527、オワダ商会番頭タイト・シリノア
では出発。ヒイズルはここからだいたい南南東だったかな。慎重に行かないと通り過ぎそうだからな。
それにしてもヒイズルに行くのっていつぶりだろ。前回から軽く一年以上経ってるよなぁ。懐かしいや。
「ねえカース。やっぱり働きすぎよ?」
「あはは、やっぱり? 自分でもそう思ってたんだよね。でも逆に考えると僕らが楽園にいる時でよかったよね。」
「ああ、それはそうね。大襲撃にも耐え抜いた楽園だけど人間相手だと勝手が違うこともあるもの。やっぱりカースがいないと、ね?」
あは、その通りかな? それにしても今回は一人生き残ってくれたおかげで先に知れてラッキーだったね。これがもし冒険者のふりして内部まで入り込まれてたら結構危なかったかもなぁ。
「それにしても目的が見えないよね。あんな所に港を作るなんてさ。」
初期投資にしてはデカすぎるんだよなぁ。クタナツ代官みたいに遠い未来を見据えてるってんなら分からんでもないが。
「単純に考えればエルネスト君に先んじたいのかもしれないわね。シャイロック商会は未だ絶大な力があるとは言うけど、それでもかつての勢いはないらしいじゃない? きっとこのままじゃバンダルゴウでの地位がどんどん下がる一方なものだから賭けに出ている、かしら?」
「あー、あり得るね。エルネスト君も言ってたもんね。それにエルネスト君だってようやくこっち方面に動く目処が立ったとも言ってたもんね。だから焦ってるとか?」
「確かにそうね。ということは、港を建造して自分達で独占したいとか? もしくは優先的に使いたい……あり得るわね。」
おー、なるほどね。やはりアレクと話してるといい考察ができるなぁ。さすがアレク。
港の優先使用権、もしくは独占権か。先んずれば何とやら、だな。
おっ、そろそろかな。こんな時間なのに魔物に遭わなくてラッキーだったな。
後はオワダを探さないとな。ヒイズルの西側中部、海沿いだったな。城壁はないからいきなりオワダ商会の目の前に着地したって構わない。
見えた! あそこだ! 着地!
あれ? やけに立派になってない? やけに新しいし。
とりあえずノックしてもしもし。閉まってるから強めにね。
反応がないな。これだけの大店で留守なわけない。営業時間外なのは悪いがこっちも緊急だからな。さらにノック。
「あいすみません。当方はもう閉まっております。また明日お越しくださいませ」
ほっ、いたいた。
「時間外にすまない。俺はカース・マーティン。魔王と言えば分かるか? 番頭に急用がある。悪いが呼んでもらえないか?」
「申し訳ございません。この時間はどなた様であろうと断るよう言われております。またのお越しをお待ちしております」
あらまぁ……声が若いが、もしかして私が分かってないな? うぬぼれるつもりじゃないけど番頭なら喜んで対応してくれるだろうに。困ったなぁ。
「分かった。番頭が不在なら諦める。だがもしまだ番頭がいるのなら魔王が来たとだけ伝えてくれ。それでだめなら帰るから。」
「……お待ちください……」
おっ、いるのかな? 無理言ってごめんね。
うおっ、いきなり扉が開いた。チラリと確認ぐらいすればいいのに。
「魔王様! 魔王様ではないですか! よくお越しくださいました! どうぞ! お入りください!」
おお、番頭だ。元気そうだけど少し太ったか? 幸せ太りってやつか。
「こんな時間に悪いね。ちょっと急ぎの用があってさ。」
「いえいえ! こちらこそ大変失礼いたしました! 実はここ最近大忙しでして……時間外まで対応する余裕がございませんで……」
「構わんよ。無理を言ったのはこっちだからさ。あ、これさっきの子に渡してあげてくれるかな。」
ローランド金貨を一枚。今ヒイズルの金は持ってないからなぁ。
「かしこまりました。お志に感謝いたします。ささ、こちらにどうぞ。お嬢様もコーちゃん様もようこそお越しくださいました」
「悪いわね。お邪魔するわ。」
「ピュイピュイ」
案内されたのは……やはり応接室か。十二畳ぐらいかな? シンプルで落ち着く内装だね。ふぅ……ソファーに座ると一気に疲れが襲ってきた。今日はあまり大したことしてないはずなんだが。疲れが溜まってんのかねぇ。
「失礼します!」
おっ、さっきの男の子か。お茶を持ってきてくれたんだね。
「ありがとね。」
「先ほどは、魔王様とも知らずに大変失礼しました! また過分なものまでいただきましてありがとうございます!」
「あぁ、気にしないで。正しい対応だったと思うよ。」
だから私も迷惑料ってことで彼に金貨一枚なんだよね。後で番頭にも何かあげよう……
「ありがとうございます! 失礼します!」
おじぎが九十度。ここの躾は厳しいねぇ。
「それで魔王様、お急ぎのご用とは?」
「あぁ、実は聞きたいことがあってさ。海の向こう側、バンダルゴウのシャイロック商会って知ってる?」
さて、この番頭はやり手だからな。きっとあれこれ知ってるに違いない。頼りにしてるぜ?




