525、シャイロック商会番頭アバーリオ
「立場と言われましても、私はシャイロック商会の番頭。ただの商人でしかありません」
そんなわけあるかい。ただの商人がわざわざこんな所まで来れるもんかよ。
「ではシャイロック商会はこの船をどうやって手に入れてたんだ?」
「ヒイズルのとある商会に仲介していただきました。非常に良い取引ができたものです」
んー……何か引っかかるなぁ。嘘はついてないって感じ? 村長をチラ見してみる。
『嘘はついておらぬのぉ。が、心から真実を話しておるわけでもない、といった感じかの』
村長チェックでもそうなのか。
「で、その船長の素性は? メリケインの人間だろ。」
「その通りでございます。本船、ヒガンテブランコの船長として雇い入れております」
ヒガンテブランコ? どういう意味だろ。
「雇う? メリケインの人間をどうやって?」
「こちらも同じ商会からです。本船を操るに足る人員ということで紹介していただきました」
ふーん……
「で、その商会とは?」
「申し訳ございません。先方との約束でございまして、こればかりはいかな魔王様とて話すわけにはいかないのです」
ふーん……
『嘘だの。よほど話したくないようだわえ』
ほーう? ようやく穴が見えたな。
「では船長の素性は? 歩き方を見れば分かるぜ? ただ者じゃないな。」
分かるわけないだろ。海の男ってのはどいつもこいつも体幹も平衡感覚も強いけどさぁ。
「それはそうでしょう。屈強な海の男とはそのようなものかと」
だめだこりゃ。話す気ないな。しかも嘘はついてないってところが生意気だわ。まあいいや。
「よく分かった。今日のところは帰るわ。明日は朝イチで来るからな? 例の隊長たちに合わせてもらう。約束だぜ? いいよな?」
「お帰りに? 泊まっていかれてはどうでしょう? 客室の準備も整っておりますが」
この野郎……ガン無視しやがったな? まさか私の契約魔法のことまでリサーチ済みか?
「いや帰る。代官と相談する必要があるからな。あぁそうそう。隊長たちを用意しろって話はお前らが無罪を証明するためのものだからな? 何らかの理由で話を聞けないってことでもあった場合、お前らを有罪と見なす。注意しときな。」
実行犯を消して証拠を消すぐらい普通にやりそうだからな。その時はやはり海の藻屑にしてやろう。
もっとも、今ごろはもうすでにアレク達が暴れ終わった後かもしれんがな?
「かしこまりました。そのようなことはないとは思いますが肝に銘じておきます」
「船長さんもそれでいいよな? 何やら不満そうな顔してるがさぁ?」
全然そんな顔はしてないけどちょっとつついてみた。
「申し訳ございません魔王様。彼は口下手で無口な海の男でして。不満などあろうはずもございませんとも」
番頭が喋るんかい。随分とフォローするじゃん。下手に口を開くとボロが出るってか?
「そうかい。では明朝また来る。ごちになったな。」
「悪くない味わいだったが次はもちぃと良い酒が飲みたいのぉ?」
村長も煽るねぇ。
「かしこまりましてございます」
思いっきり頭を下げてるから表情が見えないねぇ。今どんな顔してんだい?
応接室から出た。兵が待ってるなんてこともなく、下働きの女の子が一人。
意外とすんなり帰すつもりか。
「外までご案内いたします」
「悪いね。頼むよ。」
それにしてもあの野郎、追手については何も言わなかったな。やむを得ず防衛しただけってんなら追手は必要ないだろ。百歩譲ってどんな敵なのか確かめたかったのなら一言言っとけって話だよな。
これは明日突っ込んでやろう。
もっとも、可哀想に追手どもはもう帰ってこれないだろうけどな。
いくら魔物が少ないサベージ平原だからってこんな時間に歩いてりゃどんだけ魔物に出くわすことか。しかも運良く、いや運悪く楽園まで到着してしまったら……無理だな。生存率ほぼゼロだろ。堀のスライムだって危ないしさ。私としては二人ぐらいは内部まで入ってきてほしいんだがなぁ。
おっ、甲板に出た。
「ありがとね。ここまででいいよ。これ取っておいて。」
銀貨を一枚。使える時が来るのかは知らないけどね。
「ありがとうございます。お気をつけてお帰りください」
帰りも舟にしようかな。もう少しぐらい手の内を隠しててもいいだろ。
さて、今夜は……忙しくなりそうだな。




