但馬の小京都②
「先生、我々も兵庫に行ってみませんか?」と隣から西脇が口を挟んだ。
竹村から反対されるかと思ったが、「ああ~良いですね。鬼牟田先生に行っていただけるのでしたら助かります。こちらの状況をよくご存じですから。須磨さんに話を通しておきましょうか?」と言われた。
「須磨さんと話をしていただけるのは助かりますが・・・」
須磨と話をするのを苦手としている圭亮にとっては、有難い申し出と言えたが、兵庫県まで足を運ぶとなると、仕掛かり中の仕事を整理しなければならない。忙しい身とは言えないが、商社を退社し、独立し、テレビに出るようになってから、講演依頼や雑誌のコラムの執筆など、いくつか仕事を抱えている。それに、費用だったかかる。
「早ければ、早い程、良いでしょう。先生、明日、明日にでも兵庫に行きましょう!」と西脇は相変わらず行動的だ。
慎重派の圭亮と違って、考えるより先に、動くタイプだ。
「そうですねえ・・・」と圭亮は煮え切らない。
「先生が現地に出向いて、『センゴクマチコ』なる人物から直接、話を聞けば、全ての謎が一気に解決するかもしれないじゃないですか? ここで兵庫県警からの報告を待っているよりも、出かけて行った方が早くないですか? 旅費はうちで何とかします。先生、兵庫に行ってみませんか?」
サクラ・テレビで旅費を持ってくれるとなると話は別だ。圭亮だって、かつては商社マンとして世界中を飛び回っていた。決断すると動きは早い。
「分かりました。では、明日、兵庫に行きましょう」
「そう来なくっちゃあ!」
「よろしくお願いします。須磨さんに話を通しておきます」と竹村は喜び勇んで電話を切った。
圭亮とは羽田空港で待ち合わせをした。
早朝の便で、羽田空港から大阪の伊丹空港に飛び、そこで飛行機を乗り換えて、更に但馬空港へと飛ぶことになった。乗り換え時間を含めても、羽田から但馬空港まで二時間少々の旅だった。
長身の圭亮はとにかく目立つ。人込みに紛れると、頭ひとつ、いや頭ふたつは抜け出している。遠くからでも圭亮が何処にいるのか分かるほどだ。
「先生。お早うございます」
朝が苦手な西脇は、また局に泊り込んで、ほとんど寝ていない様子だった。
「西脇さん。お早うございます」と圭亮が長い体を折って、丁寧に挨拶を返した。
「早朝の便ですみません。あちらで時間を友好的に使いたいと思いまして」
「構いませんよ。早起きは得意なので」
「ああ、良いですね」と言ってから、ひとつ、大きな欠伸をしながら、「で、先生。須磨さんから連絡がありましたか?」と聞いた。
「はい。昨晩、須磨さんから電話がありました。兵庫県警の刑事さんが空港まで迎えに来てくれるそうです」
「へえ~刑事さんの出迎えですか。何だか、鼻高々な感じで、良いですね」
「西脇さん。鼻は高い方ですからね」
「先生は・・・背は高いですよね」
「はは。団ごっ鼻ですからね。鼻高々と掛けて蘭と解く。そのココロは?」
「ああ、もう結構ですよ。あんまり上手な謎掛けじゃありませんね。蘭は高価な花でしょう。花が高いとか、何とかでしょう?」
「あら? 分かっちゃいました」
「あら、分かっちゃいましたじゃありませんよ。それで、空港に着いてからは刑事さんの指示に従えば良い訳ですね」
「はい。謎の振込人「センゴクマチコ」なる人物は兵庫県豊岡市出石に在住していて、但馬空港から直接、出石へ向かう予定だそうです」
「出石・・・ですか・・・」
「出石は――」と圭亮が説明を始めようとすると、飛行機の搭乗アナウンスが始まった。
西脇は飛行機に乗り込むと、あっという間に座席にのめり込むようにして寝入ってしまった。海外経験が豊富な圭亮だが、飛行機が苦手で、飛行中は座席の肘かけを握りしめ、体を強張らせながら座っていた。そして、隣ですやすやと寝息を立てている西脇を恨めしそうに見ていた。
伊丹空港に到着した。ここで飛行機を乗り継ぎ、但馬空港へと向かう。
待合室で並んで腰かけながら、「出石について、色々、調べて来ました」と圭亮が言う。
「ほえ~」と西脇が寝ぼけた相槌を打つ。
出石に向かいと知って、圭亮はインターネットで出石について調べて来たようだ。
「これから向かう豊岡市出石は、かつて出石藩があった場所なんです」と西脇に向かって調べたばかりの薀蓄を傾けた。
「ほえ~」と西脇が又、変な相槌を打つ。
圭亮は興に乗って、「出石藩は豊臣秀吉の叔父に当たる小出秀政を始祖としています。小出氏が代々藩主を勤めていましたが、その後、藩主の座は仙石家へと移り変わります。どうです? 仙石ですよ。これから尋ねる相手の姓も『センゴク』ですよね。僕は出石藩主だった仙石氏と関係のある人物ではないかと思っています」と口角、泡を飛ばす勢いで言った。
「なるほど~面白いですね」と言いながらも、西脇は上の空で圭亮の話を聞いていた。
「仙石氏の藩祖を仙石秀久と言います。豊臣秀吉傘下で、最古参の武将の一人であった仙石秀久は四国攻めで功を上げ、讃岐国一国を与えられました。ですが、その後の九州攻めで、秀吉の『防備を固めよ』という命令を無視して島津軍に攻めかかり、大敗を喫してしまいます。仙石秀久は敗戦の責任を取らされ、改易の上、高野山に追放となりました」
西脇は欠伸を噛み殺しながら聞いていた。
「やがて、秀吉の小田原征伐が始まると、旧臣を率いて戦に駆けつけ、汚名返上とばかりに奮戦し、大名に復帰するという浮沈の激しい人生を歩んでいます。関ヶ原の戦いでは東軍に属し、徳川秀忠と共に真田攻めに加わりました。この仙石秀久の子孫が出石藩の仙石氏です」圭亮は長々と仙石氏の経歴を話して聞かせた。
西脇は歴史に興味が無い。圭亮の話を聞き流しているようだった。
「但馬空港行き~」
登場のアナウンスがあり、飛行機へと乗り込んだ。
伊丹空港を飛び立った飛行機は水平飛行に移ったかと思うと、直ぐに降下準備に入り、あっという間に但馬空港へ到着した。




