悲劇の連鎖②
鬼牟田圭亮がやって来た。
圭亮が言った「番組のトップで取り上げないと後悔することになる」理由とは何だろう? エレベーター・ホールに行くと、案の定、圭亮が長い体を折り畳んで、自動販売機で缶コーヒーを買っているところだった。
「先生。缶コーヒーなんて買わなくても、久美ちゃんに頼んで美味しいコーヒーを煎れてもらいますよ」と西脇が声をかけると、「うわっ!」と圭亮が悲鳴を上げた。
「西脇さん~驚かせないでくださいよ」
「すみません。そんなに驚くなんて、思ってなかったもので」
全く、人一倍、ガタイはデカイのに気が小さい。缶コーヒーを片手に圭亮が立ち上がる。見上げるほどに大きい。
圭亮を何時もの会議室に案内する。一体、須磨からどんな情報を仕入れて来たのだろう。一刻も早く聞きたかった。
「黒田麻衣ちゃん誘拐殺人事件について、教えてもらえませんか?」と圭亮に言われた。
「丁度、社会部に行って確かめて来たところでした」と一通り事件について説明した。世間を騒がせた事件だったので、圭亮も覚えていたようだが、詳細について知らないことが多かった。特に立花弁護士の自殺については、「そんなことがあったのですかぁ~」と心底、驚いた様子だった。
「さて、先生。そろそろ須磨さんから聞いた話を教えてもらえませんか?」
「はい。被害者の用明太さんですが、用明太さんではないそうです」
「はっ⁉ 先生、何を言っているんです?」
何を言いたいのだ?
「だから、用明太さんは用明太さんではなかったのです」
「へっ⁉」と妙な声を上げてしまった。同姓同名ということか?
「初動捜査の段階では、警察も、被害者は用明太、あの忌まわしい少女誘拐殺人事件の容疑者だと考えていたようです。ところが――」
「ところが?」
「被害者の名前の公表を控えたことが僥倖でした。鑑識が十年前の証拠品と照合したところ、何と別人のものだったのです」
「えっ!」
「十年も経てば、人間の顔は随分と変わりますが、それでも鑑識が保管していた用明太さんの顔写真と遺体の写真を比べてみると別人に見えたそうです」
「整形したってことも考えられるでしょう?」
「指紋も一致しなかったそうです」
「それは・・・」
別人と判断して間違いないだろう。
「用明太さんの顔写真と遺体の男性の顔写真を比較すると、二人は両目の間隔が異なっていたそうです。両目の間隔は整形できないと言いますからね」
「指紋まで違うとなると、別人と考えて間違いないでしょう。品川の遺体は用明太ではなかったということですね?」
「そうです」
「じゃあ、品川の遺体は誰なのですか?」
「遺体が誰なのか? 死因は何なのか? 事故なのか事件なのか? 他殺だとするなら誰が殺害したのか? 遺体の主が用明太さんでないとするなら、彼はどこに行ったのか? とにかく謎だらけです。警察としては、一刻も早く、事件の真相を明らかにしなければならない。だから僕の手でも借りたかったのでしょう。須磨さんから、事件の真相解明に力を貸して欲しいと頼まれました」
「先生の手はデカそうですものね」
「はは。背中が痒い時は孫の手、忙しい時は猫の手、犯罪捜査には僕の手ですね」
圭亮の冗談を無視して西脇が尋ねる。「それで、どう捜査に協力できるのですか?」
「ああ、明日、警視庁の刑事さんが現場を案内してくれるそうです。西脇さんも一緒に来ますか?」
「一緒に来ますかじゃありませんよ。行くに決まっています!」
「良かった。僕、人見知りなもので。手が大きい人は慎重派が多いそうです」
何処が人見知り? 慎重派?
「先生と話していると疲れます」
「よく言われます」
こうして圭亮と西脇は警察の捜査に同行することになった。
しかし、被害者は用明太ではなかった。と言うことは、用明太は何処かで生きていることになる。被害者を殺害したのは、用明太なのかもしれない。
カーナビで位置を確認しながら運転し、品川の立花家に到着した。
西脇は圭亮を連れて、悪霊館へとやって来た。須磨の計らいで、警視庁の刑事立ち合いのもと、圭亮に現場を見せてくれると言う。それに便乗してやって来たのだ。
近くに大井競馬場があると言うことだったが、緑豊かな住宅街と言った雰囲気だ。立花家の洋館は庭草木がほとんど手入れされていない為、住宅街に浮かんだ浮島のように見えた。その異様な外観から、春先にも係らず、冷たい妖気を漂わせているような錯覚を覚えた。
屋敷の門前に黒塗りの車が停まっていた。
警視庁の刑事が、先に来て圭亮の到着を待っているのだ。西脇は黒塗りの車に並べて屋敷の壁沿いに車を停めた。
サクラ・テレビから僅か三十分程度の道のりだった。
「さて、悪霊館に入ってみますか」
「え、ええ。何だか屋敷に霊気が漂っているような気がしますね」
確かに不気味な屋敷だった。
鉄格子の門に鍵はかかっていなかった。
門を潜り、中に入ると、二段ほど地面より高くなった玄関があった。玄関は大きな庇とそれを支える太い柱で囲まれていた。そして柱には立ち入り禁止の黄色い規制線が張り巡らされていた。




