517、盗難事件
「ガウガウ」
……ん? カムイか……
起こしに来たのか……
「ガウガウ」
腹がへったって? あぁ、もう夕方なのか。思いのほかぐっすり昼寝しちゃったみたいだな。つーかお前昼飯食べてないのか?
「ガウガウ」
あぁ、普通に食べたのな。まぁいいけど。さて、それじゃあ夕食は食堂まで降りるとしようか。宴会などする気はないけどここの客や従業員たちの顔も見ておきたいしね。
あれ? やけに食堂混んでない? どうしたことだ? ここは高いって聞いてるけど。もしかして冒険者の景気がいいとか?
「なあ兄さんよ。この混み具合はどうしたことだい?」
お客様である冒険者に質問。娼館なのに食堂が混んでるって不思議すぎるだろ。午前中の風呂は混んでなかったが。
「ああ? 何でもよ、今日に限ってここの食堂だけ無料なんだとよ。酒は違うけどなぁ?」
「そうなのか。ありがとよ。」
それにしてもなぜ? リリスの判断だから間違いはないんだろうけど。とりあえず空いてるテーブル発見。着席っと。
「ピュイピュイ」
おっとコーちゃん。いいタイミングで来てくれたね。やっぱり夕食は四人がいいよね。四人がけのテーブルにもぴったりだし。
「おおカース殿に嬢ちゃん。ようやく出てきたかえ。さあ、飲むとするかのぉ?」
おやおや村長まで。みんなタイミングいいねぇ。まさか待ち構えてたわけじゃないよな? しかも村長ったら女連れかよ。モテるねぇ。いや違う。ここの従業員か。村長が遊んだ分は私が出すことになってるからね。好きなだけ遊んでくれていいんだが。
「あ、あの、お館様でいらっしゃいます、よね? お、お隣失礼します!」
お館様? 私いつからそんな呼ばれ方をするようになったんだ? それより四人がけのテーブルに六人は少し狭いな。まあ他に席も空いてなさそうだからいいんだけどさ。
「構わないよ。仕事で困ったりはしてないか?」
「はい! お代官様もよくしてくださいますし! 嫌な客はとらなくていいことになってますし! 本当に働きやすいです!」
これは本音なんだろうなぁ。我が領地はとってもホワイトでいいね。
「それは良かった。女の子同士の揉め事とかもない?」
「あ……その……あります……ありますけど、その……がんばります……」
あるんかい。聞いておいて何だけど、そんなもん私に解決できることじゃないぞ?
「具体的には? 解決するかどうかはともかく聞いておきたいわね。」
おっアレク。知恵をくれるのかい?
「そ、その……何の証拠もないんですが……」
「いいのよ。聞くだけ聞かせてちょうだい?」
この女の子は私達より五、六歳は歳上だろうに。アレクと貫禄が大違いだね。
「お金が減ってるんです……」
「それは……一大事ね。リリスには相談したのかしら?」
「い、いえ、まだ……その、言えなくて……勘違いかもしれないもので……」
そりゃあリリスが知ってれば即動くわな。
「いいのよ。でも犯人探しをする意味はなさそうね。カース、どう思う?」
犯人探しか……やってらんないだろうなぁ。客か同僚か、それとも他の従業員か。色んな可能性があるわけだしな。
「お金ってどうやって保管してんの?」
盗まれるってことは想像がついちゃうんだけどさ。
「へ、部屋のテーブルの引き出しに貯めてあります……」
マジかよ……
「てことは魔力庫ないのか?」
「い、いえ、あるにはあるのですが……収納するのが大変なもので……つい後回しにしてしまって……」
あー……なるほどね。分からんでもない。魔力庫への収納ってそれなりに魔力を使うもんな。慣れてないと億劫になることもあるんだろうなぁ……
人によっては一回収納するだけで魔力が切れることもあるらしいし。世の中は不平等だよなぁ。
「分かった。実は近いうちにリリスをクタナツに連れていく予定なんだよな。魔力庫を改造するためにさ。その時君も来るといい。後日改めてリリスが希望者を募るだろうからさ。その時ちゃんと言えばいい。それまでは大変でもきっちり収納するってことで。いいかな?」
「は、はい! 分かりました!」
盗る方が悪いのは当たり前なんだけど、盗られる方が間抜けってこともあるからな。そういやここの女達って個室を与えられてるんだけど、鍵はかからないんだろうか? 各部屋に魔力錠なんてないのは知ってるが、閂とか物理的なやつなら後付けでいくらでもできそうなもんだが……
それから気になったのは契約魔法だ。リリスに絶対服従するようかけてあるんだけど、もしかしてリリスは最低限のことしか指示してないのだろうか? つい先日だって避妊魔法の使い手が嫉妬から他の女に殺されたわけじゃん? 殺すなとか争うなとか盗むなとか、その類の命令はしてないってことだよな?
リリスにはリリスの考えがあってそうしてるんだとは思うが……後で聞いてみるかな。




