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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第三章「怨霊怪異」
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中丞①

 橋本からの事情聴取を終え、蕎麦屋を出た圭亮一行は一路、豊岡市を目指した。豊岡北警察署の元署長と会うためだ。

 豊岡までは三十分弱の道のりだと言う。

 国道四二六号線を豊岡に向かって走り始めて直ぐに、「悪霊館で見つかった遺体は、ひょっとして・・・」と西脇が呟くと、「ええ。仙石道幸さんである可能性が高いと思います」と圭亮が答えた。

「何故です? 行方不明者は大勢いるでしょう?」と運転席から寿賀が問いかける。

「悪霊館の住人は、二カ月前、仙石真知子さんに電話をかけて『お金を送れ』と頼んでいます。しかも、用明太さんの口座を指定して。悪霊館の住人が仙石道幸さんであると考えるのが自然だと思います」と圭亮は答えた。

「なるほど」と寿賀が頷いた時、寿賀の携帯電話に着信があった。

「ちょっとすみません」寿賀は車を路肩に寄せて駐車すると、電話に出た。

「ああ、そうか」、「分かった」と話を聞いていた。やがて、電話を切った寿賀は後部座席の圭亮を振り返って、「品川で発見された遺体の指紋と仙石家から拝借した仙石道幸の私物から採取した指紋を照合したところ、一致したそうです。遺体の身元は仙石道幸で間違いないと言うことです」と伝えた。

「ああ、やはりそうでしたか・・・」と圭亮が寂しそうな顔をする。

 たった今、話をしていた通り、悪霊館の被害者は、やはり仙石道幸だった。心優しい圭亮は知り合ったばかりの仙石真知子の心情をおもんぱかって心を痛めているのだ。十年間、会っていなかった一人息子の突然の死を告げられ、真知子が味わう悲しみの深さがどれだけ深いか、圭亮には想像がつかなかった。

「仙石さんに連絡をしなければならないのではありませんか?」

「うちの刑事が、先ほど、電話で奥さんに伝えたそうです。旦那さんと連絡を取って、なるべく早い便で、身元確認の為に東京に向かうということです」

「そうですか」と圭亮が呟く。

 暫く車内は無言だった。

 沈黙を破って、西脇は圭亮に尋ねる。「悪霊館の被害者は仙石道幸さんでした。そうなると、庭に埋まっていた白骨遺体は用明太で間違いないでしょう。誰が用明太を、仙石道幸さんを殺害したのでしょうね?」

「そこが今回の事件の難しいところです」

「仙石道幸さんの事件については、鍵は天野敬一郎、鬼牟田先生はそう考えているのでしょう」

「ええ、まあ」と圭亮が曖昧に頷いた。そして、「後は、仙石道幸さんと立花弁護士を結ぶ線が見えて来れば・・・」と言った。

「藤井さんのご家族はいらっしゃらないのですか?」と西脇が寿賀に尋ねた。

「はい。藤井さんが亡くなられてから、奥様は大阪で働いている息子さんに引き取られて豊岡を離れてしまいました。仙石道幸さんについて、息子さんに電話をかけて尋ねてみましたが、生憎、奥様はすっかりボケてしまわれたそうで、まるで覚えていませんでした。息子さんは大学を出てからずっと大阪に居るそうで、豊岡には両親に会いに帰るだけだったそうです。仙石道幸さんのことについては、何も知らないと言っていました。ただ――」

「だた?」

「奥さんが妙なことを言っていたそうです。ちゅう何とかと」

「ちゅう何とか?」

「息子さんも何のことだか分からないそうです」

 豊岡市内をわずかに外れた場所に、豊岡北警察署の署長を務めた甲本(こうもと)寿()美夫(みお)の自宅があった。壁越しに、手製の棚と鉢植えがあり、スミレや水仙など、鮮やかな花を咲かせているのが見えた。

 玄関先で案内を乞うと、右の眉毛が妙に吊り上った初老の男性が一行を迎えてくれた。への字に結んだ口元が意志の強さと頑固さを物語っていた。頭頂部が禿げ上がり、残った両サイドの頭髪は真っ白だった。

――甲本さん。

 寿賀が背筋を伸ばして敬礼する。

 豊岡北警察署の署長だった人物だ。甲本は「うむ」と寿賀の敬礼に鷹揚に応じると、「しかし、警視庁も落ちたものだな。民間人を捜査に派遣するなんて――」と言って、圭亮と西脇を頭から爪先までじろじろと観察した。

 吊り上った眉毛同様、かなり癖のある人物のようだ。

 そして、寿賀に向かって、「民間人を連れて来たことは気に入らんが、この背の高い男は知っておる。テレビで何度か見かけたことがある。なかなか面白いことを言うやつだと思って見ておった。刑事に向いているかもしれんな」と意外なことを言った。

 圭亮を買っているようだ。すかさず圭亮が話しかけようとするが、「立ち話も何なので、まあ、入れ」と甲本が背を向ける。それでもめげずに、「庭のお花、綺麗に咲いていますね~」と圭亮が声をかけると、じろりと睨まれてしまった。

 圭亮が「うへっ」と首を竦める。

 和風の家だが、応接間はフローリングになっており、立派な応接セットが置かれていた。ソファーに腰を降ろすと、圭亮は「鬼牟田圭亮です」と名乗ったが、甲本は「ああ」と素っ気ない返事を返しただけだった。右手を差し出す暇さえ与えない。

 西脇は「西脇です」と小声で言って頭を下げたが、無視されてしまった。

 甲本は寿賀に、「今日は何を聞きたいのだ?」と尋ねた。どうやら甲本は寿賀としか話をする気がないようだ。

「はい、署長が出石の藤井修二さんと懇意にされていたという話を聞いて、藤井さんについてお伺いしたくて、今日はお邪魔しました」

「おう、藤井さんか、懐かしい名前だな。神戸地検時代には随分やりあったものだよ。藤井さんは出石の出身だったんだよな。引退して出石に戻って来たと聞いて、生前は随分、親しくさせてもらった」

「そうですか・・・」

「わしはな、岡山の出身で、引退したら生まれ故郷に家を買って暮らしたいと考えていたのだが、結局、この豊岡の町が気に入ってしまって、警察署を辞めてからも、ずっとここに住んでおる。生まれ故郷に戻った藤井さんが、ちょっと羨ましかったりしたな」

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