血族面接①
◆ アルガ・ヴァンドの襲撃から数日後。
「アグランス様ぁぁああ!!」
従者の小鬼が、顔を青白くして──もとい、顔面はずっと不気味な緑なのだが──俺の部屋に駆けこんできた。
「どうしたのだ」
それまでベッドでゴロゴロしていたから、ベッドから起き上がって、「少し耽っていた」と言わんよう、慌てて服のシワを直しながら小鬼に問いた。
「……この世の、世の!! ありとあらゆる種族たちが押し寄せてきてます!!」
「は、はぁ?!」
最悪……というには、実感が湧かなすぎた。
今、魔王城の門の前に、詩民やら鈍豚やら小鬼やらが行列を成してるってのか……?
いやいやいや、別に。俺魔王だし。みんなからしたら、世界征服果たしてるし怖いだろ。そんなやつの血を欲しがる奴なんていないって~……。
「総数……およそ3000!!」
終わった。帰っていい?
──ここ俺の部屋か。じゃあ帰んなくてもいいか。
「ど、どういたしましょう……?!」
「うぅむ。俺の血族は? 暇してるやつは?」
「……どうでしょうか。恐らく、ルミィナ様の禁忌の地の視察はじきに終わるかと……」
よ、よし!! ルミィナは手が空きそうなのだな……!
まだ、なんとかなりそうだ……。
「ほ、他は?」
「ほかですか……ナイトスレイン様は恐らく手が空いているものかと」
「竜がこの事態に駆けつけてどうするのだ」
「彼の竜の焔吐で全員焼き払ってしまうなど?」
「──ありだ」
嘘です。そんなことしたら余計に面倒なことになります。
「で、では! 招集をかけましょうか」
「待て。三度も魔王城の壁を壊されてたまるか」
血族会議……アルガ・ヴァンド襲撃……つづく候補者殺到の助っ人……。無理だ。これ以上は魔王城が持たん。
「はっ」
……ふぅ。変な汗かいたな……。
「で、ではどう対応いたしましょう?」
小鬼は目を大きく見開き、汗ばんだ身体を震わしている。
俺の部屋の扉に手をかけたまま、小さくうずくまっていた。
──先から考えていたが……これだと現実的じゃなさすぎるな……。
いや、やるか? 「面白そう」だと、そう思えるならば、暇つぶしになるし。
「玉座の間だ。今すぐ机と椅子を用意しろ」
「……は、はぁ?」
半ば諦めからだったが、俺は鋭い笑みを浮かべた。
「──面接の時間だ」
◆ 魔王城、城門前。
数多の種族たちが、彼方へ列を成して並び尽くす。
その行列は、魔王城付近の枯れ木ばかりの薄れた森まで続いていた。
「開門だ!! 門を開けてケロ!!」
「はやく!! 魔王様は?!」
「俺が血族になるんだよぉおお!!」
次々に声を上げる行列の先頭たち。
人型の獣族から、鈍豚まで、様々並んでいた。
「フン……大人しくしていれば良いものを……」
先頭から数メートルほど離れた、城壁の影。腕を組み、先頭の連中を嘲笑する人狼がいた。
「どうせ、魔王アグランスの血族へと成るのはこの俺だ……。お前らがどれだけほざこうが、『負け犬』の遠吠えなのだよ……」
目を伏せ、薄ら笑いを浮かべる人狼。
拳に巻かれた包帯と、口を開いた時に伺える鋭い牙。
「──お待たせいたしました!!」
けたたましい金属音。小鬼の声が響いて、門の扉が開かれる。
「さぁさ!! 皆様中へ!!」
小鬼が汗を額に浮かべながら、中へと招き入れる。
「おお、ついに魔王様に見えれるケロね!」
一番先頭にいた人型の蛙が嬉々として小鬼の後を追った。
「フン……待たせよって」
蛙の後方に成された列──そこに割って入る人狼。
「ちょっと! わっちが先ニャ!」
前の列に入られた人猫が声をあげる。
「……フン」
人狼は鼻で笑い、そのまま前の列に並んで歩いて行った。
◆ 一次面接会場
「……それでは、Aグループの一番、どうぞ」
魔王城の一室。並べられた机には、三体の魔族が並んでいた。左から、骸死、小鬼、魔粘液──ポヨンたそがいた。
「し、失礼するケロ」
先頭の列にいた蛙が扉を開く。
「──不採用ですな」
震えるポヨンたそ。
「不採用ですね」
眼鏡をかけ直す小鬼。
「ワイトもそう思います」
骨を鳴らす骸死。
「……け、ケロ?! どうしてだケロ!!」
扉前に立ったまま、動揺する蛙。
「ノックは常識ですぞ。」
「語尾にケロをつけないこと。」
「ワイトもそう思います。」
一連を聞いて肩を落とし、背を向けて帰る蛙。
「……失礼します」
開かれた扉から、人狼が入った。並んだ椅子の一番奥の左に立つ。
続けて入る獣族達。
人狼の隣には人猫が二匹。一番最後に入ったのは、人鰐だった。
「どうぞ」
「「「「失礼します」」」」
全員口を揃えて、椅子に腰掛ける。
「まず第一に。何故アグランス様の血族になりたいのですか? 人鰐から答えて貰いましょう」
小鬼が尋ねた。
「は、はい! 俺様はアグランス様の強大な力──世界征服するほどのそれに魅入られ、俺様も血族に加わりたいと考えたのです」
「あなたが血族に加わってできることは?」
「……えっと、お、泳ぎが上手なので、泳げます。泳ぎ方なら教えられますよ」
「──それは頼もしいですな。はて、魔粘液にも泳ぎ方を教えて貰えないでしょうか」
ポヨンたそが震え、笑いながらそう聞いた。
「そ、それは……」
「……血族になったとて、何も出来ないではないですか。不採用です」
小鬼が呆れたように呟く。
「は、はい……」
◆ 魔王室
「アグランス様ッ……!!」
扉を勢いよく開いたのは、ルミィナだった。
「あぁ、帰ってきたのか。どうしたのだルミィナ」
「どうしたじゃありませんよ!! な、なんですか!? 魔王城に大量に魔族達が押しかけていますけど!!」
「面接中だ、文句を言うな」
俺だって文句言いたい。
「は、はぁ?!」
困惑した表情のルミィナ。
「め、面接なんて……。面接官は誰が担当するのですか!!」
「ルミィナ──二次面接を頼む」
「……こんなことなら帰って来なきゃ良かったです」
目を見開いたルミィナは、そのまま目を伏せて大きくため息を吐いた。
──魔王による面接はまだまだ続く。




