532、帰り道ランデブー
さて、長居するほど時間もないし。そろそろ帰ろう。
「じゃあそろそろ帰るよ。アレクを呼んでもらえるかい?」
「ええ。少々お待ちくださいね。」
さて、今から帰れば……五、六時間は眠れるな。悪くない。
「のぉ、魔王よぉ……ヒイズルも戦場になるんかのぉ……」
おや、ようやくセキヤが口を開いたかと思えば。やけにシリアスなトーンじゃないか。
「どうだろうな。今のところ大丈夫じゃん? でもまあ将来的には分からんよな。」
「そらそうじゃのぉ……まあ俺のやることなんざクワナを守るぐらいじゃからのぉ。来るなら来いじゃあ!」
あ、いきなり元気になった。
「心配しなくてもそうならないように立ち回るって。でもセキヤ、頼りにしてるよ?」
「お、おおよ! 任せとけやぁ!」
こいつら仲良いなぁ。
「カース、お待たせ。帰るのね。」
「待ってないよ。楽しめた?」
「ええ。明朝の話し合いが終わったらもう一度来たいものだわ。」
アレクったら優しいんだから。
「それもそうだね。軽く報告がてら来てもいいよね。」
片道千キロルはあると思うが、我ながらまともじゃないね。
「それは助かります。でしたら次来られた時は軽く宴など催したいと思います。いいお酒もいくつか用意しておきますね。」
「悪いね。それはありがたい。早ければ明日の昼か夕方に来るけど、遅ければ明後日かな。じゃ、またな。」
「ええ、わざわざありがとうございました。気をつけてお帰りくださいね。夜に空を、それも長距離飛ぶなんて想像もつきませんから。」
「ああ。ありがとな。」
「あ、次は中庭にいきなりどうぞ。周知しておきますので。」
「おお、悪いな。それは助かるよ。じゃ、またな。」
では帰りも中庭から飛び立つとしようかな。
それにしても、来た時よりさらに暗いからな……帰りは意外と時間がかかりそうだな。五、六時間眠れるってのは誤算だったか……
おっと、クワナたちが手を振ってる。私も振ろう。アレクも。コーちゃんは首を振ってる。かわいいんだからもう。
「遅くなっちゃったね。眠くない?」
「ううん、大丈夫。カースこそ眠いんじゃないかしら? 陸地まで行ったら交代するわよ?」
「ありがとね。でも大丈夫だよ。それよりサテュラちゃんはどうだった? 見た感じは元気そうだったけど。」
私が気にすることじゃないんだけどね。
「やっぱり分かっちゃう? 元気は元気なんだけど、どこか寂しそうというか疲れ気味というか……いつものあの子じゃない感じだったわね。もっとも、いつものあの子なんて言えるほど付き合いが深いわけじゃないんだけど。」
「あー、やっぱそうなんだね。あの歳だし周りはヒイズル民ばかりだろうし。やっぱ苦労してるのかな。」
「ううん。そういう愚痴はなかったわ。みんな良くしてくれるみたいね。でも、どうしても気を抜いて話せる友人なんてできないみたいで……少し気苦労が溜まってる、ってとこかしら。」
なるほどね。まぁ、そりゃそうだろうなぁ。周囲に同年代の女の子はいるだろうけど、対等に話せる相手なんているわけないんだからさ。
「あれ? そういえばサテュラちゃんって専属の侍女とかメイドとかをフランティア家から連れていったりしてるの?」
ソルダーヌちゃんだって幼少期からの友人をそのまま侍女や女官にしてるわけだし。サテュラちゃんにもそういう女の子っているのかな?
「昔はいたそうなんだけど、ほらサテュラってクワナに付いていってしまったじゃない? あちこちを点々としつつとうとうノルドフロンテまで。だから辺境伯家を出る時に断ったらしいわ。何人か付いてこようとしてたみたいで。」
「あー、そりゃそうだよね。いくら幼少期からの侍女でもさすがに連れていけないよね。」
どう考えても足手まといになるもんな。うちのマリーみたいな凄腕メイドさんならともかくさ。
「同年代の女の子はいるみたいだけど、とても気を許せる間柄じゃないみたいだし。天公妃も楽じゃないわよね。」
ん? 天公妃?
「あれ? もう結婚したの? いつの間に。」
「ついこの間みたいよ? ほら、四月一日よ。ソルと同じ日。せっかくだから挙式日を合わせたんですって。」
ほー。やるねぇ。本来ならソルダーヌちゃんの結婚式に出席するべきなんだろうけど、ヒイズルからじゃさすがに無理。だから開き直って自分達も結婚式ってか? いいアイデアだしいいタイミングじゃん。
それに、他の者がわざわざローランド王太子の結婚式と同じ日に式を挙げたりした日には忠義を疑われたり攻撃の材料にされそうなもんだけど、ヒイズルじゃあ遠すぎて誰も何も言えないよなぁ。おまけに腹違いとはいえ王太子妃の妹だし。文句どころか姉に憧れて真似をした妹ってふうに温かい目で見られてるかもしれないね。
「それは上手いことやったね。あ、陸が見えた。そうだアレク、せっかくだから交代しようか。このミスリルボードを飛ばしてみてよ。魔物がいたら僕が何とかするからさ。」
「おもしろそうね。やってみるわ……」
「じゃあまずは浮身からね。」
「え、ええ……」
『浮身』
よし。そして風操もカット。徐々にスピードが落ちていく。
「はいこれ羅針盤。ここからだとだいたい北北西かな。」
『暗視』
「え、ええ……くっ、さすがに三つも同時に使うのって……かなり大変ね……」
光源の魔法だと使いっぱなしだから楽でいいんだけどね。その代わり魔物にめっちゃ見つかるからなぁ。やっぱ夜動く時は暗視だよね。
「急がなくていいからね。たまにはこうしてアレクとゆっくりお喋りするのもいいなーと思って交代したんだよね。」
「もうっ、カースったら。私は全然ゆっくりできないじゃない。でも、任せてくれて嬉しいわ。」
ふふふ。アレクならできるって分かってるからね。たまにはこんなハードなことを任せてみるのもいいんじゃなーい?




