4滴目 血族集合
◆ 円卓の間にて
円卓、正面にはルミィナ。俺の隣、左端のポヨンたそは席に座っても、サイズの関係で顔が見られないので、円卓に乗りかかっている。
「……先に招集したものだが、いつもより遅いな」
世界征服をやっとのことで果たし、血族たちは各領地を治めている。
しばらく血族全員が集うことはなかったし、久々の招集だ。多少の遅刻はしょうがない。
ルミィナが、頬を机に擦りつけてあくびをした。
すると、ルミィナとポヨンたその席の上に、ぽっかりと紋様が浮き出た。紫色──淫魔のものだ。
そして、その紋様から淡い光が漏れ出て、細い尾が飛び出る。
「やっと一人来たかと思えば、薄汚れた弱小種族でしたか」
冷ややかに、ルミィナが呟いた。
「あれれーん、まだそんなに来てないじゃん。ザッコ~」
紋様から、その小柄な身体が飛び出ると、そのままペタッと椅子に座ってクスクスと笑った。
「メィリア、遅いぞ」
「メンゴ~、アグランス様──」
笑いながら俺に向くときだった。
「──ス、スライム……? アグランス様? どういうこと……?」
淫魔のメィリアが、隣のポヨンたその存在に目を丸くした。
「──魔粘液如きが円卓に座り、すみませぬな」
ポヨンたそはぷるんと挨拶。
その様子に、「うげ」と顔を顰めるメィリア。
「事情は追々説明しよう。まずは、全員集まるのを待ってからだな」
……はぁ。うまく説明できるかなぁ。血族募集したのはメィリアその他もろもろ知ってるはずだし。空席だったはずの第六席に魔粘液が座ってるともなると……。
溜め息を堪えて肘をつき、顎の前で手を組んだ。
「はぁい」
「気の抜けた返事ですね。それが遅れてきた者の態度なのですか?」
「はぁ~? 先にいたからって、あんたが偉い訳じゃないでしょうが!」
ルミィナとメィリアのいがみ合いを流していると。
入口の扉が開かれた。
「──ゼンイン、コロオス。蹂躙蹂躙」
円卓を揺らし、轟く足音。
ドス低い、歪んだ声に「《《ゼンイン》》」の視線が入口を向いた。
その音通り、人間三人分ほどの大斧を担いだ化け物──巨大な翼魔の傀儡だった。
「……また見ないうちに増えてますね」
「くっさぁ~……」
「おぉ……これはっ」
ポヨンたそがプルプルと小刻みに震える。恐らく怖がっているのだろう。
……大丈夫だ、俺もちょっとビビった。
「駄目、ニャンニャ」
大斧を持った傀儡を抜けて、一人の修道女が歩いてきた。
眼は閉じ、祈りを捧げるように手を合わせている。
「オジさん! ざぁこざぁこ♡」
尻尾をぶんぶん振り回しながら、左端の淫魔がほざく。
席から立ち上がり、飛び跳ねながら手を振るメィリアに見向きもせず、席へと向かう修道女──オーフリッジ。
「……アグランス様、茶は。」
大斧の傀儡──ニャンニャといったか──を後ろに、祈りを捧げたまま席に座った。
「用意したいところだが、生憎、緊急なものでな」
オーフリッジは少し俯いたように見えた。その背後で、肩を揺らしながら低く呻くニャンニャ。
その様子にプルプル震えて、ついに液体化したポヨンたそ。
円卓にだらしなく広がって、端から青い液体が滝のようにゆっくり垂れている。
「チャだ、青い。アルジ」
「青い茶? ニャンニャ、そんなの、ない」
「スライムですよ、修道女」
ルミィナがオーフリッジに向く。
「スライム。なんで円卓に? わからない、オジ。わからない」
眉を顰めて、怪訝な表情を浮かべるオーフリッジ。
──ポヨンたそのくだり、全員やるのか……?
まぁ、仕方ないか……。
「おう、アグランスの坊!」
男の、しゃがれた声が響いた。
入口を向く。
背に巨大な鉄塊のようなモノ──大剣を携えた、ゴツイ老人が見えた。
「オルドロード。久しいな」
老人──オルドロードに呟いた。無造作に伸びた髪は白く、一本にくくられている。
「俺っち遅刻か? いや、オンボロがまだ来てねぇんならセーフだな。ガッハッハ!」
豪快に椅子を引いて、そう笑い飛ばしながら座るオルドロード。
大剣は、円卓にかけられていた。
いつの間にか、液体から元に戻っていたポヨンたそ。
「んだ、スライムか?」
「間違いなく、私が」
「こりゃぁ大したもんだ!! 立派に挨拶できるスライムなんぞ見たことぁねぇ」
机をバシバシ叩くオルドロード。
「茶、零れちゃ。ニャンニャ、おしおき」
小さくつぶやくオーフリッジ。
「──オジさん! だめ! おしおきは私にとっておきなさい! ざこち〇ぽ!!」
席から立ちあがってオーフリッジに叫ぶメィリア。
その言葉に、隣のルミィナは顔を赤らめ、驚く。
「こ、ここは円卓です!! 不適切な言葉は使わないこと!!」
「はぁ~? なに恥ずかしがってんの? ざぁこざぁこ♡」
「おうおう、若い女は騒がしいこった! ガッハッハ!」
「──鎮まれ」
俺の一言が、円卓を貫く──
「──コロオス!! 蹂躙蹂躙」
「アグランス様、鎮まる必要などありません。直ちに私がこの汚らわしい淫魔を手にかけて見せます」
「あんたなんかにできるわけないでしょ、雑魚ま〇淫〇変〇〇〇〇〇女!!」
「ッ……なななな、何を──」
──ドォオオオオン!!!!
「「なっ?!」」
ルミィナと俺から、思わず声が漏れた。
衝撃。何かが魔王城に激突して、轟音が鳴り響く。
次第に衝撃は激しくなり──
「いぃいぃいい!? 近づいてくる?! あっちいけ雑魚!!」
──円卓の空席側、オルドロードのすぐ横の壁が崩壊する。
瓦礫、風が舞った。
「来やがらぁオンボロ!!」
「蹂躙、ホンモノ」
爆風。
待て待て、円卓が吹き飛ぶだろう。
「みんな飛ぶ。楽しそう」
「厄介ですね、まったく」
深く溜め息を吐きながら、ルミィナは円卓の中央に手を翳す。
円卓全体に朱い法陣が浮かび上がり、結界が周囲を包む。
「グアアァア」
結界に入りきらなかったニャンニャが吹き飛ばされ、雄叫びを上げる。
「ニャンニャ、暴れないで」
小さく呟くオーフリッジをよそに、大斧とニャンニャは宙を舞っていた。
──やがて爆風が止む。
「……はぁ」
ルミィナが目を瞑って呆れたように、円卓に翳していた手を引っ込めた。
朱い法陣は薄くなっていき、円卓の結界もまた同じだった。
灰煙は次第に晴れていき、衝撃の正体、その影が見えた。
「ナイトスレイン。もう少し静かに入れ」
晴れた視界、右。オルドロードの背景にぽっかり空いた風穴。
目に映ったのは、漆黒の瞳──巨大な竜の頭が、円卓に覗いていた。
「入口をつくれと言っただろう。なぜだ。せめて、小生の顔が入るくらいの穴を空けておけ」
低く、脳がゆっくりと震える声が轟いた。
硬質な紅い鱗。熱が漏れ出て、蜃気楼で揺らめく口元。
ナイトスレインが喋る度、煤と熱がかかった。
「……一先ずは、全員揃いましたね」
ルミィナが安堵したように溜め息を吐いた。
「何故、小生を円卓へと招いた」
「そうよアグランス様!! なんで呼んだのよ!」
「聞いてやろうじゃねぇか坊よぉ!!」
「わからない。知りたい」
円卓各方から、声が飛び交う。
──こんなに賑やかなのも、久しぶりだな。
咳ばらい。
鎮まる円卓。
「これより、緊急円卓会議を執り行う。
議題は──『対抗/乙女十三座』」




