10滴目 血族面接②
Q.「あなたの志望動機は?」
A. 「魔王アグランス様とお会いしたい」
「力を授かりたい」
「血族になって名を馳せたい」
──どいつもこいつも、馬鹿ばかりだ……。何故、何故だ。
俺が望むのは……かの言葉だけだ。
「……では、最後に。人狼様、どうぞ」
魔粘液が揺れた。
「──蹂躙。ただ、それだけです」
瞬時。面接室が微かにどよめいた。
「ホッホッホ」
魔粘液は相変わらず揺れて、ただ笑った。
「ありがとうございます、面白い回答でしたな」
◆ 魔王室
ルミィナは二次面接の準備に、早速取り掛かってくれた。
事が早くて良いな。
──さて、そろそろ一次面接が終わるとの事だが……
「ニュルンっと」
ベッドに腰掛けて考え事をしていると、扉と床の隙間から、青い液体──ポヨンたそが入り込んできた。
「おぉ! 一次が終わったか!」
「えぇ、今終わったところですな」
「それで、仔細は?」
ポヨンたそは、大きく震え──恐らく胸を張ったか──、咳払いをした後に口を開いた。
「一次面接通過者、600名です」
「3000中600……うむ、良く絞れている」
……面接すら通過できないやつが2400体もいるという事実に戦慄。
「ここで、珍回答でも紹介しておきましょうか。どれ程の知性を持った魔族達が、アグランス様の血族を志願しているか垣間見える、良い機会でしょう」
「ほう、したまえよ」
腕を組み、ポヨンたその次の言葉を構えた。
……なにせ、普通の面接で落ちたようなイカれ魔族らが言うことだ。ロクなことなどないに決まってる……。
「Q.志望動機はなんですか?
A.姉に向いてるって言われたから」
自分の意思で来いよ。そんな心持ちで受かるとでも?
「Q.志望動機はなんですか?
A.昼飯が美味しいって聞いたから」
──ふざけるな、と口から出かけたが。
「確かにルミィナの手料理は美味いがな……」
眉間にシワがより、喉が唸る。
「そやつ、合格でも良かったかもしれぬな」
「私もかなり迷いましたよ。ホッホッホ」
プルプル震えた後に、ポヨンたそはまた続けた。
「Q.あなたの長所と短所を教えてください
A.長所は火が吹けるところ。短所は吹いた火が3センチくらいで短小なところ」
「まるで大喜利だな」
「Q.あなたの長所と短所を教えてください
A.ご飯の時間なので帰ります! 今日は姉の手作りなのでっ!」
「さっきのやつじゃねぇか、途中で帰るな」
「Q.何故血族に憧れがあるのですか?
A.憧れるのをやめましょう」
「……名言を残すな、質問に答えろ」
「Q.何故血族に憧れがあるのですか?
A.メィリア様メィリア様メィリア様メィリア様メィリア様メィリア様メィリア様メィリア様」
「怖い怖い怖い怖い、ストップストップ!……メィリアガチ恋勢まじかよ……」
「……さて、ここで少し面白かった回答──いや、今までの面白みではないのですが……。気になったことが一つありまして。」
ポヨンたそは、何やら改まった様子でプルンと震えた。
「なんだ、今までがイカレすぎてるから薄れてしまいそうだが」
「詩民の少女が、一人面接に来まして。
質問に答えることなくただ一言、アグランス様にお願いがあると」
──お願い……? 詩民の少女が俺に?
「……ほう?」
「詩民の英雄と呼ばれるお方が、何者かによって歪められた。どうか、その者を討ってほしい、と」
「……詩民の英雄……」
──頭に浮かんだのは、かつて対峙した者。茶髪のロングヘアに、長く尖った耳。竪琴を携え、大木に腰掛けてこちらを見下すあの視線。
「乙女十三座……。」
「なっ……! 詩民の英雄は、乙女十三座であるのですか?!」
「琴のような弓だった……。美しい音色だった。容姿だった。
魔王城近くの森があるだろう? そこへ進軍を進めていた時だったのだ。襲撃されてな」
「……ほう、そんなことが」
「竪琴の音色が響いたかと思えば、一人、射抜かれていた──」
◆
「……総員退避ッ!!」
怒号が上がる。竪琴の音色は、深い森にただ響いているだけだった。
その音色が魔王軍にとっては恐怖の音色であったのだ。
「……クソッ、おい坊!! ほんとに逃げんのか!?」
オルドロードの叫び。
「……いやっ、いやいや! アグランス様、ダメ!! ……逃げたらダメっ……私耐えられないッ……」
ルミィナの嘆き。
「……」
顔を歪ませ、拳を強く握るアグランス。
唇を噛み締め、今目を開いた。
「今すぐ! 直ちに退避せよ!!」
竪琴の音は、ただ響いていた。
「魔王軍。大したことないじゃんか。……弱っちぃねぇ」
血族達の一番後ろを駆けていたアグランスの耳に、声が、聞こえた。
声の方向──右手の大木を見上げる。
──詩民が枝にもたれて竪琴──弓を撫でていた。
「……一人射抜けた、万々歳だね。」
竪琴は鳴っていなかったが、アグランスの耳には、未だ音色が廻り続けていた。




