522、不審船にご推参
海辺まで到着した。したんだけどここから船まではもう二百メイルってとこかな。波打ち際には小船がいくつも並んでいる。
「せっかくだからこの小船で行こうか。漕ぐのは任せてよ。」
「ほほう。面白そうだの。ならば儂は適当に警戒しておくかの。特に『たいほう』と言ったか。かなり危険なようだからの。」
角度的に小船には当たりそうにないけど、他にも色々ありそうだからね。
「おい、夜間は船に戻るなと言われてんだろ。どうしようってんだ?」
おっと、小船の見張りかな?
「あー、隊長が戻れって言うからさ。勘弁してほしいよな。」
「あぁん? そりゃ災難だな。ったく上のモンは気楽でいいよなぁ?」
「まったくだ。そんじゃ一隻借りるぜ。」
「おお、気をつけろよ」
ふふふ。ちょろいもんだ。やはり私は演技派だな。
では漕ぎ出そう。夜の海は暗くて冷たくて怖いものだが、村長がいるから一人じゃないもんな。かなり頼もしいぜ。
「のぉカース殿よ……」
「ん? 何?」
「あ奴らは何が目的なのだろうのぉ……」
「さあねぇ。どうせろくなもんじゃないも思うけどね。もっと南の方に行けばいいのにわざわざこんな所まで来るぐらいだしさ。」
交易目的ならバンダルゴウに行けばいいのにさ。ヒイズル経由で来たのかメリケインからいきなりここに来たのかは知らないけどさ。怪しいことこの上ないね。
「ふむ、ふと空しくなってしもうての。せっかく人間と楽しく過ごしていたところにこれだ。何というか、ある種の失望を覚えての……」
あらま。なんか村長がブルーになってる……
「気が向かないんだったら戻る? こんな時は酒でも飲んで楽しむのが一番じゃない?」
「くくく、良いのか? 今は時との戦いではなかったのかの?」
そりゃあ急いでることは急いでるけどね。だからって気の進まない村長を巻き込む気はないぞ?
「いいよいいよ。気が進まないことはするべきじゃないよ。で、どうする?」
「かかかっ。戻るわけなかろう。カース殿に同行した方がよほど面白いからの。まあ人間などに期待した儂が間違っておるだけよの。くくく、この際だから人間の愚かさをじっくりと見せてもらうとするかのぉ。」
村長も面白いよ。ハイエルフってのは好奇心旺盛なのかねぇ。エルフは普遍、不変を好むそうだがハイエルフは違うってことか。
「じゃあ行こうか。そろそろ着くしね。」
「うむ。何が目的か、とくと検分してくれようかのぉ。」
甲板にはいくつかの篝火。見張りも数人。こちらに気づいているようだが、誰が乗ってるかは気にしてないのか?
「おーい! 隊長から戻るよう言われたんだけど! ハシゴおろしてくれよー!」
たぶんこの手の船は縄梯子で登り降りしてるはずなんだよね。港以外ではさ。
おっ、来た来た。全然警戒してないんだろうか。
「じゃ、先に行くね。」
「うむ。面白くなってきたのぉ。」
いきなり機嫌よくなってんだからなぁ。面白い村長だわー。もしかしてだけど、さっきのは試されてたり? 私がどんな反応をするのかさ。私としては村長が最優先だからなぁ。こいつらも気になるけど村長が機嫌良く過ごしてくれることに比べたら何ほどのこともないんだよね。
さて、着いた。縄梯子って登りにくいなぁ。
「出迎えご苦労。俺はカース・マーティン。ここから西にある街楽園の領主だ。うちの者が世話になったと聞いてな。船長に会いに来た。いるよな?」
「なっ!? 何だと!? き、貴様どういうつもりか!」
「船長に何用だと言うのだ!」
「だがたった二人でここまで来た度胸は褒めてやろう」
おおー、わらわら集まってきた。意外とみんな軽装だな。やっぱ警戒してないのか? ここらは魔物だってかなり出るんだけどなぁ。
「見ての通り丸腰だ。で、船長に会わせてくれるんだろうな?」
「ちょっと待ってろ!」
一人が走った。頼むぜ?
「ところでお前らどこから来たんだ? ここらじゃ見ない船だけど。」
船名も書いてないし旗も上がってない。メリケインってことを隠したいんだろうか。
「貴様ごときが知る必要はない。おっと動くなよ? 抵抗しなければ生きて帰れる可能性もあるからな」
言葉からはメリケインって分からないもんだなぁ。ヒイズルでもそうだったけど言葉が同じなのも良し悪しかな。
あ、また縄を打たれた。無駄に用心深いんだから。これは麻縄かな? 力尽くでは切れないけど、まぁ問題ないな。
さあ、船長はどう出る?




