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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第四章「盤根錯節」
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絡まり合った糸②

「・・・」立花弁護士の沈黙が続く。ここが正念場と見ているのか、竹村も無言でプレッシャーを与えた。

「僕は――」と圭亮が沈黙を破った。「立花さんが仙石道幸さんを預かった時点で、用明太さんは既に殺害されていたと思っています。立花さん、あなたは預かった仙石道幸さんを用明太さんの身代わりにしようとしたのではないですか?」

「身代わりですか?」立花弁護士が口を開いた。

「はい」と圭亮は言って大きく頷いた。

 すかさず竹村が質問を投げかける。「あなたが仙石道幸さんを引き取った時、用明太が殺されていたのだとすると、彼は一体、誰に殺されたのでしょうね? 仙石道幸さんを身代わりとして引き取ったのがあなたなら、あなたが彼を殺したということになるのではないでしょうか?」

「私が⁉」と立花弁護士は驚いた顔をした。「私が何故、用明さんを殺さなければならないのですか?」

 確かに立花弁護士には用明太を殺害する動機がない。

「はい。あなたには用明太さんを殺害しなければならない動機がありません。用明太さんは、あなたのお父上、立花宗徳氏により殺害されたのではないかと思っています」

「失礼な!」と立花弁護士は怒りの表情を見せた。

 圭亮の一言が応接室の空気を凍りつらせた。だが、圭亮はひるまない。信念を以て話を続ける。「立花宗徳弁護士は用明太さんの少女誘拐殺人事件の弁護を引き受け、見事、無罪を勝ち取りました。学生時代、立花弁護士と同級生だった藤井さんの言葉によれば、立花弁護士は『立花中丞』と渾名されたほど、正義感の強い人だったということです。『中丞』とは中国で清廉潔白な政治家として有名な包拯の呼称のひとつで、中国の官位を現しています。包拯は自分の身内であっても、罪を犯せば容赦なく罰したと言われています。立花弁護士は強烈な正義感から、卑劣な少女誘拐殺人事件の犯人だった用明太さんを無罪にしてしまったことを悔いていたのかもしれません。もしかすると・・・」

「もしかする?」

「もしかすると、立花弁護士は用明太さんを殺害する為に無罪にしたのかもしれない・・・そんなことを考えたりしました」

「馬鹿な!父に限って、そんなことはあり得ない」

 立花弁護士の怒りが爆発した。椅子から立ち上がると、拳を握り締めて、ぶるぶると小刻みに震えながら、圭亮を睨みつけた。

「すみません。ちょっと考え過ぎたかもしれません。ですが、立花弁護士は何らかの事情で用明太さんが少女誘拐殺人事件の犯人であるという確信を持つに至った。無実を信じて無罪を勝ち取ったのに、用明太さんはやはり少女誘拐殺人事件の犯人だった。立花弁護士は苦悩し、その強すぎる正義感から、ついに用明太さんを殺害してしまった。そして今度は、自らの犯した殺人という大罪に耐え切れなくなり、自らの命を絶った。そんな風に考えました」

 圭亮の言葉はどこか寂し気だった。気の優しい圭亮だ。立花宗徳弁護士への同情を禁じ得ないのだ。

 圭亮の言葉を聞くと、立花弁護士は「ふっ!」と大きく息を吐くと、糸が切れた操り人形のように、どすんとソファーに崩れ落ちた。そして、疲れ切った表情で、弱々しく言った。

「分かりました。真実をお話しましょう。私の知っていることを、全てお話します」


「父が自宅で猟銃自殺を遂げた時、遺書があったのです」と立花弁護士が言う。

「遺書があったのですね」

「はい。あの日、私は仕事を終えて自宅に戻り、二階の自分の部屋でベッドに横になっていたのですが、階下でもの凄い音がしました。父はいつも夜遅くまで書斎にいました。書斎に駆けつけてみると・・・」立花弁護士は言葉を切り、目をつぶった。当時のことを思い出したのだろう。そして、「机の上にあった父の遺書を見つけました」と言った。

「遺書はどうしたのですか? 遺書があったという記録はありませんでしたが」

 当時の捜査資料に、遺書があったという記載は無かったようだ。

「遺書は、一読後に燃やしてしまいました。灰になりました。遺書には驚くべき事実が記されていたからです」

「驚くべき事実ですか」

「父は少女誘拐殺人事件の被害者である黒田麻衣ちゃんの父親、黒田重信氏と顔見知りでした。黒田氏が用明太の釈放を知り、警察署に抗議の為に駆けつけた時に、用明太の身柄を引き取りに来ていた父と偶然、出会いました。そこで黒田氏は『娘を誘拐し、弄んで殺してしまったような男を弁護して、恥ずかしくないのか!』と痛烈に父を批判しました」

「正義感の強かった立花弁護士には黒田重信さんの非難はさぞ応えたことでしょうね」と圭亮が口を挟む。

 立花宗徳弁護士は宋の清官として名高い、包拯に例えられるような人物であった。不正を憎む気持ちは誰よりも強かっただろう。

「そうだったでしょうね。しかし、この時点では、父はまだ用明太の無罪を信じていました。『彼は本当に有罪なのでしょうか? 彼が麻衣ちゃんを殺害した犯人がどうかは、貴方にも分からないはずだ。無罪の人間を罪に陥れて良いのでしょうか?』と黒田氏に反論しました」

「用明太は無罪を主張していた。それをお父さんは信じていた」

「勿論です。『彼が、犯人だったら、娘を殺害していた犯人だとしたら、どうするのですか?』と黒田氏が重ねて尋ねると、父は『その時は、私が彼にきっちり、責任を取らせます』と答えました。あの時、用明太は父に『自分は無実です。お願いです。どうか助けて下さい』と繰り返し訴えていました。父はそれを信じていたのです。その後、あの事件が起きます」

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