悲劇の連鎖④
「何だ?」竹村がケースを手に取る。
「ゲーム・ソフトですね」
絵画の裏から落ちて来たのは、ゲーム・ソフだった。平べったいプラスティク製のゲーム・ソフトのケースだ。絵画の裏に隠すのに、丁度良い厚さだ。
「何故、このゲーム・ソフトだけ、絵画の裏に隠しておいたんでしょう?」
竹村がケースを開くと、中からは円盤状の記録メディアの代わりに、大手都銀の預金通帳とキャッシュ・カードが出て来た。
どうやら屋敷の住人は預金通帳とキャッシュ・カードをゲーム・ソフトの空き箱に入れて、金庫代わりに絵画の裏に隠しておいたようだ。
「預金通帳にキャッシュ・カードですね」
「名義は? 通帳の名義は誰になっています」
竹村が通帳を開く。
――用明太です。
「用明太さんが、ここに住んでいたことは間違いないようですね」
「銀行口座の金の流れを洗えば、用明太が何時頃までここに居たのか、分かるかもしれません」と竹村。
「そうですね。でも、預金通帳とキャッシュ・カードを部屋に置いていったということは・・・」
圭亮の言いたいことは竹村にも理解できた。
世間から隠れるようにして暮らしていた用明太が、金も持たずに家を出て行くとは考え難い。
「これ。頼む」と竹村は預金通帳とキャッシュ・カードを証拠品袋に入れて吉田に手渡した。
「さて、書斎の方に行ってみましょうか?」
寝室にはベッドの他にゴミが散らばっているだけで、子細に観察しようにも他に観察するものが無かった。四人は寝室から書斎へと移動した。
廊下を挟んで、反対側が書斎だ。
書斎は屋敷の住人が日頃生活をしていた場所とあって、ゴミの量が段違いに多かった。足の踏み場もないほどだ。ゴミの腐った臭いが、部屋に充満していた。
預金通帳とカードを隠してあったゲーム・ソフトが部屋中に散乱していた。
リクライニング・チェアにテーブル代わりの炬燵、そして部屋には不似合な程、大画面の最新式の液晶テレビが据えられていた。テレビにはゲーム機が繋がれており、他に電化製品と言えば、部屋の隅には小型の冷蔵庫があるだけだった。寝室にはシャワーとトイレが隣接してあり、料理をしなければこの部屋で生きて行けそうだ。
圭亮は部屋を見て回ろうとしたが、床に積まれたゴミの多さに直ぐに根を上げてしまった。圭亮の推理の原動力は俯瞰的に事件を分析する力と想像力だ。鋭い洞察力を備えている訳ではない。
「僕に細かい観察は無理です」と圭亮が弱音を吐いた。
「ベランダに出てみましょう。遺体はベランダから首を吊った状態で吊るされていました」
部屋から逃げるようにベランダへ出た。
ガラス戸を開けると、そこはベランダだった。ベランダに出たところに、洗濯機が置いてあった。ここで洗濯をして、そのまま干すことが出来る。最もゴミの中に住んでいた部屋の住人が、小まめに洗濯をしていたとは思えなかった。
ベランダは細長いが、洗濯物を干すには十分な広さがあった。ベランダから雑草が生い茂った庭を一望できた。一階部分の天井が高いので、ベランダは普通の建物の三階部分の高さがあった。
「ここから遺体がぶら下がっていたのですね?」
圭亮は欄干に身を委ねながら下を見下ろした。
「はい、丁度、物干し台が重石となって、洗濯紐に絡まった状態で遺体がベランダからぶら下がっていました」
細長いベランダの両端に、セメント台にステンレス製の柱が立った、重量のありそうな物干し台が二つ転がっていた。物干し竿も転がっている。普段はこの頑丈そうな物干し台に物干し竿がかかり、洗濯紐が張り渡してあったのだろう。
洗濯紐が首に巻き付き、欄干に遺体が吊り下がっていた。二つの物干し台が、欄干の柱に挟まって、重石の役目を果たしたのだ。
「う~ん、自殺だとしたら、被害者はここで洗濯紐を首に巻き、欄干を越えて首を吊ったということですね。この洗濯台が重石の役目を果たして遺体はベランダからぶら下がった・・・」圭亮はベランダを見回しながら言った。
「洗濯紐が切れたり、二つの物干し台の内、どちらかでもうまく欄干に引っ掛からなかったりした場合、首を吊った状態になりません。自殺と考えるには無理がありそうですね」と西脇が口を挟むと、吉田が(えっ、喋った!)という顔で見た。
「なるほど、なるほど~確かに、そうですね」と圭亮が大袈裟に相槌を打った。
「遺体は首の他に、右腕と左足が洗濯紐に絡まった状態でした」
竹村刑事が右手と左足を折り曲げて、片足立ちになりながら遺体の状況を説明した。
「ご遺体の状況を聞くと、益々、自殺の線は薄いように感じます。右腕や左足に洗濯紐が絡まった状態でここから飛び降りたら、体が変に折れ曲がって苦痛でしょうから。又、絡まった右腕と左足の方に体重がかかると、うまく首を吊ることができずに、死ねなくてベランダからぶら下がったまま身動きが取れなくなってしまいます。助けを呼ばなければならない羽目になるかもしれません」
「ええ、そうです」と竹村刑事が頷いた。




