スクープ③
「現場に行くのは構いませんけど――」
どうせなら先日、知り合った刑事――竹村という名前だった――に頼んでみた方が詳しい話を聞くことができるのではないかと西脇は言う。
「ああ、そうですね。連絡を取ってみましょう」
基本的に圭亮は人当たりが良い。西脇よりずっとEQが高い。気を使い過ぎる性格なので、感情を読み取ることができない須磨が苦手なだけだ。
前回、会った時に名刺をもらっている。携帯で、竹村に連絡を取ってみると、「今、立花屋敷にいます。来ていただければ現場に案内しますよ」と言ってくれた。そして、「いや~お宅の援護射撃のお陰で、どエライもの掘り当ててくれたやつがいて、朝からてんやわんやで」と言った。
関東新聞のスクープのことを言っているのだ。
「直ぐにお伺いします!」と圭亮は西脇の都合も聞かずに電話を切った。
西脇は「今からですか⁉」と驚きながらも、寺井に後事を託して、二人、会社を飛び出した。
西脇の運転で悪霊館へ向かう。
長い体を器用に折り畳んで、助手席に収まっていた鬼牟田圭亮が東京タワーを目にして言った。「西脇さん。スカイツリーが出来たので、東京タワーって二番目に高い建物になってしまいましたね」
「ああ、そう言われればそうですね」
「二番目って、意外に人が知らないって知っていました?」
「うん?」知っているのか知らないのか、ややこしい。
「日本で二番目に長い川は何だか分かります?」
「日本で二番目に長い川ですか。一番は信濃川でしょう。二番目は・・・吉野川ですか?」
「利根川です」
「ああ、確かに」
「日本で二番目に大きな湖は何か知っていますか?」
「湖ですか。琵琶湖の次ってことですよね。猪苗代湖ですか?」
「霞ヶ浦です」
「ああ、そうか。言われてみると、分かります」
「日本で二番目に高い山は?」
「それは北岳でしょう」
「正解!」
「知っていました」
圭亮が顔を輝かせながら言う。「西脇さん。二番手とかけて商店街と解きます。そのココロは?」
「商店街ですか・・・分かりません」
「二番街・・・二番がいい・・・」
「う~ん。分かりにくいのですが、二番だけに“にばんてん”(二番手、二万点)ですね」
「・・・」
無駄話をしている内に、立花邸に到着した。黒塗りの警察車両が停まっていた。その後ろに車をつける。
圭亮が携帯で到着を伝えると、「庭にいます。入って来て構いませんよ」と竹村が言う。
「行きましょう、行きましょう」と圭亮が長い体を折り畳んで、門柱に張られた規制線を潜った。西脇が後に続く。現場を見ることが出来るとは思ってもいなかった。
雑草をかき分けながら庭に行くと、鑑識官が作業をする様子を竹村と吉田が見守っていた。圭亮に気がついた竹村が、「ああ、証拠が汚染されてしまうと大変だ。そこから近づかないでください」と言って近づいて来た。
「鬼牟田さん。援護射撃、ありがとうございました。お陰様で、こうして令状を取ることなく、遺体を発見することができました」
援護射撃どころか、全て台無しにしてしまいかねない大根役者振りだった。上手く行ったのは寺井の功績だろう。
竹村の言葉に、圭亮は「援護射撃だなんて、そんな。僕は何もしていません。でも、立花弁護士、さぞやご立腹だったのではありませんか?」と頭を搔きながら答えた。
竹村と吉田は立花弁護士のもとに、関東新聞の記者が庭を勝手に掘り返して、遺体を発見したということを報告に行ったらしい。
立花弁護士は関東新聞を読んでいなかった。
「どうでしょうね。腹を立てるというより、驚いていたと言った方が正確かもしれません。知らせを聞いた時、えっ! と絶句していましたからね。あれが演技だったとしたら、大した役者ですね」
圭亮とはモノが違うようだ。
「遺体は用明太さんなのでしょうか?」
「どうですかね。遺体は十代から二十代にかけての男性のものであることが分かっています。用明太の可能性は高いでしょう」
「となると、ベランダが吊り下がっていた遺体が誰なのか気になります。身元は判明したのでしょうか?」
「残念ながら、まだです」
「しかし、分からなくなりましたね」
「分からなくなった? どう考えていたのですか?」
「この屋敷に用明太さんが匿われていることを知った黒田重信さんが、娘さんの復讐の為、屋敷を訪れ、住人を殺害した――そうも考えました」
「それは可能性が低いでしょう。黒田重信は、もう十年、姿を消したままです。今になって急に屋敷の住人が用明太だと知ったというのは無理があります。それに、黒田重信は用明太の顔を知っていた」
「そうです。僕もそう思います。庭の白骨遺体が用明太さんだとすると、彼を殺害したのは黒田重信さんかもしれませんね。十年前、ここに匿われているのを知った黒田重信さんが用明太さんを殺害、遺体を庭に埋めた。遺体の死亡時期は分かっているのでしょうか?」
「その可能性は高いと思います。遺体は十年以上、庭に埋まられていたことが分かっています。ただ、最近、屋敷の周りで不審者の目撃情報が相次いでいますから、黒田重信が生きていて屋敷の様子を窺っていた可能性はあります」
蝶ネクタイの男だ。
中肉中背で、中折れ帽子を被り、黒メガネを掛け、白い大きなマスクをした男を竹村や市野真琴が目撃している。男は蝶ネクタイをしていた。
「用明太さんを殺害したのが黒田重信さんだとすると、屋敷をうろついていた訳が分かりませんね」と圭亮が言うと、「おっしゃる通りです。復讐を果たしたのなら、屋敷には用がないはずです。とは言え、現時点では黒田重信が有力な容疑者であることは間違いありません」と竹村が頷いた。そして、「見つかった預金通帳の口座の金の流れを調べてみたのですが、十年前に口座が開設されてから、ずっと取引がありました。つい一か月前にも、預金の引き落としがありました。金の流れを見る限り、一カ月前まで、用明太が生きていたことになります。用明太は死んでなどいないのかもしれません」と言った。
「白骨遺体が用明太さんではない可能性があるというのですね」
「ええ、まあ。そうなると、黒田重信が屋敷を窺っていたとしても不思議ではありません」
「なるほど~」と圭亮が感嘆の声を上げた。
二人は顔を合わすなり、事件の談義を始めていた。




