516、領主の土産と代官の報告
あーー……このゆったりした時間……最高だな。
何もせず……アレクとただベッドに横たわってるだけ。左腕から左肩にかけてじんわりと伝わってくる温もり。柔らかく鼻をくすぐる香り。もうすっかり乾いた髪なのに、それでも漂ってくるアレクの香り。これが至福の時間なんだろうなぁ。
「ねえカース……カースって働きすぎじゃないかしら……」
アレクが気だるげに問いかけてきた。いや、問いかけってよりはちょっと思ったって感じだろうか。
「はは、自分でもそう思ってたとこだよ……」
でもその分報酬は貰ってるからね。それどころかどっさり多めにさ。だから全然文句などないんだけどね。
「でも明日から、いえ今日からもうお休みなのよね?」
冒険者って職業は毎日が休みみたいなもんでもあるが、私はあまり冒険者らしい生き方してないもんなぁ。
「うん。スペチアーレ男爵のところでのんびりしよう。多少は手伝うことぐらいあるかもしれないけどね。」
酒の仕込みとかそっち系は手伝えないけど狩りとか木材のカットとかなら手伝えるからね。
「それならいいの……楽しみね。」
そして沈黙。なんとも静かなひと時だね。会話すらせず、ただ横になっているだけ。若さがない気もするがたまにはこんな時間を過ごしたっていいだろう。静かで心地よいこんな時間をさ。
眠くはないけど夢うつつなんだよなぁ。なのに目を閉じると眠ってしまいそう。だけど眠ってしまうのは何となくもったいない。しばらくこの時間を堪能していたいな。
「失礼いたします。お食事をお持ちしました。」
ん……リリスの声だ。
「おお……わざわざ悪いな。あれ? 昼飯って頼んでたっけ?」
「いえ、勝手ながらご報告がてら用意させていただきました。」
おお、さすがリリス。気が利くね。
「報告ってのはナーサリーさんの件かな。どうなった?」
「はい。とりあえずはお試しで働いていただくこととなりました。期間は次に旦那様がここを訪れるまでです。ですので後ほど契約魔法をお願いできますでしょうか。」
「ああ、分かった。夕食は食堂に行くからその時にでもかけるとするよ。あぁ、そうそう。これお土産。」
モーガンジジイから没収した螺旋三稜剣だ。これでますますリリスの恐ろしさが増すに違いない。
「これは……刺突に特化した短剣、でしょうか。そしてこの臭い……毒ですね。」
毒を塗りっぱなしにしておくと武器が傷むけど、私の魔力庫の中なら関係ないもんな。今後どうするかはリリスにお任せだ。
「ああ。だから普段の扱いにも気をつけてね。名前はスパイラルソード。刺して捻るとまず助からないやつだから。」
「かしこまりました。ありがたく頂戴いたします。そして楽園に仇なす者は私がきっちりと成敗いたします。」
ふぅーう。頼りになるぅー。この楽園に来てる冒険者で正面から戦ってリリスが勝てる相手なんか一人もいない。だから必ず不意の一撃で殺す必要があるんだよね。頑張ってくれよな。
「頼むな。それから今後の話なんだけどさ。リリス近いうちに一度クタナツに戻らないか?」
うーむ、のんびりするはずが何だか仕事モードになってしまったかな?
「クタナツでございますか?」
「ああ。野菜の件とかポーションの件とか配下の装備の件とかあるけどさ。その前にリリスの魔力庫の性能を上げておいたらどうかと思ってさ。」
他には新しい魔蔵庫の購入とかさ。リリスしか出し入れできないやつとかあると便利そうじゃん? わざわざ買わなくてもドワーフがどうにかしそうではあるけど。
「大変光栄にございます。助かります。」
そこで問題が一つ。
「ちなみにリリスの魔力庫ってどこの誰が設定したか分かる?」
「いえ、申し訳ございません。若い頃の話なもので何一つ覚えておりません。」
あらまぁ。リリスの場合若い頃から波瀾万丈だもんなぁ。忘れてしまいたい記憶の方が多そうだし。まあ仕方ない。
「それならそれでいいさ。クタナツの魔力庫職人に相談しながらやってみよう。じゃ、ご苦労だった。クタナツ行きはまた今度な。」
「かしこまりました。失礼いたします。」
そう言ってリリスは寝室から出ていった。あいつも仕事熱心だよなぁ。ありがたいことだ。
「カースったらまた仕事の話なんかして。忙しいわね?」
「いやいや、面倒なことは全部リリスがやってくれるからね。こうして報告を聞くだけで済むのは楽でいいよ。さっ、食べようか。」
「ええ、冷めないうちにね?」
私達も寝室を出て居間のテーブルへ。うおっ、これランチって量じゃないぞ? テーブルいっぱいに並んでるじゃん。
スープにワインに前菜数種にステーキ? そしてパエリアっぽい麦飯かな? サービス良すぎだろ。緑鮮やかなサラダっぽいのまであるし。ここでサラダは贅沢品だよなぁ。ありがたいね。
これ食ったら間違いなく寝てしまうだろうな。満腹で夢心地な昼寝ができそうだ。




