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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第四章「盤根錯節」
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悪霊の裁き①

「仙石道幸さんに用明太さんの身代わりとして生きて行くことを頼んだのですか?」と圭亮が竹村に続いて言った。

 立花弁護士は苦笑いを浮かべると、「彼にそんなこと頼んでなんかいません」と答えた。

「父親の遺書に仙石君のことが書かれていました。彼のこと、よろしく頼むと書いてあったのです。亡き父の意思でした。だから、豊岡まで彼を引き取りに行きました。東京に連れ帰り、取りあえず用明太が住んでいた品川の屋敷に入ってもらいました」

「それはまた・・・」と圭亮が絶句する。

 つい先日、殺人事件が起きたばかりで、庭に遺体が埋まっている屋敷に人を入れるなんて、どういう神経をしているのだろうと思ってしまったのだ。

 それを察した様で、立花弁護士は「あくまで一時的な措置でした。取り敢えずアパートでも探してもらおうと思い、彼を屋敷に案内すると、屋敷が気に入った様子でした。部屋の主は行方不明になっていることを伝えると、『ここに住みたい』と言いだしました。その後、部屋の中から用明太の預金通帳とカードを見つけて来ました。通帳の預金額を見て驚いたようでした。『前の住人が忘れていったものだ』と答えました。『忘れていったものなら、俺が使っても良いだろう。要らないから置いていったのだから』と言い出したのです。彼が勝手に用明太を名乗り、預金を横領し、屋敷で暮らし始めたのです。『俺はどうせ親に捨てられた子だ。名前なんてどうでも良い』と仙石君は言っていました。用明太がどういう人物だったのかということに、仙石君はまるで感心を示しませんでした」と弁解した。

「彼が勝手に用明太を名乗ったと言うのですか?」

「そうです。用明太は黒田重信氏に命を狙われており、身を隠す必要がありました。両親を黒田氏に殺されており、他に親しい身寄りはいませんでした。用明太が、人知れず行方不明になったとして誰も気にしなかったはずです。実際、父が自殺して、用明太の行方が分からなくなっても、誰も彼を探そうとしなかった。用明太の身代わりなど必要ありませんでした。偶然、そうなっただけです」

 確かに一理ある。

「仙石道幸さんは用明太として、銀行口座のお金を勝手に使って、食いつないで来たのですね。結構な金額が口座にはあったのでしょう。だが、それが二カ月前に尽きてしまった。そこで道幸さんは実家に電話をして、金の無心をした」

「そうだと思います。彼が実家と連絡を取っていることは知りませんでした。まあ、彼が誰と連絡を取ろうと、私が関与することではありませんが」

「そうですか・・・」

 用明太殺害の実行犯は立花宗徳弁護士であり、立花宗明弁護士は仙石道幸を豊岡まで迎えに行って屋敷に住まわせただけということになる。

「仙石道幸さんは用明太さんが少女誘拐殺人事件の容疑者であることを知らずに、用明太さんとして生きて来たのでしょうか?」と圭亮が問うと、「多分、そうだと思います」と立花弁護士が答えた。

 圭亮がしみじみと言った。「今となってはどうでも良いことなのかもしれませんが、道幸さんが言った『親に捨てられた子』という言葉が気になりました。道幸さんは他人として生きる人生に、何を感じていたのでしょう? 出石で母親の真知子さんとお会いしましたが、どこにでもいるような普通の優しいお母さんでした。一体、どこで親子はボタンを掛け違えてしまったのでしょうね。何とも、悲しい話です」


 立花弁護士事務所での長い事情聴取を終えて、外に出た。

 新橋の町は夜の賑わいを迎える準備を始めていた。

「ここで別れましょう」という話になったのだが、皆、事情聴取の余韻にひたりたかったようで、ロビーで立ち話を始めた。

「どう見ます? 鬼牟田さん」と竹村が聞く。

(おおむ)ね立花弁護士の供述通りだと思います」

「概ねですか?」とすかさず西脇が問い質す。

「概ねです。途中から供述が怪しくなりました」

「仙石道幸さんを迎えに行った辺りからですね。いや、その前かな」

「はい。立花宗徳弁護士が用明太の遺体を庭に埋めて、調布の自宅に戻ったという辺りからです」

 二人には共通した感覚があるようだ。

「ということは、用明太の遺体を埋めたのは立花宗徳弁護士ではないということですか?」と吉田が聞いた。

 どうやら分かっていないのは西脇だけのようだ。

「恐らく」、「そうでしょう」と竹村と圭亮が答えた。

「息子の宗明氏が用明太の遺体を発見して庭に埋めた訳ですね」と吉田が聞くと、「遺書に用明太さんを殺害したことが書いてあったのは間違いないでしょう。だから、宗明氏は慌てて品川の屋敷に飛んで行った。そして、遺体を発見して、庭に埋めた――というのが真相でしょうね」と圭亮が答えた。

「そうなると――」

 吉田の言葉に「そうだ」、「恐らく」とまた、竹村と圭亮が答えた。三人には共通する認識があるのだ。西脇だけが分からない。仲間外れになっているようだった。

「先生。詳しく説明してくださいよ」と圭亮に泣きついた。

「ああ、すみません。何処で誰が聞いているのか分かりませんので、言葉不足になっていたようです。竹村さんたちが言いたいのは、立花宗明弁護士は悪霊館で用明太さんの遺体を発見すると、それを庭に埋めた。そして、仙石道幸さんを用明太さんの身代わりにすることを思いついた。だから、豊岡まで彼を迎えに行き、悪霊館に住まわせた。それだけでなく用明太さんの預金通帳を見せて、彼として生きるのなら自由に使って良いと言った。だって、不自然でしょう。預金通帳やカードを与えたからと言って、現金が引き出せる訳ではありません。暗証番号が必要になります。用明太さんの両親の遺産を整理した際、立花弁護士は彼名義の銀行口座を開いて、そこに現金を振り込んでいます。暗証番号を知っていたはずです。それを仙石道幸さんに教えた」

「ああ~そうか」

「遺体を埋めたばかりの屋敷に仙石道幸さんを招き入れるなんて、聞いていた無理があるなあ~と思ってしまいました。お父さんが亡くなってからのことについては、証言に矛盾が多いと思いました」

「その通りです」と竹村が太鼓判を押してくれる。

「立花宗徳弁護士は包拯に例えられるほど、公平で公正な人だったようですが、息子の宗明弁護士は清濁併せ呑むことができる人のようです」

「はは」と竹村が笑いながら言った「ものは言い様ですね。要は、立花宗明弁護士はクロだということでしょう。決して、善意の第三者などでは無かった。弁護士としての自分の将来に傷がつかないように、事件をもみ消そうとした。それが、今回の事件の発端となってしまった。しかも、保身の為に、自分がやったことを、全て父親の仕業にしてしまおうとしている」

「なるほど。父親に似ず曲者だってことですね」と西脇が感心する。

「ですが、困ったことに・・・」

 圭亮が口ごもってしまったので、竹村が代わりに言った。「ええ、そうです。彼を罪に問うことは難しいでしょうね。関係者が死んでしまっているので、証拠がない」

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