表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第三章「怨霊怪異」
PR
37/38

但馬の小京都③

 但馬空港は出発口と到着口がひとつになった小さな空港だ。圭亮が機内に預けた手荷物を引き取ってロビーに出ると、四角い体格の男が「鬼牟田さんですね?」と声をかけて来た。須磨が言っていた兵庫県警豊岡南警察署の寿賀基(すがもと)(ひろ)巡査部長だ。

 テレビでコメンテーターを勤める圭亮の顔は、探せばネットに画像が溢れている。しかも、長身の圭亮は人込みの中でも目立つ。間違えようがない。

 寿賀は四角い体に四角い顔で、小さく目じりの下がった顔つきをしており、刑事というより近所の人の良い叔父さんといった雰囲気だ。

「鬼牟田圭亮です」圭亮がぬっと大きな右手を差し出すと、寿賀は躊躇いもせずにがっちり右手を握り返した。横から「西脇です」と西脇が軽く会釈をする。

「ああ、どうも」と寿賀は西脇に軽く会釈を返した。

「こちらです」と寿賀が先頭に立って歩く。出口に堂々と警察車両が横づけにされていた。

 トランクに圭亮と西脇の手荷物を積み込むと、「参りましょうか」と寿賀の運転で空港を出た。謎の振込人「センゴクマチコ」は兵庫県豊岡市出石に在住しており、但馬空港から直接、出石へ向かう予定だった。

 後部座席に圭亮と西脇が並んで座り、沈黙の中、車窓を流れる景色に目を凝らした。

「空港から出石まで、どれくらいかかりますか?」と圭亮が尋ねると、寿賀は「一時間くらいですかね」と答えてから、「出石は『但馬の小京都』と呼ばれていて、年間百万人を超える観光客で賑わう城下町です」と出石の紹介を始めた。

「古事記」や「日本書紀」にも登場する古い町で、蕎麦が名物だと言う。

「お蕎麦が美味しいのですか。良いですね」と圭亮が早速、歓声を上げた。

「良い時にいらっしゃいましたよ。丁度今、出石城址の桜が見ごろです。長い階段を登って出石城址の裏の城山にある稲荷に上って、城下町を見下ろせば、絶好の眺めです」

「ああ、そうか。出石城址がありましたね。小出吉英が築いた城でしたね」

 歴史好きの圭亮は出石城址の話に食いついた。

「おや、よくご存じで」

「真田家が有名ですが、関ケ原の戦いでは、お家存続の為に、親兄弟が別れて戦いました。小出氏も兄弟が東軍と西軍に別れて戦って、出石の領土を守ったのでしたよね」

「お詳しいですね~」と感心するしかない。

「出石藩は小出氏の後が松平氏で、それから仙石氏が藩主となって、幕末まで続きます。仙石氏と言うと――」

「まあ、先生、先ずは須磨さんに頼まれた『センゴクマチコ』さんの訪問から片付けましょう」と西脇が釘をさす。

「勿論です」圭亮が頷くと、寿賀は「私どもの方でも警視庁からの依頼を受けて『センゴクマチコ』なる人物から、予め話を伺っています」と口を挟んだ。

 その口調にどこか棘があった。

 ――わざわざ東京から素人探偵を派遣しなくても、捜査くらいちゃんとできる。

 という憤りが含まれているようだ。

 世間慣れした西脇は、直ぐに寿賀の心情を汲み取って、「我々は兵庫県警さんの捜査が信用できないから、こちらに派遣された訳ではありません。品川で起きた事件に詳しかったものですから、兵庫県警さんのお手間を省くことが出来るのではなかと、こちらに派遣されただけです。お忙しい中、我々のような素人の為に、貴重な時間を割いて頂いて、本当に申し訳ありません」と詫びた。

 もともと人の良い人物のようで、寿賀は直ぐに機嫌を直して、「いえ。捜査にご協力頂き、こちらとしても助かります」と答えた。そして、「詳しいことは存じませんが、随分、込み入った事件のようですね?」と尋ねて来た。

 どうやらセンゴクマチコの身元確認だけを頼まれたようだ。

「はい。悪霊館と呼ばれている幽霊屋敷を舞台にした殺人事件なのです」と圭亮が口を挟む。

「へえ~悪霊館。幽霊屋敷ですか?」

「実際に、幽霊を見たという人がいるのです」

 圭亮が熱を帯びた口調で事件の説明を始めた。

 圭亮は人の話を聞くのが上手い。だからかもしれないが、説明が上手だ。軽口を交えながら、要領良く、テンポ良く、事件の概要を説明して行く。

 寿賀はハンドルを握りながら、「へえ~」を連発しながら、圭亮の話に耳を傾けていた。

「――という訳でセンゴクマチコなる人物に話を聞く必要があるのです」と圭亮が話を締め括った。

「なるほど。よく分かりました。鬼牟田さんの名探偵振りは、番組を見て知っていましたが、警視庁のお偉いさんが、うちの署長にわざわざ電話を掛けて来るだけのことはありますね」

「警視庁のお偉いさん? 須磨さんのことですか?」

「さあ、名前までは存じません。県警の本部長にも了解を取ったようです」

 どうやら須磨が県警や豊岡南警察署長に電話をかけて了解を得たようだ。

「須磨さんは、やると言ったことは必ずやってくれる人ですからね。まるで季布のようだ」

「きふ?」

「季布は――」

 圭亮の説明によれば、季布は中国の秦末から前漢初期にかけて、項羽と劉邦が覇権を争った楚漢戦争時代に活躍した武将とのことだ。項羽に仕え劉邦を苦しめた。漢の天下となり千金の賞金をかけられ、お尋ね者となったが、後に劉邦に許され、漢王朝にて重用された。

 子供の頃から信義の厚い人物として知られており、「黄金百斤を得るは、季布の一諾を得るに如かず」と言われた。いったん承知し引き受けたことは確実に実行してくれるので、黄金百斤を得るより、季布の承諾を得る方が、価値があると言う意味だ。

 それだけ義理固かった人物だ。須磨のそつのなさは季布に負けていないだろう。

「はあ・・・」と寿賀も曖昧に相槌を打っただけだった。

 興味がないのだろう。

「センゴクマチコさんという人は、どんな人なのでしょうか?」

「ああ。センゴクマチコさんは――」

 寿賀の話によると、謎の振込人は仙石真知子という名前の人物で、出石在住の主婦だ。用明太への送金について尋ねると、息子から電話があって、「今から言う口座にお金を振り込んで欲しい」と言うのでその口座に送金したが、口座の名義人がどんな人間なのか全く知らないということだった。

「息子は東京で一人暮らしをしていると言っていました。まあ、詳しいことは本人から聞いてみて下さい」

 寿賀は本人の口から直接聞いた方が良いと思ったようで、多くは語らなかった。

「仙石さんと言うからには、仙石の殿様の末裔なのでしょうか?」

「さあ、それもご本人に確かめてみては如何ですか?」

「そうします。お会いするのが楽しみだなあ~」

 圭亮は楽しそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ