353、差
ドストエフが剣にかけた二つの魔法、硬化と鋭刃。一つの剣に二つの魔法を同時にかけるのって意外と難しいらしいじゃん? それだけ魔力制御が得意ならもう魔法をぶっ放した方が早そうな気もするが……自らの手でダミアンを斬りたいってとこだろうな。
右上段、やや八相気味に構えたドストエフ。殺す気満々かよ。
片や中段、正眼に構えたダミアン。堅実だね。
「装備も貧弱なら武器も貧弱! 勝ちを目前にして驕ったかダミアン! かああーーっ!」
「くっ……」
全然だめじゃん……力任せに振り下ろされたドストエフの剣を、剣で受けようとしてあっさり折られやがった。武器でも負けてんのかよ……
「さすがだなぁ兄貴よぉ……そいつは親父殿に貰ったのか?」
「そうとも。デスメタル銀とミスリルの合金製だ。貴様ごときを斬るには過ぎた代物だな!」
「兄貴……前回そいつを抜いたのはいつだよ?」
「知らんな。だが貴様を斬った後、もう一度抜くことになるだろう、なぁ!」
「くっ……ぐうっ、くっそ……」
兄貴やるなぁ。嵐のような猛攻じゃん。ダミアンは中程から折れた剣で防戦一方。しかもどんどん短くなっていくし。
「意外に粘るではないか。だがその剣では次はもう防げまい。待ってやるから新しい剣を出すがいい」
「へっ、後悔するなよ?」
ダミアンが魔力庫から取り出したのは、先ほど私が手渡した螺旋三稜剣と見慣れない短剣。んー? 見慣れないのにどこかで見た気がするんだよなぁ。どこだったか……
「二刀流というそうだな? だが貴様のような未熟者には過ぎた技術よ。増してやそのような色物を使うようでは、終わりだ。かああーーっ!」
「おらよ!」
「無駄だ!」
「ちいっ! くっそがぁ……」
ダミアンの奴、いきなりスパイラルソードを投げたのはいいけど兄貴は避けもしない。そりゃそうだよ……あの鎧はそうそう貫けるもんじゃない。腹部にかつんと当たって終わりだし。
それでも兄貴の猛攻を短剣一本でどうにか凌いでやがる。今度は叩き斬られることもないようだが……あっ、馬鹿! 足がふらついて……
「ふっ、さらばだ。この私を相手によく戦った。父上にも勇敢だったと伝えておいてやる。死ね!」
「ダミアン!」
「ダミアぁン!」
袈裟斬り……間に合わ……え?
「なっ!?」
「悪ぃな兄貴。終わりだ。」
「ぐごっ、がはっ!? なっ、なん……だと……」
どうなってんだ?
兄貴が袈裟斬りしたと思ったら剣が折れやがった。その隙にダミアンが鎧の上から心臓を一突き……ありゃもうだめだろ。マジかよ……
「ふっ! おらぁ!」
「ががっ、ごぼっおぉ……」
えげつねぇ……少し抜いてまた刺しやがった。完全に終わったな。あれじゃ治癒魔法でも追いつかないだろ……
「ば、か、な……」
「バカは兄貴の方だぜ……その剣、全然手入れしてねぇし……稽古だって長いことしてねぇだろ……」
「ぐぁ……」
「こっちはムリーマ山脈で命ぃ張って戦ってんだよ。だから兄貴の鎧を貫けるような短剣だって手に入る。兄貴を剣をぶち折るような革鎧だって手に入るんだよ……」
あ、よく見たら……ダミアンのシャツは斜めにばっさり切れてるけど、その下に革鎧を着てやがる。ダボダボのシャツを着てたのはそれが理由か。
つーか革鎧なんかで魔法効果付きミスリル合金の剣をぶち折るって、マジかよ。それでも頭を狙われてたらアウトだったろうに。
「兄貴、最後に言っとくぜ。俺が辺境伯を目指した理由、たった一つだ。兄貴、あんたが俺の母親を『売女』と呼んだからだ。だから絶対に、この手で殺すと決めていた。勝てるかどうかは運任せだったがな……」
「な……だ、み……、……」
死んだか。
「ダミアン! 怪我はないのかい!? 大丈夫なのかい!?」
ラグナが飛びついた。
「おお。ちっとばかり疲れたが、どうにか無事だ。」
「ダミアン、それ飲んどけ。あと手首にもかけとけよ。」
高級ポーション。無事じゃないくせに。
「貸しなダミアン。アタシが飲ませてやる!」
右手首が折れてやがる。よくそれで最後の一突きが貫通したもんだ。無茶しやがって。
「セルバンティス! いるんだろ? 見ての通りだ。こんな時間で悪いが親父殿を呼んでもらえるか?」
あぁ、いつの間にやら外は真っ暗か。ここの庭、私達がいる辺りはほんのり明るいけどさ。セルバンティスといえば、ここの執事だったな。セバスティアーノさんの後釜のさ。
「かしこまりました」
暗闇からすうっと出てきて返事して消えちゃったよ。夜なのに大変だねぇ。辺境伯は今頃どこにいるんだろ?
それより、辺境伯が来るまでにダミアンには色々と話してもらおうか。どうも初耳のことが多いからな。




