350、辺境伯邸の庭
「おうカース、行くぜぇ。」
ん? どうしたダミアン。たった今ジジイをマイコレイジ商会に運んだばかりだってのに。
「え、どこに?」
「そんなもん、ドストエフ兄貴んとこに決まってんだろ?」
「それが分からないって話じゃなかったのか?」
「まあな。でもよ、もしかしたらってとこがあるもんでよ。行くぜぇカースよぉ?」
ほう。心当たりがあるってことか。そこがだめなら次に行けばいいしね。まだ日没するような時間じゃないし。
「おう。で、どこに行くんだ?」
「決まってんだろ? 俺らの実家だぁ。」
俺ら、ね。確かドストエフって辺境伯邸とは別に自宅があるんだよな。今回はそっちじゃなくて普通に辺境伯邸ってことか。
「ああ。行こうか。」
マイコレイジ商会からだと辺境伯邸も近いしね。
到着。門番もダミアンを見るとすぐに開けた。
「こっちだ。」
おや、屋敷には入らないのか。庭に何かあるのか?
「そういやドストエフって剣や魔法の腕はどうなんだ?」
「ん? もちろん強ぇぞ? 剣はもちろんだし魔力だって俺ら兄弟の中でダントツだな。デフロック兄貴が冒険者になったのもそこら辺に理由があるしな。」
おお、二男のデフロックさん。覚えてるとも。王都の動乱の時は頼りになったよね。
「分かった。まぁ強ぇんならラグナが相手すればいいだろ。なぁラグナ?」
「おっボスぅ、嬉しいこと言ってくれるじゃないのさぁ。あいつぁ今まで散々舐めた真似してくれたんだしねぇ。きっちり四つ斬りにしてやろうじゃないのさぁ」
ラグナで勝てるかどうかは別問題だけど、まぁ丸投げでいいよね。がーんば。
「ここだぁ。デフロック兄貴から聞いたことがあってな。」
「ん? ここは物置か?」
庭の一角にポツンとある建物。物置にしか見えないね。
「おお。物置らしいぜ?」
『魔力探査』
そうは言っても気になるからチェックだ。うーん、反応なしか。
「おやぁボスぅ。えらく慎重じゃないかぁい? 心配しなくてもアタシがぶち殺してやるからさぁ」
「俺はいつでも慎重に決まってんだろ。」
当たり前だろ。
「入るぜ。カース、開けてくれ。」
「ん? お、おお。」
こんな物置に罠の可能性でもあるのか? でも何の臆面もなく誰かに頼れるのはダミアンのいいとこかもね。
うむ、特に罠はなし。中は薄暗い、普通の物置だな。
「おっ、あった。ここだぁここ。」
ダミアンが床板を持ち上げると、地下へと続く梯子が現れた。こんな物置に地下室があるのかよ。
火球でもぶち込んで終わりにしたいところだが、ドストエフ以外の者がいると悪いからなぁ……それに辺境伯んちの建物を壊すのも気が引ける。仕方ないから降りてみるか。魔力反応的には誰もいないけど……
「とりあえず降りてみるわ。」
何があるか分からないからなぁ。私が行くのが一番無難なんだよね。
『浮身』
梯子はあるけどついつい楽をしてしまうんだよね。
さて、地下室か。何があるのやら、危ね!
「よく来たな。放蕩三男の走狗よ」
誰だよこいつ。いきなり斬りかかってきやがってさぁ。私じゃなかったら死んでるぞ? つーかここ……なるほどね。だから魔力反応がなかったのか。
「ここにドストエフがいるのか?」
「さあな? 知りたければ……この私を倒すことだな!」
『狙撃』
「なっ……」
接近戦では剣の方が速いだなんて思ってんじゃないぞ?
「な、なぜだ……」
おっ、まだ元気じゃん。まあ両方の大腿部に撃ち込んだだけだしね。
「なぜ? 魔法を使えたことか?」
「くっ、なぜだ……」
ここって迷宮の魔法無効空間と似てるんだよね。まぁ似てるだけで本物じゃないけど。何らかの魔法処理は施されてるんだろうけどさ。つーかダミアンもそうならそうって言っとけってんだ。やはり私以外なら死んでるぞ。あ、もちろん村長は別だけど。
「悪いな。この程度の拘束だと何もないのと変わらないんだわ。で、ここにドストエフはいるのか? モーガンが全部吐いたからな。もうどこに逃げても意味ないぞ?」
「なっ……なん、だと……?」
はい隙あり。
『換装』
『麻痺』
「があああっっっ…………」
よし、終わり。不動を手元に出して大腿部の傷口に突っ込んで麻痺を流し込んでやった。麻痺の直通はよく効くだろ?
「おーいダミアン! 降りてきていいぞーー。」
この部屋は魔力探査が効かないから素直に全員で探すのが無難だろうな。もっとも、目に見える扉なんて一つしかないけど。




