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マリオネットは踊らない  作者: 西季幽司
第二章「身元不詳」
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立花弁護士事務所③

 立花弁護士の了解を得られるまま、立花弁護士事務所を後にした。弁護士事務所を出たところで、西脇が竹村に尋ねた。

「週末の放送で、どの程度、放送してよいのでしょうか?」

「被害者の身元については、報道を自粛してください。最も、被害者の身元は不明ですが、用明太と名乗っていたことは内密にお願いします」

「分かりました。事故や自殺ではなく、殺されたと考えられることは?」

「それは、報道して頂いて、構いません。ああ、そうだ」と言うと竹村はにやりと笑って尋ねた。「庭に何か、そう、遺体が埋まっているかもしれないということを、匂わせることはできませんか?」

 西脇は頭の回転が早い。「ああ、なるほど」と直ぐに竹村の意図を察した。「庭に何かが埋まっている。重要な証拠らしい。ひょっとしたら遺体かもしれない。掘り返して確かめた方が良い。そう視聴者に訴えるのですね」

 世論を盛り上げ、庭を掘り起こしたいのだ。竹村はなかなかの策士のようだ。

「出来ますか?」

「やってみましょう」

「こじつけみたいになりませんか?」と圭亮が口を挟む。

「やるのは先生ですよ。こじつけにならないように、上手く誘導してください」

「そんな!」と圭亮が悲鳴を上げたものだから、竹村と西脇は愉快そうに「あはは」と笑った。二人共、人が悪い。

「先輩。悪役っぽい笑い方をしますね」と吉田が言う。

「何だ? 悪役っぽい笑い方って」

「悪だくみをしている敵の中ボスって感じです」

「中ボス~? せめてラスボスにしろ」

「どこに拘っているんですか」

「あはは」と圭亮が笑う。つられて西脇も「ぷっ」と噴き出してしまった。

「まあ、こちらはこちらで、令状を取ることができるかどうかやってみます」と竹村たちは警視庁に戻って行った。


 放送が始まった。

 今週のトップ・ニュースは悪霊館の殺人事件だ。他局が自殺か事故か、或いは事件なのか判断に苦しんでいる中、サタデー・ホットラインは殺人事件として放送を敢行した。

 悪霊館の模型までつくって、若手の羽田アナが遺体の状況を説明した。MCを務める宮崎アナが「遺体の状況から見て、自殺や事故とは考えられないということですね」と羽田アナに確認することで、本件が殺人事件であるということを視聴者に印象づけた。

 被害者の身元については、公表を控えてもらいたいと言われている。用明太の名前は出せないし、そもそも被害者は用明太ではない。

 用明太の名前が出せない以上、本件と黒田麻衣ちゃん誘拐殺人事件を関連づけることができない。そこで、西脇は大胆な策に打って出た。

「地元で悪霊館と呼ばれている屋敷は、かつて世間を震撼させた少女誘拐殺人事件の弁護を引き受けた弁護士が所有していたものです。裁判で無罪は勝ち取ったものの、弁護士は、その後、両銃殺を遂げています」と羽田に説明させることで、黒田麻衣ちゃん誘拐殺人事件との関連を匂わせた。

「その少女誘拐殺人事件と今回の事件は、何か関係があるのでしょうか?」と宮崎が問いかけ、「その辺を含めて、今後の捜査状況に注目が必要です」と羽田が答えた。

 この会話は西脇が筋書きを書いたものだった。これで、感の良い視聴者や黒田麻衣ちゃん誘拐殺人事件に詳しい関係者には伝わったはずだ。

 さて、難関は庭に何か――遺体だが――が埋められているかもしれないことを、どう視聴者に訴えるかだ。なるべく、話題になり、世論を庭を掘り起こすべきだという流れに持って行きたい。それが竹村たちの援護射撃になるはずだ。

 事件に関する説明が終わり、いよいよ圭亮がコメントを求められる番だ。

「さて、鬼牟田さん。本件、殺人事件だと仮定して、一体、誰がどのような目的で被害者を殺害したのでしょうか?」

 宮崎が圭亮にコメントを求める。「何とか庭に注目を集める発言をして欲しい」とは伝えてあったが、具体的にどう発言するのかは圭亮に任せてあった。

(鬼牟田先生。何とか上手く庭に言及してくださいよ)と西脇は祈るような気持ちだったことだろう。

「はい」と圭亮が元気よく返事をすると、「庭ですね」と答えた。

 西脇がずっこける。全然、上手くない。話が嚙み合っていないし、直球過ぎて、何も伝わらない。

 案の定、「庭~⁉」と宮崎が悲鳴を上げた。

 事前に宮崎には、事件の鍵が庭にあること。圭亮のコメントを何とか上手く庭に持って行ってもらいたいと伝えてあった。

「お屋敷に庭があって、遺体が吊り下がっていたベランダを舞台だとすると、庭が観客席になります。犯人は庭にいる観客に遺体を見せたかったのではないでしょうか?」と訳の分からない理由を説明する。

 これではダメだ――と宮崎も思ったようで、「鬼牟田さんは、庭に何かがあると考えているのですね?」と軌道修正を試みた。だが、「はい。庭に遺体が埋まっていると思います」とちゃぶ台をひっくり返すようなことを言った。

「庭に遺体が⁉ それはまた、突飛すぎる気がしますが・・・」

 宮崎もフォローに困っている様子だ。「何故、そう思うのでしょうか?」と余計なことを聞いた。

 西脇さんはイタコの末裔で、庭に遺体が埋まっている夢を見たんですよ~とでも答えるのではないかと、ハラハラした。

「お屋敷の庭を歩いてみたのです。土を掘って遺体を埋めたりすると、最初は土饅頭が出来るのですが、年月が経過するにつれ、遺体の腐食が進み、土饅頭が崩れて来ます。平坦なはずの地面がでこぼこしてくるのです。だから、上を歩いてみれば、地下に何かが埋まっていることが分ったりするのです」と圭亮が答えた。

 良かった。最悪の事態を免れそうだ。

「それが遺体だと?」

 もっともな質問だ。

 圭亮が胸を張って答える。「お屋敷の関係者で行方不明となっている人間がいることが分かりました。貴重品がそのままになっていることから、屋敷を出て、何処かに行った可能性は低いと考えます。屋敷におらず、何処にも行っていないとしたら、何処にいるのでしょう。そう考えると、自ずと結論が見えて来ます」

「庭に埋まっていると・・・」宮崎が困惑の表情を浮かべたまま呟いた。

 低空飛行を続けたが、無事に着陸してくれた恰好になった。

「僕はそう考えています」

「庭を調べてみる訳には行かないのでしょうか?」

「あくまで僕の想像ですから、現時点では難しいでしょうね」

 圭亮の言葉に、「そうなのですか? 我々としては、一日も早い事件の解決を期待しています」と宮崎が締めて番組はコマーシャルへとなだれ込んだ。

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