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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第三章「怨霊怪異」
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通り魔事件①

「一旦、警視庁に戻ります。その前に現場をご案内しますよ」と竹村が言うので、竹村と吉田、圭亮と西脇がそれぞれ二台の車に別れて事件現場へと向かった。

 走るほどなくコンビニが見えて来た。

 先頭を行く、竹村の合図で、コンビニの駐車場に車を停めた。竹村と吉田が車から降りる。圭亮、西脇も車を降りた。「こちらです」と竹村は圭亮を案内した。

 竹村の後を三人がぞろぞろとついて歩いく。

 コンビニから住宅街に向かって百メートルほど行った場所に、細い路地があった。人が一人、やっと通ることができる道幅だ。

 路上で、竹村は立ち止まると言った。「ここが遺体の発見場所です。被害者はここでうつ伏せになった状態で、息絶えていました。被害者の名前は天野敬一郎、二十一歳。実家がこの近くで自転車屋を営んでおり、そこの店員でした」

 竹村が遺体の状況を身振り手振りで説明する。「犯人は直ぐに確保されています。犯人の名前は松本穣治、二十四歳。無職で、いい年をして親の脛をかじって生きていたような奴です。札付きの不良で、補導歴がありました。夜中にコンビニにたむろしていて、買い物に来た天野とトラブルになりました。『ガンをつけた』とか何とか、つまらない理由だったみたいです。松本は一緒に居た・・・ちょっと、待って下さいよ・・・」竹村は胸ポケットから手帳を取り出してめくった。「ああ、あった。臼井守ですね。悪友の臼井と共に天野に絡んだ・・・」

 竹村の説明が続く。「天野は二人を無視して、コンビニから、こちらに向かって歩いて来ました。そして、ここで二人に追いつかれて喧嘩になりました。天野は昔、暴走族に入っていたことがある不良でしたから、気が短いし、腕っぷしが強かった。変な話、不良としては天野が格上だったみたいです。二人を相手に大立ち回りを演じて、あっという間に二人を叩きのめしてしまいました。天野に一方的にやられる臼井を見て、松本は臼井を助けようと、隠し持っていた飛び出しナイフをポケットから取り出して、後ろから天野を刺しました」

 竹村は一人で天野、松本、臼井の三役を演じて、現場を再現して見せた。

「松本は天野の背後から、勢いを付けて体当たりをしました。天野は背中の、腰の辺り、腎臓がある場所ですね。そこをナイフで差されました。体当たりをした弾みで、二人は重なり合ったまま、この細い路地に転げ込みました。路地に停めてあった自転車に頭をぶつけて、二人共、意識が朦朧としてしまったようです」

 細い路地に、自転車が停めてあった。自転車は証拠品として警察に押収されている。

「天野の上になった松本は、直ぐに正気を取り戻しました。天野をここに放置したまま、臼井を抱えるようにして逃げ出しました。天野は暫くして正気に戻ったようですが、背中を刺されて体の自由が利かなくなっていたようです。路地から助けを求めて、路上に這い出たところで、絶命しました。死因は出血多量でした。生憎、事件後、暫く人通りがなかったようで、緊急治療を施した医師によれば、松本が逃げ出さずに、直ぐに救急車を呼んでいれば、助かった可能性が極めて高いそうです」

「そうですか――」圭亮が路地を伺う。もう事件の痕跡は何も残っていなかった。

「天野の背中に突き立っていたナイフから指紋が採取され、傷害の前科のあった松本が捜査線上に浮かびました。そこで松本を緊急逮捕し、取り調べたところ、天野の殺害を自供しました。コンビニの店長も店先にたむろしていた松本と臼井を覚えていました。路上に落ちていた血痕の中から、松本と臼井の血痕が見つかっています。証拠も証言も揃っており、特に難しい事件ではありませんでした。事件の状況はざっと以上です」

 公判中ではあるが、既に解決した事件だった。

「どうです? 何か立花家の事件とのつながりが見えて来ましたか?」竹村に代わって西脇が圭亮に尋ねる。

 圭亮は「う~ん・・・」と呻いた後、「最後にコンビニの店長に会ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」と竹村に尋ねた。何かが圭亮の頭の中で警報を鳴らしているが、それが何なのか、うまく説明できない。そんな感じなのかもしれない。

 四人は駐車場に戻った。

「コンビニから防犯カメラの映像を提供してもらいました。レジを映したものですが、店の前でたむろする松本と白井が映っていました。買い物をして店を出る天野と、その後を追う二人の姿が防犯カメラの映像に残っています。犯人は松本で間違いありません」

「防犯カメラの映像があったのですね」

 コンビニに着いた。幸い、事件当時、店番をしていた店長が店にいた。「ちょっと、すいません」と竹村が声をかけると、顔を覚えていたようで、「刑事さん、今日は何か?」と尋ねて来た。竹村に代わって、圭亮が尋ねた。「一カ月前に、近くで起こった殺人事件のことなのですが、ここに当日の防犯カメラの映像があるとお伺いしました。今も、その時の映像は残っていますか?」

「ええ。警察の方で、証拠として提出を要求された際に、大事な証拠ですので、念のために、うちの方でコピーを取って残してあります。ご覧になりますか?」

 小太りで人の良さそうな店長が、にこにこと答えた。

「是非、お願いします」圭亮が子供のように大きく頷いた。

「では、こちらへどうぞ」

 店長が四人をカウンターの中へ誘った。カウンターの奥にドアがあって、そこから奥の事務室に行くことができた。

「そう言えば数日前に、被害者の父親という方がお見えになって、防犯カメラの映像を見せて欲しいと頼まれました。必死の形相で、『息子の最後の姿を見たい』と言われまして、こちらとしても断り辛くて、映像をお見せしました。まずかったでしょうか?」

 店長の言葉に、竹村が「構いませんよ。天野さんがお見えになったのですね」と念を押す。

「名前までは存じませんが、被害者の父親だとおっしゃっていました」

 店長は棚からDVDを取り出すと、再生機に入れた。そして、「少し飛ばしますね」と天野がコンビニを訪れた辺りから映像を再生してくれた。

 レジの天井にある定点カメラで撮影されたもので、コンビニの入口の一部が、カメラに映り込んでいる。竹村の説明通り、入口付近にたむろする松本と臼井の姿を確認することができた。二人は駐車場の縁石に座り込んで、話をしていた。

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