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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第三章「怨霊怪異」
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但馬の小京都①

 西脇は局に戻ると、松中との面談の様子を録音した音声データを携帯電話から吉田に送付しておいた。これで約束を果たしたことになる。

 都内へ戻る車中で、西脇は圭亮に聞いてみた。

「先生。本当はもう、誰が犯人なのか分かっているのではありませんか? 名探偵は、何かと面倒臭い。分かっていても、最後まで明かそうとしない」

「いやだな~西脇さん。前にも言いましたけど、僕は迷う方の()探偵ですよ」

「また、そうやって誤魔化す」

「本当です。僕に分かっているのは、今回の事件は一カ月前に立花家の近所で起きた傷害致死事件が絡んでいるであろうということだけです」

「あの傷害致死事件ですか?」

 天野敬一郎がコンビニ帰りに松本穣治に殺害された事件だ。

「深夜にコンビニ前でたむろしていた若者と買い物客が口論となり、刺殺された事件ですね。犯人の若者はもう捕まっていますよ」

「近所の酒屋の女将さんが言っていましたけど、立花家から出て来た若者に幽霊が取り憑いていたと言う、あの怪談話、西脇さん、覚えていますか? 目撃者は被害者の父親でした。つまり、被害者の父親は悪霊館に住んでいた若者の顔を見知っていたことになります」

「ええ、そうですね」

「被害者の父親は最近、コンビニに事件当夜の防犯カメラの映像を確認に行っています。そして、そこで事件の直後にコンビニを出た人間がいることを知りました。恐らく、その人間の顔を見て、被害者の父親は悪霊館に住んでいる若者だと気がついたのではないかと思うのです」

「住人の顔を知っていて、父親が悪霊館を訪れた可能性があると言うことですね?」

「被害者は事件後、暫く息があったことが分かっています。救命に当たった医師の話では、もし早く処置出来ていれば、被害者は死なずに済んだということでした。事件直後、通りかかった悪霊館の住人に、被害者が助けを求めた可能性があります。被害者の父親が息子の最後の様子を知りたくて、悪霊館を訪れた。そして目の前の若者が、息子を見捨てて逃げたことを知った・・・」

「なるほど――」圭亮の話が飲み込めて来た。

「全ては西脇さんの夢のお告げのお陰です。あの夢のお告げが無ければ、そんな推理が頭に浮かぶことは無かったと思います」と圭亮が謙遜した時、西脇の携帯電話が鳴った。

 西脇は車を路肩に寄せると、「吉田さんです」と言って電話を取った。「ちょっと待って下さい。鬼牟田先生と一緒ですので、今、スピーカーにします」と言って携帯電話をダッシュボードの上に置いた。

「吉田です。こちらも隣に竹村さんがいます」、「竹村です。録音、聞かせていただきました。ご協力、感謝します」と聞こえて来た。

 スピーカー越しでも声がデカい。

「先生、今の話、竹村さんたちにも伝えておいた方が良いですよ」と西脇が言う。

「今の話?」

「はい。立花邸の事件に関し、僕の推理を話していたところでした」

「推理? 是非、聞かせてください」と竹村が言うので、圭亮は天野敬一郎の父親が事件に関与しているのではないかと考えていることを伝えた。

「なるほど。天野敬一郎の父親から事情を聞いてみましょう。犯人でなくても、立花家の住人について何か知っているかもしれません」と竹村が言ってくれた。

「ところで、庭の遺体の身元に関して、立花弁護士は何と言っているのでしょうか?」と聞くと、「それが、話すことはないと黙秘を貫いているのです」と竹村が言う。

「そもそも、あの屋敷は父親が購入したもので、遺言に基づいて用明太に貸し与えていたものだ。家賃をもらっていた訳ではないし、住人が入れ替わってしまっていることなんて、まるで知らなかった。聞かれても、知らないとしか答えようがないと、釈明を繰り返すだけです」と吉田が補足してくれた。

 そして、反対に「どうですかね? 立花弁護士は知っていたと思いますか?」と竹村に聞かれた。

「はい」と圭亮が元気良く答える。「竹村さんが、庭を掘り起こす許可を求めた時、立花弁護士が言っていました。弁護人は既に殺されていて、庭に遺体が埋まっていると。それまで、用明太さんは屋敷から逃げ出したと考えていたのに、庭を掘り起こしたいと言われただけで、彼は既に殺されていて、庭に遺体が埋められていると言い当てた。頭の良い人なのは分かりますが、少々、飛躍し過ぎだと思いました」

「ああ、確かに飛躍し過ぎですね。あの台詞には、私も違和感を覚えました。とは言え、知っていたというだけでは逮捕できませんから、当分は様子見です。立花弁護士が事件に係わっていたという証拠を探すしかありません」

「おっしゃる通りです」

「ところで鬼牟田さん、一人、事件に関係がありそうな人物が浮かび上がって来ました」

「ほほう~どんな人なのですか?」

「立花家で用明太名義の預金通帳が見つかったことはご記憶と思います。銀行口座の金の流れを追ってみました。用明太は両親が殺害された後、遺産を整理して、かなりの額の現金を持っていました。その金で食い繋いで生きて来たようです」

「つい一ヶ月前にも現金の引き落としがあったと、お聞きしました」

「はい。一ヶ月前に現金が引き落とされていました。ただ、遺産に関しては、二カ月程前に、底を突いていたようです」

「遺産が底をついていたのですか? でも、一ヶ月前に、現金が引き落とされていたのでしょう?」

「不思議なことに遺産が底を突くと、直ぐに仕送りが送られて来るようになりました。仕送りの振込人は『センゴクマチコ』という人物で、調べてみると兵庫県豊岡市に在住の人物であることが分かりました」

「兵庫県ですか――」

「兵庫県警に先ほど『センゴクマチコ』の捜査協力を依頼したばかりです。『センゴクマチコ』なる人物が、用明太とどういう関係にあるのか明らかになれば、やつの消息が分かるかもしれません。そして、被害者の身元を特定することができるかもしれません」

「世捨て人のようにして生きてきた用明太さんに毎月、仕送りをしていた人物がいたと言うことですね。確かにその人物が、彼の居場所を知っている可能性は高いと思います」

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