533、天空イチャイチャ
誤算があったとすれば……
アレクが魔法制御に集中しているため、お喋りの余裕がないことだろうか……ちなみに魔物は梟系が一匹のみ。
鉤爪が凶悪な爪裂梟っぽかったが狙撃であっさり撃ち落とした。ちなみに回収はしてない。
「アレク、そろそろ代わろうか?」
「ううん。もう少しやらせて。今、いい感じなの。」
「オッケー。がんばって。」
「ええ。」
陸地に入ってから二時間ぐらい経ったかな? 集中するアレクの横顔って凛々しいよなぁ。絶世の美女が額に汗してミスリルボードを飛ばしてるんだぜ? 時折手元の羅針盤も確認しながらさ。鋭い眼差しでさぁ。これこそ絵にしておきたい光景だよなぁ。カメラがあればいいのに……
「ちょ、ちょっとカース……み、見過ぎよ……恥ずかしいじゃない……」
「いやぁごめんごめん。アレクの横顔があまりにも素敵だったもんでさ。それよりだいぶ上達したよね。いい感じだと思うよ。」
だって私が酔ってないから。きっちり水平を保ち、揺らさず飛ばしている証拠だよな。
「そ、そうかしら……それならよかったわ。あ、そうだわカース。次にヒイズルに行く時なんだけど……」
「うん。なんだい?」
「ヒイズルに行った後、スペチアーレ男爵の所に行くじゃない?」
「うん。その予定だね。」
「その時に、私は天道宮に泊まろうと思うの……」
な、なん……だと……
「え、えーっと……僕や村長がスペチアーレ男爵の所に行く間、アレクは天道宮に泊まるってこと、だよね?」
くっ……なんてことを……優しすぎるぜアレク……
「え、ええ。一週間だけでもサテュラの相手をしてあげたいと思って……どうかしら……」
それならわざわざ別行動する必要はないんだよなぁ。私に、私達に急ぐ予定などないんだから。天道宮に一週間滞在した後で男爵の所に行ってもいいんだし。
問題があるとすれば、村長をあまり待たせたくないってことぐらいか。事情を話せば村長も喜んでヒイズルに来てくれそうだが……うーむ、どうしよう。
「分かったよ。それでいこうか。で、適当なところで迎えに行くね。」
「ごめんねカース。ありがとう。あっ、西側に砂漠が見えるわ。そろそろかしら?」
東に海、西に砂漠が見える狭いエリアを飛んでるってことは……楽園までもう二、三百キロルってとこかな?
「そろそろだと思うよ。もう一、二時間かな。」
「まだそんな所なのね……カース、交代してくれる? さすがにこれ以上カースを待たせるわけにはいかないわ。明日も早いんだし……」
「そこまで気にしなくてもいいのに。でもせっかくだから交代するね。」
アレクの魔力的にはまだ余裕はあるが体力や集中力的にそろそろ危ないかもしれないもんね。快く代わるとも。
代わる……ちょっと閃いたぞ?
「ねえ、サテュラちゃんなんだけどさ。今なら辺境伯家から侍女やメイドを呼んだりできるんじゃない?」
そして今の侍女と交代してもらうってのはどうだ? または交代じゃなくても身の回りの人数を増やすって手もあるのでは?
「実は、私もそれ言ってみたの。でも、今の侍女たちがみんな良くしてくれてるから……そこに旧知の侍女を呼び寄せるのは要らぬ軋轢を生むからって。要は気を遣ってるのね。天公妃なのに……いい子よね……」
さすがアレク。私が考える程度のことなど提案済みか。
「ということは、交代じゃなくただ連れてくるだけでもだめなのかな?」
「そうなの。一つは費用の問題。いくらクワナが天公でありヒイズルの頂点だからって、そこまでお金に余裕がないらしいの。もう一つは辺境伯家の侍女への気遣い。何年も自分から離れた以上、もう今の立場に慣れているはず。そこを遥か遠く海の向こう側まで呼ぶわけにはいかないって。そんなの本人に聞いてみないと分からないのに……サテュラったら……」
何というか……気を遣いすぎだろ。ちょっと前まで私に「うるさいですの平民」とか言ってた女の子はどこに行ってしまったんだ。
一介の冒険者の妻になるつもりで気ままに振舞っていたのにいきなり一国のファーストレディになってしまったもんで全方位に気を遣ってる……ってことか? 大変だねぇ。
「そっかぁ。じゃあ一週間あることだし、じっくり話を聞いてあげるといいね。辺境伯家の方には僕が行ってもいいんだしさ。それでもサテュラちゃんに仕えたいって言うかもしれないし。」
「そうよね。いつもありがとうカース。私のわがままを許してくれて。」
おほっ。背中から抱きつかれた。じんわり温かいじゃないか。春の夜空は少しばかり寒いから余計にね。
「大したことじゃないって。あ、そろそろ着くよ。今日も疲れたよね。お風呂入って早く寝ようね。」
「カースのせいで眠りたくない気分になったのはどうしてくれるのかしら?」
「はは……湯船で考えるとするよ。あ、楽園の城壁が見えた。いやぁ長旅だったね。」
アレクったら。時間がないのに悪いこと言うんだから。つくづく悪い子だねぇ。




