530、旧王ジュダと新王クワナ
おっ、クワナだ。元気そう、でもないな……疲れてんのかな?
「ようクワナ。久しぶり。こんな時間にいきなり悪いな。お疲れのところをさ。」
「どうも魔王さん。お久しぶりです。本当ですよ……でもようこそお越しくださいました。で、何事ですか? おっと、まあお座りください。セキヤもね。」
「お、おお……」
「悪いな。もしあればコーちゃんに酒を一杯頼む。ツーホ村だっけ? そこの美味い酒があるじゃん?」
「グリッチ領はツーホ村、アキツホニシキの特等純米生原酒ですか? 無茶言いますねー。残し少ないのに……一杯でいいんですか?」
「ピュイー!」
はは、喜んでる。聞くだけ聞いてみてよかったよ。
「ああ、一杯でいい。悪いな。」
そりゃあできれば私だって飲みたいけどさぁ。残り少ないって聞いちゃあね。
おっ、魔力庫から取り出しやがった。しかも樽じゃなくて瓶かよ。一升瓶ぐらいのサイズとは珍しい物を持ってるじゃん。さすが天王、じゃなかった天公。
「どうぞ。さて、お話を聞きましょうか。」
おっ、私達には侍女さんがお茶を用意してくれた。気が利くね。ありがとー。
「ああ。事の起こりはついさっき、夕方だ。俺のとこ、楽園でな…………」
少し長くなるけど、きっちり話しておかないとな。オワダ商会で聞いたことも含めてさ。
「…………というわけだ。そこでクワナからあれこれ話を聞ければと思ったわけさ。で、最近どうなの? メリケインとの付き合いはさ。」
「ふむ……今の話を聞いて思ったのですが、どうもメリケイン連合国はローランド王国を狙っているのではないか、そんな気がします。」
マジかよ。いきなり話が飛ぶなぁ。
「どこからそう思った?」
「ヒガンテブランコでしたっけ? あれ程の船がローランドに着岸してることですね。表向きはバンダルゴウの商船に偽装しているようですが、明らかに民間レベルの船じゃないですよ。しかもそれ程の船はイカルガで目撃されておりません。と、なりますと、いきなり楽園に行ったのではないでしょうか。」
「なるほどね。ローランドに攻め込むことが目的なら、なぜ楽園なのか気になることはあるけど。あり得ないことじゃないな。でもそれならまずヒイズルを征服してからの方が効率がいい気がするんだけど、そのあたりはどう思う?」
普通そうするよな? ヒイズルをゲットしておけばローランド王国の喉元に匕首を突きつけるも同然なんだからさ。
「おそらくですが、我が国を攻撃してしまうとローランドに気取られてしまうことを気にしたのではないでしょうか? だからこそ誰にも見られないよう楽園の東に着岸したのではないでしょうか。そこでバンダルゴウのシャイロック商会を隠れ蓑にして着実に足場を固めようとしたのでは?」
「あ、言われてみれば……あいつら港を作りたいって言ってたな。返事はまだ保留してたんだが……まさかそんな理由かよ。」
今から攻め込もうかって国にまず港の建造とは、大胆なこと考えやがるなぁ。確かに楽園の東岸なら普通は誰にも目撃されないしな。そこならローランド王国の中心部に攻め込むのは正直ハードすぎる気もするが橋頭堡と考えると悪くないんだよなぁ。
「では魔王さんとしてどうします? やはり断るので?」
「いや……許可しようと思う。」
ふふふ。いいこと思いついたからね。浅知恵だけど……
「ええっ!? いいんですか魔王さん!? メリケインの軍勢がわらわら上陸してきちゃいますよ!?」
「その時はその時さ。可哀想だが皆殺しにしてやるよ。それよりもさ、港があるとやっぱ便利じゃん? それがタダで手に入ると考えれば、かなりお得じゃん? 何ならイカルガからの交易船だって受け入れるぜ?」
今回の件、もしメリケインの中枢が関わってるのだとすると港の件を侵略と見なして報復することだって許される。私が行くかは分からないけど、うちの国王に言えばヘルムートで焼き討ちに行ったりしないだろうか。虎の尾、いやドラゴンの逆鱗に触れる形になるもんな。そして楽園の東には大型船が入港できる港が残るって寸法だ。なんと見事な皮算用。これ意外といけるんじゃない? 濡れ手で港ゲット大作戦だな。
「はは……そんなの魔王さんにしか言えませんよ……でも気をつけてくださいよ? あいつらの武器って遠くからでも届くみたいですよ? 威力だってかなりのものですし……」
「分かってるさ。ヒガンテブランコにもいくつか大砲を積んでたしな。あれでもしムラサキメタリックの砲弾なんて飛ばされたら人間じゃ防げないもんな。」
「ははは……あれ大筒って言うそうですね。幸いメリケインにムラサキメタリックは扱いきれないでしょうけど、それでもあっちにはアイリックフェルムがありますからね。魔王さん以外に防げないのは同じでしょうね……」
そうだよなぁ。でも何だかんだ言ってもムラサキメタリックを扱えてたのってジュダの功績だよな。メリケインより技術が進んでたんだろうか?
あ、ジュダといえば……
「そういやジュダの時ってメリケインとの仲ってどうだったの?」
「民間レベルでの交易にとどまっていたようです。メリケイン側はもっと密に繋がりたかったようですが、ジュダは断固として跳ね除けたようですね。要は今とあまり変わりません。」
ほう。少しはまともな面もあるんだな。意外だわー。あいつって長いものに巻かれるタイプだろうに。
「ちなみに何か理由はあったの? あいつってメリケインからの流れ者とかって聞いたけど。」
「まさにそれです。ジュダはメリケインを追われてヒイズルに流れ着いた身です。だからこそメリケインを恨みはしても仲良くする理由などなかったのでしょう。それに……飲み込まれることを警戒していた、そんな一面もあるかと思います。」
なるほどね……ジュダのまともな面を見せられるってのは妙な気分だが、あいつがもっと間抜けだったら今ごろヒイズルはメリケインに征服されてたりするんだろうか? でも、そもそもあいつが間抜けだったら天王になんかなれてないだろうしなぁ。
世の中って面白いなぁ。




