6滴目 わからせおじさん
「オージっ、オージ! オジ!」
背後で鳴るご機嫌な鼻歌。
魔王城の薄暗い大廊下で、メィリアとオーフリッジ、ニャンニャを背に歩いていた。
ちなみに、足元のプルプルはポヨンたそ。
「ご機嫌。ニャンニャとおそろい」
オーフリッジの言葉に、低く唸るニャンニャ。
さっきから、足音がでかすぎだ。オーフリッジ、なんでこんなやつ連れて来たんだよ……。
「オジ! 私とあ・そ・ぼ?」
舌を出し、指で卑しいジェスチャーをカマすメィリア。
「……アグランス様、久々にお部屋、借りてよき?」
こんなやり取りも、前によくあった。……こんなことで、この感覚を覚えるのは癪だが──懐かしいな。
「良いだろう。ただし、血族志願者が来た場合、迅速に対処すること」
「……ぇえ? めんどくっさぁ~……」
──ルミィナ以外とこうして話すのも、何だか久しいな。
そう捉えれば、ハッタリ抜かした俺の最高峰レベルの宣言は大正解だったのかもしれない。
『乙女十三座』……サアミクスには感謝だな。
「じゃあ、何かあれば呼び出してねん。よろしく~」
大廊下から抜けて、ポヨンたそと俺とは逆方向へ駆けるメィリアと、手を引かれるオーフリッジ。
「ニャンニャ、お留守番」
オーフリッジが呟くと、ニャンニャは急に歩みを止めて、静止してしまった。
それを尻目に、とりあえずは休めそうな場所に足を向かわせる。
ポヨンたそがずっと、蹴ってしまいそうなギリギリの位置でプルプル進んでるから、少々厄介だ。
「……あのお二方は、恋仲なのですか? 同性同士とは……」
「さぁな。メィリアの淫紋による主従関係かもしれんが……。オーフリッジに関しては、一ついえることがある」
「はて、なんでしょう?」
「──生えてるぞ」
あ、プルプルが止まった。
「何がとは言わんが、生えてるぞ」
念押し。やはり動かず。
「……ち、ちなみにその場合、どちらに傾くのですか? 肉体といいますか……」
一ミリもプルプルせずに固まったまま聞くポヨンたそ。
「さあ……身体は女体だから、女になるのか……?」
「左様ですか……」
ゆっくりスライドするようにして、再び動き始めるポヨンたそ。
……なんか、もう休もう。
◆ 遊戯部屋
「んまっ、ん~っ!! オジ♡ オジ♡」
ベッドに横たわるオーフリッジに乗りかかって、何度も接吻するメィリア。
「……メィリア、もう数十分もこうしてる」
「いいのッ! オジと久々に会えたからぁ……」
「オジ、くるち」
メィリアの肩を押して、自身の顔から遠ざけるオーフリッジ。
目を閉じ、唇を尖らせたままのメィリア。押されたことに気づいて、残念そうにゆっくり目を開く。しかし、それは熱を帯びていた。
「とかいって……オジも乗り気じゃん……ざぁこざぁこ」
「メスガキわからせ。オジ、犯す」
「きゃんッ♡」
オーフリッジが力強くメィリアの肩を掴んで、そのままひっくり返って立場を反転させた。
部屋に甘い匂いと、互いの荒い息だけが満ちていた時──
──ドォォオオオオオン!!
壁が消し飛んだ。本日二回目。
「キャー!!」
「だれ?」
煙と埃が舞う──その向こう側、たしかに見える人影。
「ワシこそは『神盾 アルガ・ヴァンド!!』乙女十三座、第九番である!!
魔王よ!! いるかぁああ!!」
「「……」」
視界が晴れる。侵入者──アルガ・ヴァンドは、わざと切り刻んだかのような薄い黒服に、丈の短いスカートを履いていた。
そして、両腕を力強く前に突き出したまま、しばらく二人と見つめ合った。
「……なっ、なにをしているのだ!! ワシのために、魔王を呼んで来い!!」
「「……」」
数秒、アルガ・ヴァンドに交わされた視線。
しかし、再びメィリアとオーフリッジは向き直って、熱い視線を交えた。
「オジッ、しゅきぃ!」
「わからせメスガキ」
「や、やや、ややややめろ! ワシの前でそのようなハレンチな事をするでない!! ……姫君と一緒でないかッ……」
顔を赤らめるアルガ・ヴァンド。
「脱げ、メスガキ」
「ひゃんっ♡」
「うわぁぁぁぁああああ、待て待て待て! そこの淫魔と修道女よぉおおお!!」
突き出されていた両腕を、背中に回して──武器を収めるようにして──喚くアルガ・ヴァンド。
「なんですか? 見て分からないんですか? 今お取り込み中なんですよ? 帰ってください雑魚雌重鋼鉄女変態乙女」
冷えきったメィリア。今までにないほど早口。
「……な、なんだその罵倒はッ!! ワシを侮辱するのかぁぁぁあああ!?」
「オジも不快。いま、たのちかったのに」
オーフリッジはベッドに腰掛けて、閉じられた、その冷たい眼差しでアルガ・ヴァンドを睨んだ。
それを見かねたメィリアは、はだけていた服を直しながら、アルガ・ヴァンドを見つめる。
「ッ……やっと終わりよったか!! お主ら、さっさと魔王に会わせろ!! ワシゃ、会いとおてたまらんっ!!」
オーフリッジは変わらず、ベッドに腰掛けて足をパタパタさせながら睨む。
──メィリアがベッドから降り立った。冷え切った眼差しで、アルガ・ヴァンドを見下した。
「そこの雑魚。少しは、立場を弁えたらどう? ざぁこ、ざぁこ」
「黙れ!! ワシを魔王の所へ──」
拳。右頬を直撃。顔が歪み、眼球が張り出す。
メィリアの振るった拳は、アルガ・ヴァンドに勢いよく直撃。部屋の端、クローゼットへ吹っ飛ぶ。
「ガッ」
「ざっこ〜」
口元に手を当てて、クスクス笑うメィリア。
──冷えきった眼が、アルガ・ヴァンドを貫く。
「黙っとけよ老害」
メィリアの左手の甲には、気づけば紋様が刻まれていた。
それはただ、紫色に怪しく光り輝いていた。
「こいつは、アグランス様のところにイかせないわ」
「……オジ、あいつ分からせる」
二つの双眸は、クローゼットに力なく張り付いたアルガ・ヴァンドを貫いていた。
「……よいッ!! 今のは実によかったぞ! 淫魔よ!!」
アルガ・ヴァンドの背からは、異様な魔力が、線のようになって、漏れ出ている。
部屋に流れた甘い空気が、魔力へと満ちていく。
魔王アグランスまでに到達させない為、防衛戦──蹂躙の、開始である。




