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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第四章「盤根錯節」
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絡まり合った糸①

 事件は大詰めを迎えようとしているようだ。

 西脇にも、そのことが実感できていた。仙石道幸の事故のように絡まり合った糸が、少しずつ解けて行く過程を見ているかのようだ。

 再び虎ノ門にある立花弁護士事務所を訪ねた。

 突然の訪問に、「少々、お待ちいただくことになるかもしれません」と受付の女性に言われた。

 前回同様、見晴の良い応接間に通された。

 受付の女性が気を利かせて、「コーヒーをお持ちしますね」と言って応接間を出て行った。

「やあ~嬉しいな」と圭亮が子供の様に歓声を上げる。

 程なく、「お待たせしました」と立花宗明弁護士が姿を現した。相変わらず高そうなスーツを身にまとっていた。

「刑事さん。何時も突然ですね」と軽く厭味を言ってから、「まあ、こちらからも話がありましたので、丁度良かった」とソファーに腰を降ろした。

「こちらの鬼牟田先生のご協力もあって、被害者の身元が判明しました」と竹村が話を始めた。

「ああ、鬼牟田さん」と立花弁護士が圭亮の顔を見る。「ご活躍の御様子で。警察の顧問のような仕事もなされているのですね」と言う。圭亮のことを調べたのだろうか。

 圭亮が「はい」と臆面もなく答えた。

 戦闘開始だ。竹村が口火を切った。「品川のお屋敷で、ベランダから首を吊っていた変死体の身元が分かりました。仙石道幸という人物でした」

「仙石道幸?」と立花弁護士は首を傾げた。

 惚けているのだろうか。

「一カ月前に品川で起きた通り魔事件をご存じでしょうか? 天野敬一郎という青年が刺殺された事件です」

「ああ、聞き及んでおります。職業柄もありますが、品川の屋敷の近くで起きた事件だと言うので、気になって注目していました。確か、犯人は捕まっていたはずですが」

「はい。松本穣治という若者が、ガンをつけたという理由で被害者を刺し殺したことが分かっています。その事件がお屋敷に住んでいた仙石道幸さん殺害の動機になっていたのです」

「殺害の動機?」

「そうです」と竹村は仙石道幸が殺害された経緯について説明をした。

 天野敬一郎が殺され、当日のコンビニの映像を見た父親の天野勇次が息子を見殺しにした仙石道幸を問い質す為に屋敷を訪れた。天野は息子を殺され、平静を失っていた。険悪な雰囲気となり、ベランダへと逃げだした仙石道幸は洗濯紐に絡まって命を落とした。

「なるほど、痛ましい事件でしたね」と立花弁護士が悲痛な表情をした。

 ここからが本番だ。

「さて、先ほど、被害者の名前を仙石道幸だとご説明しましたが、どうして分かったと思います?」

「さあ?」惚けているのか、それとも本当に知らないのか、立花弁護士の表情からは何も読み取れなかった。

「お屋敷に残されていた用明太の銀行口座の金の流れを調べたのです。すると、二カ月前から用明太に仕送りをしていた人物が浮かび上がって来ました。仙石真知子という人物です」

「仙石真知子?」

「仙石真知子さんは出石にご在住で、鬼牟田先生に出石まで足を運んでいただき、話を聞いて来てもらいました。仙石真知子さんの話では十年前、息子の道幸さんの家庭内暴力に耐えかね、藤井修二さんという方に相談したそうです。藤井さんは神戸地検の元検事さんで、神戸地検をリタイヤされ、生まれ故郷の出石に戻って来ておられていました」

 藤井修二の名前が出た時、立花弁護士が僅かに眉を寄せた。

「相談を受けた藤井さんは、『暫く親元から離した方が良い』と言って、息子さんを知り合いに預けたと言うのです。その息子さんを送り出す日、たまたま都合が悪くなった藤井さんに代わって、藤井さんの友人で豊岡北警察署の署長だった甲本さんという人が、道幸さんを迎えに仙石家に行きました。そして、甲本さんは道幸さんを送って豊岡駅に行き、駅で藤井さんの知人に道幸さんを引き渡しました」

 そこで竹村は言葉を切ると、「その知人は『立花』という名前だったそうです」と続けた。

「・・・」立花弁護士は無言だった。今度は表情を変えなかった。

「甲本さんの話では、藤井さんと、立花さんは、大学の同期で、仲が良かったそうです。仙石さんから相談を受けた藤井さんは立花さんに相談して、立花さんの方で暫く、道幸さんを預かることになった。甲本さんが道幸さんを駅に送って行くと、父親の代理だと名乗る人物が道幸さんを引き取りに来ていたと言うことです」

「立花という姓は関西に多い姓ですよ。福岡にも多い」

「藤井さんが出た大学の卒業名簿を調べてみました。ありました。あなたのお父さん、立花宗徳弁護士の名前が」

「・・・」また口を噤んでしまった。

「仙石道幸さんを駅に迎えに来た人物は立花さんの息子だと名乗ったそうです。あなたですね?」と竹村が斬り込んだ。

「・・・」弁護士だ。余計なことは言わない方が良いことくらい心得ている。

「仙石真知子さんが覚えていましたよ。息子さんを送り出したのが三月十二日だったと。翌日が息子さんの誕生日だったので、よく覚えているそうです。三月十二日ですよ」

「・・・?」立花弁護士は怪訝な顔をした。

「おや? お分かりにならない。あなたのお父様の事件を調べてみました。立花宗徳弁護士が猟銃自殺を遂げたのは三月九日のことでした。仙石道幸さんが出石を離れた日には、既に亡くなっていた」

 竹村の言葉に、立花弁護士は、「ああ、そうか」という顔をした。圭亮が仙石道幸が実家を離れた日に拘っていたのは、このことだったのだ。

「甲本さんから仙石道幸さんを託されたあなたは、彼をどうしたのですか? 何故、仙石道幸さんは品川のお屋敷で用明太として生きていたのでしょう? 品川のお屋敷の庭から見つかった白骨遺体は、DNA鑑定の結果、用明太のものであることが分かりました。用明太は誰に殺され、庭に埋められたのでしょうか?」

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