352、賢兄ドストエフ vs 愚弟ダミアン
ドストエフの奴、ここから水でも流す気だったのか? 自分の仲間も下にいるってのに。
しかし残念だったな。私が降り口から身を現す時はチャンスだったんだがねぇ。我ながら隙だらけだったと思うよ? まぁ、もちろんわざとだけどさ。どっちにしても無駄な一言で逃しちゃったわけだが。
「よう兄ちゃん。めちゃくちゃやってくれたなぁ? ここらで税の納め時だぜ。」
『いたぜダミアン。ドストエフだ。合図したら登ってきな』
この伝言って届いてるのだろうか? たぶん無理かな。
「魔王……貴様この化け物め……どうあってもダミアンに肩入れするというのか!」
『風球』
とりあえず吹っ飛ばす。庭に出てから話そうじゃないか。
「ダミアン、いいぞ! 上がってこい!」
肉声の方が確実かな。
「くっ……どこぞの平民の小倅が……よくも次期辺境伯たるこの私に! 殺す! 一族郎党皆殺しにしてやるからなぁああああ!」
あ、それアウト。
『風斬』
「がっ、ぎぃやぁああがが……」
ふーん、さすが兄弟の中で魔力もダントツって言うだけあるじゃん。両手両足ぶった斬るつもりで撃ったのに。カッターで手首切った時ぐらいしか出血してない。四肢のどこからも。そしてもう塞がった。治癒魔法もばっちり使えるってことね。やるじゃん。
「出合え! 出合え出合え! 狼藉者だ! この俺に! 辺境伯家に仇なす不届者だ! 出合え出合えぇえ!」
剣ぐらい抜けよ。お前強いんだろ?
「ここまでだぜ、兄貴。」
おっ、ダミアン来たか。ラグナも。
「貴様ダミアン! このような不埒な輩を屋敷に引き入れて何のつもりか! フランティア家に連なる者として恥を知れ!」
「うるさいねぇ。あんまぐちぐち言ってんとアタシが四つ斬りにやんよぉ?」
「こぉの女狐がぁぁ……ここは貴様ごとき下賤の者が立ち入ってよい場所ではないわぁ! 消え失せろ!」
こいつ長男だけあって語彙が豊富だよなぁ。ところでラグナって別に女狐って感じじゃないよな? むしろ鬼子母神的な? 関係者以外は容赦なく惨殺するもんなぁ。
「抜けよ兄貴ぃ。最後は、最期は一騎打ちで決着付けようぜ……」
馬鹿かダミアン? 正気か……
「ふ、ふははは! 狂ったかダミアン! 貴様ごときがこの私に勝てるとでも思ったか! かはははは! いいだろう。一騎打ちだな。存分に相手をしてやろうではないか!」
「おい……いいのかよ?」
「知らないよぉ……アタシだって聞いてないんだからさぁ……」
ダミアンの奴、この土壇場で何考えてやがる。てっきりラグナにやらせるもんだと思ったから殺さないようにしてたってのに……
いくら私でも貴族同士の一騎打ちに横槍入れるような真似できないぞ。仕方ないなぁもう。
「ダミアン、これ持っとけ……」
ひょいと手渡し。
「へっ、余計なお世話だぜ。ありがとよ? さぁて……ドストエフ兄貴よぉ、ようやく抜いてくれたなぁ? 色々あったけどよ、ここらで終わりにしようじゃねぇの。」
「ほざくな愚弟! いや貴様が弟などと虫唾が走る! この場で成敗してくれるわ!」
「ドストエフ兄貴。俺はあんたのこと嫌いじゃなかったぜ? くそ真面目で融通が利かない野郎だけどよ。それでも次期辺境伯に相応しい器だったと思うぜ。俺は一生部屋住みで呑気に酒飲んで暮らせればそれで満足だったんだからよ?」
お互い剣を抜いてるくせに呑気にお喋りしてんじゃねぇよ……
「ほざくな! いつもふらふらと遊び歩くばかりの穀潰しが! しかもそのようなだらしない装備でこの私と戦う気か! いい加減にせよ!」
んー、一理ある。ダミアンって普段からラフな服装だしね。今だって素材はいいけどダボダボなシャツって感じ? 明らかに戦う装いじゃないよね。
『換装』
あらら。それに引き換えドストエフは高そうな鎧を纏いやがったよ。頭部以外はガッチガチのフルプレートじゃん。どうせ軽くて丈夫なで魔法防御もバッチリなミスリル合金だろ? 腕も装備も相手が上……ダミアンどうすんだ?
「さっさと換装を使わんか! そのまま戦うなどとは言わせんぞ!」
「悪ぃな兄貴ぃ。俺は換装なんて使えねーぜ? それになぁ、兄貴と違ってミスリルにマーキュリー銀を融かしこんだ特注品なんて持ってねーからよ?」
ほう。やっぱくそ高いやつじゃん。
「どこまでも見下げ果てた奴め……ならば是非もない! そのまま斬り捨ててくれるわぁ!」
『身体強化』
『硬化』
『鋭刃』
うっわ……ドストエフの奴め、補助魔法かけまくってやがる。殺る気満々かよ……
マジでダミアン大丈夫なのか?




