幽霊屋敷の怪談③
サラリーマンは持っていた携帯電話で救急車を呼んだが、男性は既に死亡しており、殺人事件として捜査が始まった。
被害者の身元は持っていた財布の免許証から直ぐに割れた。天野敬一郎だった。
天野は腹部を鋭利なナイフで刺され、出血多量で死亡していた。天野の遺体の傍には近所のコンビニで購入したと思われるおにぎりと缶チューハイの入ったポリ袋が転がっていた。
コンビニの防犯カメラを確認したところ午前一時四十三分に買い物をすませてコンビニを出て行く天野の姿が確認される。コンビニを出た後に襲われたものと思われた。天野の遺体が発見された路上には人と争った形跡が見られた。
天野以外の人物の血痕が確認されている。
天野は素行の悪い人物であり、恨みを持っている人物が多かったことと、一見、通り魔の犯行に見えることから、捜査は難航するかと思われたたが、犯人はあっさりと検挙されている。
犯人は松本穣治、二十四歳。東京都品川区山王在住、職業は会社員と言うことだが、もう半年も会社には出社していないようだ。こちらも札付きの不良で、大学を出てから職場を転々としている。実家が資産家らしく、親のコネで就職先を見つけてもらって働き始めるのだが、気に入らないことがあると、職場で上司を殴ったりして問題を起こすので長続きしなかった。
天野の腹部に突き立っていたナイフから指紋が採取され、傷害の前科のあった松本が捜査線上に浮かんだ。後日、路上に落ちていた血痕のひとつが、鑑定で松本のDNAと一致している。
事件後、実家で息を潜めていた松本は、訪れた捜査員により身柄を確保された。素直に罪を認めており、身柄の確保に当たって捜査員に対して全く抵抗はしなかった。
たまたま深夜のコンビニ前で悪友の一人、臼井守とたむろしていたところ、買い物に来た天野と出会った。お互いに面識は無かった。
「コンビニに入る時にあいつ、俺にガンを飛ばしやがった」
松本は犯行の理由について、そう語った。コンビニで買い物を済ませた天野はコンビニを出て行く時に、松本たちがまだ座り込んでいるのを見て、「ちっ」と舌打ちをしたと言う。
――何だ!こいつ。
松本は天野の後を追った。
「待てよ、お前、今、俺たちを見て舌打ちしやがったな。俺を誰だと思っているんだ~ああっ!」松本が後ろから罵ったが、天野は振り向きもしなかった。悠々と歩いて行く。
「おいっ!待てよ、待てっつってんだろう!」
松本は後ろから駆け寄ると、ぐいと天野の肩を掴んだ。天野は振り向きざまに松本の頬に強烈な左フックをお見舞いした。松本はコマのように一回転しながら道路に倒れた。
「何だ!? 俺に用か? お前が誰かなんて俺の知ったことか!」
天野は道路に伸びた松本の腹に蹴りを入れた。がしがしと続けて蹴りを入れる。松本は体を丸めて天野の蹴りに堪えようとした。
一瞬、呆気にとられて成行きを見守っていた臼井は、悪友の形勢が不利なことを悟って、加勢に飛んで来た。背後から気配を察した天野は、こちらも振り向きざまに綺麗な右フックで臼井をノックアウトした。
「お前らまとめて病院に送ってやるよ!」
天野は「けけけ」とけたたましい笑い声を立てながら、今度は地面に伸びた臼井に蹴りを入れ始めた。一発、二発、三発、続けざまに蹴りを繰り出す。
「止めてくれ・・・」たまらずに臼井が喚く。
松本は天野の背後で、よろよろと立ちあがると、蹴られた脇腹を押さえながらポケットから飛び出しナイフを取り出した。そして、天野目がけて突進した。
「正当防衛だよ」
松本は「正当防衛」を主張した。
「天野を殺さなければ自分たちが殺されていたと主張しています。量刑は今後の裁判の判決に委ねられることになるでしょうが、最初に絡んでいったのは松本たちなので、正当防衛はどうでしょう。認められないかもしれませんね」と西脇は話を締め括った。
「妖怪オバサンに言わせれば、通り魔事件も悪霊の仕業でしょうね」
「ええ。本当。そう言っているそうです。コンビニの辺りは刑場に近いから、悪霊がうようよいるそうです。大体、コンビニなんて、もともと変な霊が集まっているようなところだから、近寄らない方が良いのだと。はは」
「コンビニのお陰で、家業の酒屋の商売に影響があるのでしょうね」
「きっとそうです。後、他には・・・いや、止めておきましょう」
「何です。言いかけて止められると気になるなあ~」
「つまらないことです」
「つまらないことが、事件を解決に導いたりするのですよ」
そう言われると仕方がない。
「すみません。僕の夢の話です」
「西脇さんの夢! 是非、聞かせてください。西脇さんはイタコの末裔だから」と圭亮が言う。
西脇自身は東京生まれだが、祖母は青森県の出身で、祖母の祖母がイタコだったという話を母親から聞いたことがあった。以前、そんな話を圭亮にした。
「そうですか。昨晩、いや、今朝かな? 夢を見たのです」
西脇は夢の話をした。舞台の上でマリオネットが踊っている。誰が操っているのか分からない。そして、西脇自信は舞台の下に閉じ込められていた。
「ふうむ・・・」と圭亮は西脇の話に耳を傾けていた。
「すみません。夢の話なんかして。他人の夢の話ほど、つまらないものはないですからね」
「そんなことはありませんよ。西脇さんはイタコの末裔ですから、西脇さんの見る夢は死者からのお告げなのかもしれません」




