いました。そして、『早く逃げなければ!』と思いながら、何故か、テレビの電源を切りました。そう証言しているのです」
「オムライス・・・」
西脇が絶句する。最近、オムライスの話を聞いたからだ。
仙石道幸が小学生だった頃、母親の真知子が体調を崩して寝込んだことがあった。その時、道幸は小遣いを握り締めて近所の洋食屋に行くと、オムライスを頼んだ。真知子の大好物だったからだ。そんな話を真知子が涙ながらに語っていた。
インターネットを通じて仲間と狩りを楽しむゲームで、仙石道幸は「オムライス」のハンドルネームで活動をしていたようだ。「オムライス」はゲーム・ファンの間で、「名ハンター」として、有名人だったらしい。
「遺体の確認の為に、仙石さんご夫婦が上京して来ていました。その話を聞いた真知子さんは『オムライスですか・・・あの子は、私のことを、忘れてなんかいなかった』と言って泣いていたそうです」
「そうですか・・・」
これには西脇もしんみりしてしまった。
沈黙を吹き飛ばすかのように、「ああ、そうだ。もうひとつあります。こちらは、もの凄い話ですよ」と圭亮が明るく言った。
「もの凄い話ですか! 聞かせてください」
「仙石道幸さんは出石藩の家老だった仙石造酒の末裔だという話でしたよね?」
「ああ、そんな話、ありましたかね。仙石騒動でしょう」
「そうです。取り調べで、刑事さんが天野勇次に『お前が殺した仙石道幸は兵庫県の出石にあった出石藩の家老、仙石造酒の末裔だそうだ』というような話をしたそうです。すると天野勇次は驚いた様子で、『実は私は仙石左京の末裔なのです』と言ったそうです」
「仙石左京ですか? ええっと・・・確か・・・」
「仙石左京は仙石騒動で仙石造酒と争った相手です。天野勇次の祖母と言うのが、大阪の商家の出身だそうです。その祖母が『うちは出石藩の仙石左京という家老様の子孫だ』と言っていたということなのです。
仙石左京について調べてみたのですが、左京本人は悪霊館に程近い、鈴ヶ森の刑場で死罪となりました。息子の小太郎は八丈島に遠島になる途中で病死したと伝えられています。ただ、左京には娘がいたようで、出石を追われ娼婦となったが、大阪の生糸商人が見受けをして妻にしたという言い伝えがあります。
天野勇次はその血流なのかもしれませんね。しかし、仙石造酒の子孫が仙石左京の子孫を見殺しにした。そして、また仙石左京の子孫が仙石造酒の子孫に復讐をしたことになります。仙石家の二人の家老が現代でも子孫を通じて争っているみたいです。考えただけでも空恐ろしくなって来ます」




