508、道場主は胃が痛い
「はいはいはい! そこまでそこまで! これ以上やられたら堪りませんよ!」
あらら、レイモンド先生のストップが。
「すっこんでろと言っただろう! 今いいところなんだ!」
「だめです! ベルベッタさんそろそろ魔力が切れるでしょー! 魔槍に乗っ取られたらどうする気ですか!」
「ちっ、その時はその時だ……お前が斬り捨てればいいだろう……」
「無茶言わんでくださいよ! はいやめやめ! カムイ君も終わり終わり!」
魔槍に乗っ取られる……魔剣あるあるかな。私はもちろん経験ないけど、下手すると廃人になるとかよく聞くよなぁ。
「ガウガウ」
あ、カムイが離れた。
「ねっ? とりあえず休憩しましょうよ。それから弁償についてきっちり話し合いますからね? ね?」
あ、レイモンド先生目がマジだ。外壁が穴だらけだもんなぁ……あ、屋根も一部壊れてるし。
「わ、分かっている! 私に二言などない!」
「もしお金がないなら体で払っていただいてもいいんですよ?」
「なっ、お、お前レイモンドっ! まさか私をそんな目で!? だっ、だめだだめだ! 私には剣鬼が、いや違う違う違う! 私を組み伏せるほどの強者でなければこの身を任せるわけにはいかん!」
「はあ? さっきみたいに普通に稽古つけてくれればいいんですが……」
「あ、ああ! わ、分かっていたとも! この私が直々に稽古をつけるのだろう! そうとも! 値千金だろうとも! 分かっているとも!」
あれ? ベルベッタさんってこんなに面白い人だったの? なんというか、ポンコツみを感じるというか……つーかフェルナンド先生のことが好きだったりするのかねぇ。もう四十代ぐらいだろ? 二十代前半で行き遅れと言われるローランド王国でそれはどうなんだ? そりゃあフェルナンド先生も独身みたいだけどさぁ。でも先生って超モテるしなぁ。今だってエルフの女の子を二人も連れてるわけだし。
「分かっているならいいんです。明日から毎日来てくださいね?」
「ま、毎日、だと!?」
「当たり前じゃないですか。体で払ってくれるんでしょう? 最低でも一年、お願いしますよ?」
「い、一年、だと!?」
「それとも現金にしますか? 大金貨二枚あれば足りると思いますが?」
「に、二枚……ふっ、任せておけ。槍の使い手たる私だが、剣術も苦手ではない。ビシバシ鍛えてくれようぞ。」
「ありがとうございます。うちの師範はフェルナンドさんですからベルベッタさんには師範代になっていただきましょうかね。」
「む、剣鬼の下か……下……ふっ、悪くない。まあいいだろう。やってやろうではないか!」
やっぱこの人面白いな。どんだけフェルナンド先生大好きなんだよ。下とか言ってたけど明らかに妙な妄想してたよな?
「オミットの野郎にはベルベッタさんの口からよぉーく説明しておいてくださいね?」
「わ、分かっている!」
いやーまさかベルベッタさんがこんなに面白い人だったとは。今日も飲みに誘われてることだしもっと話を聞いてみたくなっちゃったよ。めちゃくちゃ飲ませてやろっと。
でも妙なことが一つ。四等星冒険者なら大金貨二枚なんて楽勝で払えるだろうに。
まあそれだけもの大金を一年働いただけでチャラとは、レイモンド先生も甘いところがあるなぁ。まあベルベッタさんの単価からするとただ働き同然な気もするが……
さて、稽古再開だな。私は隅でじっくり型稽古をやってよう。そして時々レイモンド先生にチェックしてもらえると嬉しいな。体中が痛いけど、もうひと頑張りしよう。




