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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第四章「盤根錯節」
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絡まり合った糸③

 あの事件とは、黒田重信による用明夫婦殺害事件のことだ。

 警察署を後にした黒田は自宅に戻り、そこで愛する妻の冷たくなった亡骸と対面した。正気を失った黒田は台所から包丁を持ち出し、用明家へと押し入った。そして、用明太の父、忠也と母、晶子を殺害してしまう。そして重信はいずことなく姿を消した。

「父は黒田氏が引き起こした凄惨な事件に随分と心を痛めたようです。用明太こそ、愛する娘を無慈悲にも殺害した犯人だと信じていた黒田氏が、用明夫婦を殺害した。逃走中の黒田氏が、何時、用明太を殺しにやって来るのか分かりません。自宅には戻せない。そこで父は改装が終わったばかだった品川屋敷に用明太を匿いました」

 黒田重信から守る為に、用明太は悪霊館に匿われた。その用明太が何故、庭に埋められ、白骨遺体となっていたのだろうか。

「間もなく、父のもとに一本の電話がありました。電話をかけて来た相手は黒田重信氏でした。さぞかし驚いたことでしょう。自首を勧める父に黒田氏は、『自分の始末は自分でつける。今から富士の樹海に行き、首を吊るつもりだ』と打ち明けました。そして、『もし用明太が娘を殺した犯人であれば、約束通り、彼にその責任を取らせて欲しい』と言い捨てると、電話を切りました」

「黒田重信さんは富士の樹海で自ら命を絶ったのですか・・・となると、蝶ネクタイの男は一体、誰だったのでしょう?」

 黒田重信は犯行後、青木が原の樹海で自殺したと言う。遺体は人知れず樹海に埋もれ、朽ち果ててしまっているのだ。となると、悪霊館の周辺で目撃されていた黒田重信と思しき蝶ネクタイの男は誰だったのかと言う問題が出て来る。竹村もその姿を見ている。

「それは私です」と立花弁護士が言う。

「あなた・・・!」

「はい。一カ月程前、屋敷の近くで、事件が起こりましたね」

 天野敬一郎の殺人事件だ。

「胸騒ぎがしたのです。何故か、あの殺人事件がきっかけとなって、全てが白日の下に晒されてしまうような気がしました。そこで、帽子を被り、サングラスにマスクをして、屋敷の様子を見に行きました。過去にも同じ変装で、屋敷の様子を伺ったことがありました」

 そこを近所の主婦に目撃されてしまった。

「なるほど。あなたでしたか。蝶ネクタイをしていたものですから、黒田重信さんではないかと噂になっていました」

「実は、あの蝶ネクタイは黒田重信氏のものだったのです」と立花弁護士が言った。

「本人のもの?」

「警察署の前で父と黒田氏がもみ合いになった時、黒田氏は蝶ネクタイを落として行きました。それを父が拾ったのです」

「屋敷で何かあった時に、黒田重信さんの仕業と見せかけたかったのですか? ひょっとして仙石道幸さん邪魔になり、黒田重信の仕業に見せ掛けて始末するつもりだったのではありませんか?」

「馬鹿な――」と立花弁護士は一笑に付した。そして、「ただ、単に目立ちたくなくて変装をしただけの話です。さて、話を戻しましょう」と自白を続けた。

「黒田氏からの電話を受けた父は、品川の屋敷に用明太を訪ねました。そして、黒田氏が富士の樹海で自殺しようとしていることを伝えました。すると、それを聞いた用明は『これでやっと大出を振って、町を歩くことができる』と大笑いをしたそうです。黒田氏に両親を殺害され、表向きは悲痛な表情を装っていましたが、用明太は両親の死を嘆き悲しんでなどいなかった。いや、むしろ、いなくなってくれて清々したと漏らしていました。そんな用明太を見て、父は不安になりました」

「何が不安になったのでしょう?」

「それは・・・父は用明太に『黒田麻衣ちゃんを殺していないな?』と問い質しました。用明太は笑いながら、『俺がやったんだよ。あの子に悪戯したくて誘拐したけど、騒がれたので殺してしまった。無罪にしてくれて、ありがとうよ。全てあんたのお陰だ』と答えたそうです」

「やはりやつが!」竹村が叫んだ。

 黒田麻衣ちゃんを殺害したのは用明太だった。

「正義感の塊のような父にとっては、用明太の言葉は死刑宣告に聞こえたことでしょう。黒田と交わした約束通り、自らの手で用明太に犯した罪の代償を払わせなければならない。父はそう考えたのだと思います」

「う~ん・・・」圭亮は立花宗徳弁護士の心中を慮って絶句した。

「『自首をしろ!』と諌める父を、用明太はあざ笑いました。それでも父は懸命に自首を薦めました。ですが、用明太は馬耳東風と聞き流しました。父は『もう良いだろう』と部屋に逃げ込もうとする用明太の腕をつかむと『しつこい!』と父に殴りかかってきたそうです。必死に抵抗している内に、父は用明太を絞め殺してしまいました」

 立花弁護士はまるで見て来たように言う。そこまで細かく遺書に書かれていたのだろうか疑問は残るが、用明太を殺害したのは立花宗徳弁護士だった。

「・・・」応接室は沈黙に包まれた。

 立花弁護士はテーブルの上に置かれた冷めたコーヒーに手を伸ばして喉を潤すと、話を続けた。「用明太を殺害してしまった父は、その過剰な正義感から、今度は自らの罪の重さに耐えきれなくなってしまった。用明太の遺体を庭に埋めると、調布の自宅に戻り、書斎に引き籠りました。そして、遺書を(したた)めると、書斎に保管してあった猟銃で自殺を遂げてしまったのです」

 そして、立花弁護士は銃声を聞き、書斎に飛んで行って、変わり果てた父親の姿を発見したのだ。

「机の上に置いてあった父親の遺書を見つけました。遺書には、用明太を殺害してしまったことの詳細が(つづ)られていました。これはとても人に見せることができないと思いました。だから、遺書を燃やしてしまいました。父の自殺が報道されると、世間は勝手に、用明太を無罪にしてしまったことを悔いて自殺したと勘違いしてくれました」

「そして、あなたは事件を闇に葬った」と竹村。

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