524、応接室での攻防
へーぇ、本当に豪華な部屋じゃん。無骨な船内によくもまあこんな部屋を作ったもんだな。うちの国王の船室は広いけどシンプルだってのに。
「魔王様はスペチアーレがお好きと聞いております。お連れ様も同じでよろしいでしょうか」
「儂か? 構わんぞえ。スペチアーレは良い酒だからのぉ。」
一瞬番頭が怪訝な顔をしたな。顔と喋りが合ってないからか、それとも私と同じぐらい若く見えるのに少しも物怖じしてないからか。
おっ、来た来た。本当にスペチアーレだと嬉しいね。
「ディノ・スペチアーレの八年です。まずはお飲みくださいませ」
「悪いな。ありがたく飲ませてもらう。」
「ちと若くないかえ?」
どうだろ。八年はたぶん飲んだことがないんだよな。
んー、確かにスペチアーレっぽいな。毒でも入ってるかと思えばそうでもないし。
「悪くないんじゃない? それよりごめんね。明日はスペチアーレ男爵の所に遊びに行くはずだったのにさ。」
「なぁに構わん構わん。楽しみというものは後回しにしても楽しいものだからの。」
再び番頭が怪訝な顔をする。私が気を遣ってる相手が何者か気になるんだろう? 超VIPだぜ? もちろん内緒だけどね。村長はただの見物客だからね。
「それもそうだね。では番頭さんよ、聞かせてもらおうか。バンダルゴウからわざわざこんな北の果てまで何しに来たんだい?」
「もちろん目的は魔王様にお会いすることですとも。まさかこうしてお出ましいただけるとは思ってもみませんでしたが」
まさかとは思ったが、マジかよ。エルネスト君が楽園航路の開拓に苦労してるってのに一商会がそれに先んじてやってくるとはね。エルネスト君が言ってたんだよなぁ。シャイロック商会が厄介だってさ。この船を見る限りかなりの資金力があるってことか。おまけにメリケインとのパイプもさ。
「かなりの戦力を連れてきてるようだが楽園を乗っ取る予定でもあるのか?」
「ご冗談を。魔王様を敵に回して勝てるなどと思い上がっておらぬつもりです。ただ、この地に港があれば魔王様としても喜ばしいことではございませんか?」
ほう? 意外なアプローチで来たな。それなら私に損がないどころか得すぎる。
「港を作りたいのか? かなりの難事業になるのは分かってるよな?」
この場所だとグラスクリーク入江に港を作った時より数倍、下手すりゃ数十倍ハードなはずだ。はたして一介の商会などの手に負えるものか?
「もちろんでございますとも。そこでいかがでしょう? 魔王様にご迷惑はおかけいたしませんし、今後は冒険者の方々にも敬意を払います。どうか港の建造をお許しいただけないでしょうか?」
ふーむ。はっきり言って全然問題ない。私に得しかない話だ。だっていざとなれば全部ぶち壊したっていいんだから。
しかし、だからこそ解せないんだよなぁ。ここに港があればこいつらは大儲けできるのは分かる。バンダルゴウ周辺の海運や水運はこいつらが牛耳ってるんだったよな。だからその流れで楽園航路まで仕切るようになればザクザクのウハウハだろうさ。だからってなぁ……
「言い分は分かった。即答はできないけどな。楽園を仕切ってる代官の意見が重要なもんでな。」
「お代官リリス様でございますね。王太后様からも覚えめでたい方と聞き及んでおります。よきお返事がいただけることを期待しております」
それにしてもめっちゃ調べてやがんなぁ。いつぞやの騎士くずれとは大違いだわ。
まぁ、別に即答しても構わないんだけどなぁ。どうもこいつのペースで進んでる気がするからね。せいぜいのんびりやろうではないか。
「では最後の質問だ。お前の立場と、この船長の素性は?」
「……立場、それに素性と申しますと?」
「そのまんまだ。どういう立場で外国勢力とつるんでるんだ? どう見てもただの交易相手じゃないだろ。それから、そこの船長はどこ出身の何人かってことだよ。本当の職業もな。」
見た目は海の男だけどさ。これだけの大型船の船長がただの海の男とは思えないね。それにこいつだって番頭とは言ってるが船長より偉そうじゃん。そこんとこどうなってるのかはっきりしてほしいよね。
おっと、お代わりも頼むぜ?




